聖夜の吸血姫さん

綾雛 柚綺/梅雨華

聖夜の吸血姫さん

あ、おかえりー。



【 パタパタと部屋の奥から聞こえてくるスリッパの音 】



寒かったでしょー。ほら!



【 ほっぺに掌を当てる 】



あっはは。ほっぺた冷たーい。

身体が冷え切っちゃうくらい頑張ってきたんだねー。

えらいえらい。



【 頭をなでる 】



あ、その手に持ってるものって……もしかしてケーキ?

えー、やったぁ♪ 嬉しいな。でも、ね?


ごめん。アタシもケーキ、買って来ちゃってて。てへ★


えー、ここは思考のシンクロを喜ぶところでしょー?


って、まぁ。うん。分かってるよ。

顔に出すぎ。あっはは★


そうだよー。だってさっきからニヤニヤしっぱなし。

どうせやらしー事でも想像してたんでしょ。

例えば――って、女の子に何言わせようとしてるのさ!

ほーんと……えっちなんだから。


そーんな事よりも!

あと少しでご飯できるから。

お風呂、入ってきちゃいなよ。


え?

んふふ。もっちろん!

クリスマスだからねー。

気合い入れて、精の付くラインナップになってるよ。

ぜーんぶ、アタシの手作りだからさ。

期待しながら、アナタはゆっくり身体を温めてきて?


はーい、行ってらっしゃい♪






【 脱衣場にて。バスタオルを用意している最中 】



あ、お風呂あがった?

うん、たっくさん温まってきたようで何よりだよー。

しっかし……お風呂上がりのアナタってさ。

ほーんと、色っぽいよねぇー。


うん。

とーっても、色っぽい。

ねぇ、そろそろ……いいかな?

えへへ……それじゃあ、よいしょっと。



【 首に手を回して抱き着く 】



少しだけ、いただきまぁす……♥



【 首筋に歯を突き立てる音 】



んくっ、んくっ……ぷはっ!

ペロリ。

えへ、えへへへへ。

ほんと、アナタの血って。

美味しすぎ……ペロ、レロレロ。

んふふ。首筋舐められるとゾクゾクする?

アナタここ舐められるの、好きだもんねー。レロレロ。


って、危ない危ない。

まだご飯がまだだった。

今日のアナタの血が特別美味しかったから、ついね。

気持ちが高ぶりすぎて、押し倒すところだったよ。


だーめ。

そういう事は、ちゃぁんと栄養を取ってから、だよ?

じゃないと、途中で色々大変な事になっちゃうから。


はーい、よろしい。

それじゃあリビングに行こ?






【 食卓に着く音 】



えへへ、良い反応だね。

その反応を期待してたから、とーっても嬉しい♪


そうだよー?

お互い、今夜は体力が必要になると思って。

量もだけど、質にもこだわってみました!


え? あからさますぎる、って?

だってぇ……今朝アナタがお仕事に行ってから、夜が来るのをずぅーっと楽しみにしてたから。

気付いたら、こんなに作っちゃった。てへっ★


んふふ、アナタならそう言ってくれる信じてたよー?

なんだかんだ言って、アナタも楽しみにしてた事、お見通しなんだから。


って、あっ……首から血が滲んでる……

ごめん、もう少し時間を置いてから吸血すればよかった!



【 慌てて動く音 】



えーと、応急手当しなきゃ。消毒液と、絆創膏と。あとは、えーっと、えーっと……


え、急に何して……うむっ!?



【 軽いキスをする音 】



ぷぁ!

い、いきなり何するかなあ!?

急にキスなんてされたら、ドキドキしちゃうよ……


え?

『応急手当ならすぐに出来るだろ』って?

そんな、どうやって……あ。


もぅ。

さっき〝そういう事は後で〟って言ったばっかりなのに……

はぁ。分かりました。わーかーりーまーしーたー!

……アタシの唾液で、止血してあげる。

はい。それじゃあ首筋を出して?


それじゃあ、いくよ……?

ン。レロレロ……レル、レロォ……


ん?

『遠慮してるだろ』って……それはそうだよ。

あんまり舐めすぎると、その。

スイッチ、入っちゃうでしょ……?


もぅ、そんな事言って。

でも、ほんとにだーめ!

それに、はい。終わり。

もう血は止まったから、ね?


それじゃあ今度こそ!

夜ご飯にしよ! ねっ?


はーい、それじゃあいただきます!






ごちそうさまでした!

んぅーー! 美味しかった!

我ながら良い出来だったぁ。

人間のご飯も美味しいよねぇ。

工夫1つでここまで美味しくなるとは……恐るべし、人間食。


あー、でもアタシがいっちばん好きなのはぁ。

後にも先にも、1つだけー。

えへへー。

そう。アタシが大好きなのは、アナタ。

アナタの血も、アナタの体温も。

アナタの香りも、ぜーんぶ。

アナタの全ては、アタシのモノ。

他の人には、渡してあーげない♪


……知ってるんだよ?

何をって?

もう、鈍いなぁ。

アナタ、今日他の人に目移りしてたでしょ。

感じ良さそうな人だったもんねぇ……好意を寄せられて、嬉しかったんだ。

デレデレしちゃって。

さぞかし気分が良かったんでしょーねー。


何で分かったのかって……忘れたの?

アタシの能力。

吸血鬼のお姫様だけが持つ、固有能力。

望むと望まざるに関わらず、強制的に記憶を見せられるんだから……たまったものじゃないよねぇ?


ふーん。

そうやって言い訳するんだ。


いいですよーだ。

どうせ人間じゃないアタシより、人間の方がいいんでしょ?


こんな気味の悪い能力を持ってる、文字通りの〝人でなし〟の相手なんて、嫌だよね……


へぇ、違うんだ。

じゃあ何でワイシャツにキスマークなんてモノが付いてたのか、説明してくれる?


『知らない』『覚えがない』?

はぁ……まぁ、そーでしょうねー。

分かってる。分かってるよ。

あれはアナタの目を盗んで、こっそりと気付かない様につけられたものなんだから。


あんまりにも強い感情だったから、アナタの血に混ざり込んだんでしょうね。

確かに、アナタの記憶には――ちゃんと一線を引いて対応してた姿があったもの。

でも。

アタシとしては……複雑。

あーんな見え透いた、下心満載の好意にさ。

一瞬でもアタシが負けたのは。

すっごい複雑なの!


ええそうですよ、ヤキモチですよ!

当たり前でしょ!?

アナタの事を一番愛してるのはアタシ。

アナタの事を理解して、寄り添って、心も体も芯から温められるのは、アタシ!

そう思っているのはアタシだけ?

アナタは……違うの?


分かってる。

分かってるの!

アナタは一貫してアタシの事を考えてくれてた。

相手の下心をいち早く察知して、大人の対応をしてた。

その間も、アナタの心はアタシの事だけを想ってくれて。

アナタの愛は、アタシだけに向けられてた。

だから……アナタの事を責める事は出来ないの。

ホントは、あんな奴に流されないでいてくれた事を褒めてあげて……安心させてあげる事が正しいんだってことも、分かってる!

でも、でも……!

アタシはそこまで、大人じゃいられない……!



【 不安が溢れたように、泣き出す 】



アナタの中でアタシが一番じゃなくなるのが怖い。

アナタの愛が他に移ろう未来が怖い。

いつか必ず訪れるであろうアナタとの別れが……怖い。

アナタの感情が、温もりが、記憶が。

失われるのが……怖い。怖いよ……!


んぅっ!?



【 前半は唇をつつき合うようなキス、後半は熱のこもったディープキスを10~15秒程度 】



ん……ぷはっ!

はぁ、はぁ、はぁ……ちょ、ちょっと待って。息、苦しいから。ちょっと休ませ――んぅ!?



【 ディープキスを20秒程度。キスの終わり際は相手の背中をタップする 】



ぷぁっ!

はぁ、はぁ、はぁ……!

い、いきなりこんな激しいキスなんて……一体どういう――


え?

『分からないのか』って……何をんぅ!?



【 ディープキスをされるが、今度は演者側でキスを中断する 】



んぷぁっ! 待って! 分かった、分かったから!


『何が分かったか』って、それは……


いや、ちょっ! 待って、またキスしようとしないで!

これ以上はホントにヤバいから!

色々ホントにヤバいからっっ!!


それは、その……

何となく、分かった気が、する……よ?


だって、アナタ……キスの最中にわざとほっぺの内側を噛んで……アタシに感情を流し込んできたから。


それだけじゃない。

これまでの楽しかった記憶、ケンカした記憶――色んな〝幸せ〟が詰まった記憶が流れてきたから。


どの記憶にも、そして流れ込んだアナタの感情にも。

アタシの事が大好きだっていう、強い気持ちが……伝わってきたから。


だから、少し。

いや、かなり……安心した。


え?

『種族差の寿命から来る別れは避けられないけど』?

避けられないなら――何……?


『キミにとっては瞬きの間くらいの時間でも、その一瞬が色褪せないような思い出を作ってみせる』……?


『自分という存在が忘れられなくなるように、魂の奥底まで自分という生き方を刻み込んで、みせる』……――っ!


ほん、とうに……?

アタシの事、独りにしない?

ずっと、ずぅーっと。

アタシの傍に居てくれる?

アタシの事、愛してくれる……?


う、うぇ……ぐす、ぐすっ。

ふぇぇぇぇぇぇええええええ!


約束、だよっ?

ホントのホントに、約束っ、だからねっ……!!

アタシの事、独りにしないでっ!

もう独りは嫌……嫌なの。

もう寂しいのも、何かを失うのも……嫌なの……!


アタシをアナタの一番にして!

アタシを一番にしてくれるなら、絶対に後悔させないから!

アナタの選択が間違いじゃなかったって!

年を取って、眠りにつくその時まで。

アナタの事を愛し続けるからっ!

最期の最期まで、寂しい思いはさせないからっ!

幸せだった、って笑顔で逝けるようにしてあげるからっ!


だから、お願い……

アタシをアナタの、一番にして……っ!


ぅんっ……



【 蕩けるような、熱く優しいディープキス 】



ん……えへ。

ちゃぁんと、伝わってきたよ……アナタの気持ち。

蕩けるような、甘くて濃い気持ち。

これまでのどんな感情よりも、大きな親愛の証し。

凍える様な孤独の時間を、優しく溶かしてくれるような、幸せな誓い。

ホントに……だぁーい好きっ!



【 飛び跳ねる様に相手に抱き着く 】



えへへ。

アナタ?

うりうり~。

んー?

んふふ、何でもなーい♪

ね、ご飯も食べ終わったしさ。

2人で寝室に行かない?


……うんっ!

あ、でも。

ごめん、アタシまだお風呂入ってなかった……てへっ★


それじゃあ、急いでお風呂入ってくるね!

え? アナタも一緒に入るの? さっき入ったのに?


『どうせなら2人で入った方が温まるだろ』って?

んふふ、それもそうだね!

それじゃあ久しぶりに。

一緒に入ろっか、お風呂!




【 浴室にて 】

〈 可能ならエコーありで 〉



ん~~! 温かくて気持ちいぃ。

それにいい香り~♪


うん。

五感でリラックスしてるからかな。

アナタの体温……お湯越しでも伝わってくる。

はぁ~~、しゃぁわしぇ♥


ねぇ、覚えてる?

初めてアタシたちが出会った日の事。


そうだったね。

初めはアタシも……アナタに下心しかなかった。

その日の宿と吸血できる相手を探しててさ。

疲れて寂しそうなアナタを見つけて。

「あ、こいつ絶対チョロいわ」なーんて、心の中では馬鹿にしてた。


「こいつも同じ。醜い欲望を満たす事が出来ればそれでいい奴」なんだって思ってたもん。

だって、他の人間もさ。

ちょーっと誘惑したら、すぐに優しくしてくれるんだもん。

笑っちゃうよね。

アタシも同じこと、してたくせにさ。


え?

『あの時のキミは吸血鬼というより、サキュバスみたいだった』――?

あー……アハハ。

実はね、ちょっとした繋がりで、サキュバスの友達がいてさ。

人間を誘惑したり、魅了するコツ? というか、術式というか……そういうのを教えてもらった訳で。


ちょっ……そんなあからさまに溜息つかないでよ! 傷つくなぁ。


それに、勘違いしないで欲しいんだけどね?

ちゃんと貞操は守ってたんだよ?

まぁ、ちょーっとグレーな方法ではあったけどね?


そんな意外そうな顔しないでよー!

そりゃ簡単に奪わせる訳ないでしょ?

魅惑とその他諸々のワザを使って、朝までぐっすりコースにさせてたよ。

もちろん、あーんな事やこーんな事をして、キモチイイ夢を見られるよう調整してね★


あー……はは。それは……


はい、その通りです。

アナタにも同じ事しようとしてました、ごめんなさい。


ほんと、大誤算だったよ。

まさかアタシの色仕掛けが効いてなかったなんてさ。


アナタのお家に到着したら、玄関で急に倒れちゃうんだもん。

あの時アタシがどれだけビックリしたことか……しかも倒れた理由が『眠すぎた』なんて。


そーだよ!

ホントに反省してよねー。

いまそれやられたら……絶対冷静じゃいられないから。


ぷっ、あはは!

あー、笑いすぎてお腹痛い。


でも、ホントに嬉しかったんだよ?

初めてだったの。

アタシに手を出さないどころか、憐れみの感情すら向けずに。

まさかアタシをお家に泊めた理由が〝一目惚れ〟だったなんて……ねぇ?


実は眠っている内に、ちょこーっと血を飲ませて貰った時に、ね。

あんまりにもアタシへの好感度が高すぎて、ドキドキしちゃったんだよ?


それからは〝初めて〟の連続で……アナタとの生活が、みんな輝いて見えたの。

生まれて初めて、生きてて良かったって――思えた。

全部、全部全部。アナタのおかげなんだよ……ちゅっ♪



さ!

あんまり長い間湯船に浸かってると、のぼせちゃう!

はーい、それじゃあ椅子に座って!

お身体を洗っていきますねー♥





【 湯浴みを終えて、寝室へ 】



ふぁぁぁ、ベッド気持ちいぃ~♪

なんか、いつもよりフカフカしてる気がする。


わかってるよ。

〝アナタ〟と、一緒だから。

ううん。

〝大好きな人〟と、一緒だから。

いつもの景色が、輝いて見えるんだ、って。


えへへ。

アナタに頭撫でられるの、大好き。

アタシの事が大好きなんだな~って、伝わってくる。


ん? なぁに?

『渡したいものがある』……?

わぁ、なんだろ~?

内容からして、クリスマスプレゼントかな?

楽しみすぎて日中しか眠れないよ~。

え?

『それはいつも通りの生活だろ』って?

えへへ、バレちった。


う、うん……?

なんだか、真剣な雰囲気だね。

茶化してゴメン。


……これは?

小さい、箱?

アクセサリーボックスかな?

『開けてみて』って……わかった。


――これって、指輪?

綺麗……え? おそ、ろい?


はあ。うん、聞きます。


『私と結婚してください』……?

はい、喜んで……?


って、結婚んんんんんんんん!?

いや、ちょっ、まっ……結婚だよ!?

アタシたち、種族違うんだよ?

人間じゃないんだよ?

寿命も何もかもが違くて、それで、それで――ぅむっ!?



【 突然キスで口を塞がれる 】



んっ……いいの? アタシで。

えへ、それもそうだね。

アタシが言ったんだよね。

『アナタの一番にして』って。


うん。約束。

アタシを選んだ事、絶対に後悔させないから。


『告白の返事は』って……もぅ。

そんなの決まってるでしょ?


はいっ、喜んで!

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