第3話:悪夢の手術場、運命の火花

「うふふふふ……もう直ぐだからねー」


 その男は、待ちわびていた瞬間を前にして嬉しそうだった。


「僕の可愛い蘇生機械人間、第1号君」


 手術台に横たわっている死体の少年、もとい患者の手に頬ずりをして、

彼は更に笑った。


 メガネがきらりんと光る。


 あぶねー。

 こいつマジあぶねー。


 患者の体内へ、全身に接続された電極から高圧の電流が流し込まれる。

 その後、一定の間隔で患者である少年の身体が、ぴくんぴくんと痙攣し始めた。


「はあ、それにしても……第1オペ室担当の薺沢なずなざわ君のところには無茶苦茶たぁ~っくさん予算が行くのに、何で僕の所には来ないの?」


 蛍光色の液体の入った注射器を見つめ、銀縁眼鏡に白髪交じりの医師が、歯ぎしりをしながら隣の看護師に愚痴をこぼす。


「実戦では僕が作り出してきた改造体の方が、遥かに役に立つと思うんだが?」


 首を傾げ、こめかみを搔きながら訝しげに呟く白髪眼鏡。


「コストの問題じゃないですか?」

 

 別な女性看護師が答えた。


「あ?」


「この少年を改造体にする為のコストです。先生ご存知無いんですか?」


「わしゃ知らん」


 胸を張って自慢げに答える白髪眼鏡。


「義体改造化をするにはですね、手足が1本2千万。人工骨格及び筋肉の形成に1億。体内の人工心臓、動力反応炉は5億です。他にも制御系のAIや生体を維持する為の機能的……」


 看護師はマシンガンのごとく喋り続ける。


「私はお金については専門外だ。他を当たってくれ」


 几帳面そうな看護師を煙たそうに横目で見ながら、白髪医師は投げやりな小さな声で呟いた。

 そして何か思うところがあったらしく、渋い声を手術場に響かせた。


「……考えたら猛烈に腹が立ってきた、くそ、こうなったらこの手術、もう一つのプランも突っ込んでやる。MG2コントロールシステムインストール!」


 ベテランらしい看護師は諦めたように肩を落とし、自分のなすべき作業に集中した。


 そう言う問題なのか?

 お前の担当部署の、来年度の予算はこれでゼロだ。


 執刀医師も手術内容もめちゃくちゃではあるが『改造』手術は、それなりに進んでいる様だった。


「被験体、反応安定しました。数値正常。いけます」


「おっしゃー。ではいよいよクライマックスに突入するぞー。んじゃあ、取り敢えずペンチとはんだごて」


 トンデモ医者のイカレ手術。

 被験体、もとい患者の運命は……?


 手術場の冷たい蛍光灯の下、機械音だけが響いていた。




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サイボーグ・グラフィティ ママンマフィン @mamanmafin

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