桐谷麻里子の心理捜査ファイル~アイドル誘拐事件~

@takumi_gpt

第1話 事件発生

捜査本部の一角で、ベテラン刑事の桐谷麻里子は捜査資料に目を通していた。40代半ば、肩までかかる黒髪には僅かに白いものが混じり始めている。顔立ちは整っているが、化粧気はなく、眼鏡の奥の鋭い目が彼女の本質を物語っていた。


20年のキャリアを持つ麻里子は、学生時代から犯罪心理学に深い興味を抱き、以来、独学で学び続けてきた。刑事として現場を歩きながら、海外の論文を取り寄せ、休日には地元の図書館に籠もり、膨大な事例研究を読み込んだ。


現場の刑事たちからは、いつしか「プロファイラー」と呼ばれるようになった。事件現場では証拠品を前に黙考し、取調室では容疑者の仕草や発言を注意深く観察する。


若手刑事たちは、麻里子が犯人像を的確に言い当てる様を何度も目の当たりにしてきた。「桐谷さんなら、きっと犯人が分かる」——そんな信頼が、いつしか捜査本部に定着していた。


だが麻里子は、その呼び名を決して名乗らない。「私はプロファイラーではない。ただ、人間を理解しようとしているだけ」——それが彼女の口癖だった。犯人を追い詰めるためではなく、人の心の奥底に潜む動機を知りたい。その純粋な探究心こそが、彼女を突き動かしていた。


**◆**


11月某日、日本中に衝撃が走った。


「速報です。国民的アイドルグループ『スターライト』のメンバー、愛沢ミナミさんが何者かに誘拐されました。犯人と見られる人物から所属事務所のSNSアカウントに謎のメッセージが届いています。愛沢さんは一昨日の夜、SNSに『今日も応援ありがとうございました! おやすみなさい💤』と投稿した後、連絡が取れなくなっています」


愛沢ミナミは、昨日行われたダンスレッスンには姿を見せず、マネージャーが自宅を訪ねたものの応答はなかった。玄関の鍵は施錠されたままとなっており、部屋には争った形跡や侵入された痕跡などは見当たらなかったという。


そして今日。愛沢が所属する事務所「イズミエンターテイメント」の公式SNSアカウントに、一通のメッセージが届いた。送信者は匿名アカウントで、ダイレクトメッセージの形で送られてきたという。事務所のスタッフが発見した時には、その異様な文面に言葉を失ったと言われている。


「愛沢ミナミは現在、私の管理下にある。彼女は誰も辿り着けない場所で、静謐なる時を過ごしている。諸君らが日々追い求めるその輝きは、私という存在を介してこそ、真の意味を獲得するのだ。この計画の完璧性を、やがて世界は理解せざるを得ないだろう。何故ならば、この緻密なる構想は、凡庸なる大衆の理解を遥かに超越した、高次元の思考の産物に他ならないからである。彼女の安全は——私の計画が妨げられない限りにおいて——保証される」


このメッセージを発見した事務所スタッフは即座に上層部に報告。緊急会議が招集された。社長以下、マネージャー、広報担当者、法務担当者が集まり、対応を協議した。


「これは誘拐だ。すぐに警察に通報すべきだ」と主張する者もいれば、「メディアに漏れたら大騒ぎになる。慎重に動くべきだ」と警戒する声もあった。だが最終的には、愛沢ミナミの安全を最優先するという判断が下された。


事務所は直ちに警視庁に通報。同時に、メンバーやスタッフには箝口令が敷かれ、外部への情報漏洩を徹底的に防ぐ体制が取られた。


だが翌朝には、一部のメディアが「国民的アイドル行方不明」のニュースを報じ始め、事態は瞬く間に全国に知れ渡ることとなった。



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