SST5
渋谷かな
第1話 SST5 楽する天才
SST5 「楽する天才」
羊の村。
「師匠! 早く稽古をつけてください! 俺はシエルを助けに行きたいんです!」
悪魔に目の前で妹のシエルをさらわれた兄アルクは焦っていた。
「まずは破壊された村の復興を手伝いなさい。」
アルクの師匠のアリエス。
「そんなことをしている暇はありませんよ! 俺は強くなりたいんだ!」
「あなたが弱いから、基礎体力作りをしなさいと言っているんです。」
「ズコー!?」
遊び惚けていたアルクは、カード使いとして基礎がなっていなかった。
「今まで、ダラダラ文句ばかり言って真面目に修行をしなかった報いを受けているのです。」
「す、すいません。」
痛い所を突かれて小さくなるアルク。
「本当なら、今頃あなたは、私の牡羊座のカードを引き継いでいなければいけなかったのですよ。そうなっていれば、シエルを悪魔にさらわれることもなかったでしょうに。」
「うっ!? 胸が痛い!?」
グサ! グサグサ!
「どうして、俺は真面目に修行に取り組まなかったんだろう? もしも俺が強ければ悪魔にシエルをさらわれることもなかったのに!?」
アルクは今までの自分の生き方を、初めて後悔した。
「人生に遅いということはありません。今からでも真面目に修行すればいいのです。」
「さすが師匠! どこまでもお供します! なんでもやります!」
アリエスの説教に、アルクは救われる。
「いいでしょう。私が稽古をつけてあげましょう。」
「やったー! 強くなって、シエルを取り戻すんだ!」
兄は妹を心配していた。
「それでは・・・・・・困っている人を助けてください。」
「はいっ?」
「畑にスライムが大量に現れたそうです。それを倒してきてください。」
師アリエスの修行は、困っている人を助ける、畑のスライム退治であった。
「ええー!? 何でですか!? 俺は師匠に修行をしてもらいたいのであって、畑のスライムなんて、どうでもいいんですよ!?」
アルクの不満が爆発する。
「黙りなさい!」
子供を一蹴するアリエス。
「ヒイイイイッ!?」
普段、怒らない師匠が怒ったので恐怖するアルク。
「畑を平和に戻すまで帰ってこなくて結構です。」
言い放ち教会の中に入っていくアリエス。
「そ、そんなあ!?」
渋々だが、諦めてタマネギ畑に向かうのであった。
羊教会。
「お許しください。」
主に懺悔するアリエス。
「私が甘やかして育てたばっかりに、アルクをダメ人間にしてしまいました。」
アルクが自堕落、何もしない、努力もしない、行き当たりばったりの人間になってしまったことを後悔する。
「育ての親としての、私の罪です。」
自分の罪を認める。
「お許しください。ステラ・ソラリス様。」
なぜかステラ王国の初代建国の女王に許しを請うていた。
玉ねぎ畑。
「うわあ!? 玉ねぎばっかり!?」
アルクは玉ねぎ畑にやってきた。
「バカモンー!!!!!!」
すごい威圧的な大声が聞こえてくる。
「魔王か!?」
「こら。誰が魔王だ。誰が。」
畑には、農家のおじさんがいた。
「あれは、たまにぎスライムだ。他にじゃがいもスライムや、かぼちゃスライムもいるぞ。」
畑で獲れる作物がスライム化している。
「爺さん、誰?」
「私の名前はオニオン。おまえはなんだ? わしはアリエス様に来ていただきたかったのに。」
畑の所有者のオニオン爺さんが現れた。
「師匠が来なくても大丈夫ですよ。俺が畑のスライムを追い払ってあげますよ。任せなさい!」
自信満々のアルク。
「大丈夫かのう? 心配じゃ。」
不安しかないオニオン爺さん。
「アルクの名において命じる! いでよ! 俺のお友達たち!」
アルクは、カード使いらしく、カードから契約しているお友達を呼び出す。
「ワンワン!」
「ニャアニャア!」
可愛い犬や猫たちが現れた。種類は、チワワ、ミニチュアダックスフンド、ペルシャ、アメリカンショートヘアなど多種多様。
「さあ! みんな! 畑のスライムを退治するんだ!」
「ワン!」
「ニャア!」
犬と猫たちがスライムに襲い掛かる。
「うんな!? アホな!?」
異様な光景にオニオン爺さんはおったまげる。
「スラ!」
「ワンワン!」
「ニャア!」
「スラスラ!?」
畑で、玉ねぎと犬と猫が争っている。
「おまえ、どうやって犬や猫に戦いを教えたんだ?」
「簡単ですよ。僕が何もしなかったので、お友達の犬や猫が仕方がなく、家事や戦いを覚えてくれたんです。」
「ズコー!?」
さすがのオニオン爺さんもコケるしかなかった。
「おまえ! 自分で戦えよ!」
「いや~あ。今まで平和だったので、自分で何かをする必要がなかったんです。アハッ!」
危機もなければ自分を鍛える必要がなかった、完全に平和ボケだったアルク。
「キャンキャン!?」
「ニャア~!?」
しかし、押していた戦いが劣勢に回る。
「クワクワ! スラスラ!」
新種の畑を耕す、鍬スライム。鍬という狂気でカワイイ犬を襲う。
「トラトラ! スラスラ!」
トラクター・スライム。大型のスライムで猫たちを吹き飛ばす。
「デンデン! スラスラ!」
電気柵スライム。触れると感電ショック。
「カカカカ! スラスラ!」
案山子スライム。・・・・・・立っているだけ。
「案山子は田んぼでしょうが!?」
「ツッコむ所は、そこか!?」
畑関連の新種のスライムたちは、作物スライムとは比べ物にならないくらい、強かった。
「おまえのやっていることは、ただの動物虐待だ! 自分で戦え!」
オニオン爺さんは、アルクの人任せ? 犬猫任せの態度にムカついた。
「た、確かに犬や猫たちに芸を仕込んだのも妹だし。」
正しくは、シエルが餌をあげるから犬と猫たちに手伝ってもらっていた。決して、アルクの人望ではない。
「犬や猫で、モンスターに敵う訳がないだろうが。地道にモンスターを倒して、カードを手に入れて、モンスターを仲間にして、戦って経験値を稼いでレベルアップさせて強くしていくしかないだろうが。」
オニオン爺さんの年の功。カードが全ての世界を物語っている。
「ええ・・・・・・面倒臭い・・・・・・。」
自堕落なアルクは、地道にコツコツ頑張ることに拒否反応を示す。
「愛情を注いで育てていかないとな。」
「そんな従来通りプレイしていたんじゃ、妹を助けに行けない!」
少しだけアルクが気合を入れる。
(考えろ! どうすれば、この状況をひっくり返せるのか!?)
「・・・・・・。」
アルクは考えた。
「・・・・・・。ダメだ! 思いつかない!? 撤収! みんな! カードに戻れ! 退却だ!」
「ワン!」
「ニャア!」
犬や猫たちはアルクのカードに戻っていく。
「作戦を練り直すので、ご飯を食べさせてください。アハッ!」
アルクはお腹が空いただけだった。
「危ない危ない!? またズッコケる所だっ・・・・・・なっ!?」
その時、オニオン爺さんは、気づいてはいけないことに気づいてしまった。
(こいつ!? 可愛い犬や猫たちなので気づかなかったが、どうして、こんなにたくさんの動物を従えることができるんだ!?)
普通の人間はカードを2、3枚くらいしか使えない。しかし、アルクは約20匹前後の犬や猫たちを従えている。
(もしかしたら!? こいつはとんでもなく、すごいのか!?)
オニオン爺さんは、アルクの可能性を感じてしまった。
夜。
「ああ~、疲れた。」
何もしていないのに、アルクはフラフラに疲れていた。
「何か良いアイデアはないかな?」
(犬と猫で陣形を組んで、スライムを一匹ずつ倒していくか? 犬や猫では戦っていけないから、スライムのカードを手に入れて、地道に成長させていくか?)
次々とアイデアが浮かんでくるアルク。
(ダメだ! 時間がかかり過ぎる! 早くシエルを助け出さなければ!)
妹思いの兄でもある。
(シエルがいないと、俺が楽できない。)
ちょっと動機は不純。
「うおおおおおおー!」
(どうする!? どうすればいい!? どうすれば、この難局を乗り切ることができるんだ!?)
楽を考える天才は考えに考えまくった。
「愛情を注いで育てていかないとな。」
ふとオニオン爺さんの言葉を思い出した。
ピキーン!
「そうか! その手があったか! これで今夜も熟睡だ! やったー!」
果たして何を閃いたのか。
次の日の玉ねぎ畑。
「玉ねぎスライムども! 俺の本気を見せてやるぜ!」
気合十分のアルク。
「今日こそはスライムを退治してくれよ。」
オニオン爺さんも見守っている。
「任せてください。今から俺の実力を見せますよ。」
不気味に自信のあるアルク。
「アルクの名において命じる! いでよ! お友達の騎士たちよ!」
アルクは、カードからお友達の犬と猫たちを呼び出す。
「ワン~!」
「ニャア~!」
しかし、犬と猫たちの様子が変だ。
「いけ! 犬猫騎士団よ!」
「ワン!」
「ニャア!」
なんと、犬と猫たちが鎧を着て、剣を持って日本の足で立っている。
「ワンワン!」
犬騎士のチワワが駆け足の如き速さで襲い掛かかる。
「スラ!?」
初めて見る得体のしれない者に、畑スライムの方が驚き戸惑っている。
「ニャニャニャニャ!」
「ギャアアアアアアー!」
猫騎士のペルシャが、なぜか!? 火の魔法ファイアを使い、スライムを炎に包む。
「おお! いいね! いいね! これだよ! これ! 俺が求めていたものは!」
自画自賛するアルク。
(こいつ!? もしかして本当に天才か!?)
正に夢の国が忘れた、夢と希望にたどり着いた楽したい天才。
(犬と猫を騎士にするなどという発想が、こいつのどこから生み出されるというのだ!?)
オニオン爺さん、脱帽し、腰を抜かす。
「ワン!」
「ニャア!」
「ギャアアアアアアー!」
トラクター・スライムをスピードで攪乱し、ヒット・アンド・アウェイのコンビネーションで倒す。
「ワワワワワン!」
犬騎士プードルが、つぶらな瞳で肉球爆弾を放り投げる。
ドカーン!
電気柵・スライムも触れなければ、どうということはない。
ジャー。
「ワン。」
案山子・スライムは、機嫌の良い犬騎士シバにおしっこをかけられるだけ。
「すごいじゃないか! 俺の犬猫騎士団! ワッハッハー!」
いいえ。鍛えたのは妹であり、兄アルクは何もしていません。アハッ!
「オニオン爺さん。これで玉ねぎ畑も元通りですね。」
「そ、そじゃ・・・・・・。」
ズドーン!!!!!!
倒されたスライムたちが、案山子スライムに集合し、一つに固まっていく。
「スラスラ!」
巨大な玉ねぎスライムが現れてしまった。
「こら! シバ! おまえがおしっこなんかするからだぞ!」
「ワン・・・・・・。」
案山子スライムの祟りである。
「スラスラ!」
キング・オニオン・スライムが口から、さつまいもやカボチャを吐き出して攻撃してくる。
「ギャアアアアアアー!」
犬や猫は華麗にかわすが、アルクとオニオン爺さんは必死に避ける。
「ここはひとまず、帰って、お昼にしましょう。」
「逃げるな! あんな化け物を置いて、畑を去れるか!」
「チッ。」
アルクは逃げ出した。しかし、オニオン爺さんに回り込まれた。
「責任を取れ! 何とかしろ! あいつを倒すまで返さないからな!」
責任・・・・・・アルクとは無縁の言葉である。
「う~ん。」
(考えろ!? 考えるんだ!? きっと何か、この危機を乗り切る策があるはずだ!?)
「・・・・・・。」
しかし、良いアイデアは思い浮かばない。
(困ったな。何も思い浮かばない。・・・・・・こんな時に、シエルならどう考えるかな~?)
アルクは妹のことを思い出した。
(お兄ちゃん! 少しは働いてよ! みんな、一丸となって掃除をしているのよ!)
(怖っ・・・・・・。)
毎日、シエルの怒鳴り声ばかり聞かせれてきた自堕落な兄。
ピキーン!
「そうか! その手があったか! ありがとう! 我が妹よ!」
アルクは何かを思いついた。
「スラスラ!」
キング・オニオン・スライムがニタニタ笑っている。
「スライム! おまえの好きにはさせないぞ! カード使い見習い! アルクが命じる! カードよ! 一枚になれ!」
複数のカードをアルクがカード・マスターの能力で1枚にまとめる。
「ワン?」
「ニャア!?」
カードが1枚になることによって、犬と猫たちが一つに合体していく。
「ワンニャアー!!!!!!」
超合金ロボットではないが、犬猫騎士ワンニャアが爆誕した。
「犬と猫が合体した!? これは禁忌だ!?」
オニオン爺さんのぎっくり腰も思わず治る。
(こいつ!? 犬と猫のキメラを作り出すなんて!? あり得ない!? いったい!? どんな脳みそをしているんだ!?)
ただ自分が楽したいだけです。
「いけ! 最強の騎士! ワンニャア!」
「ワン! ニャア!」
犬猫の騎士ワンニャアが、ワンニャア・ソードで斬りかかる。
「そこだ! ワンニャア・スラッシュだ!」
スパっと!
一撃だった。犬猫の騎士ワンニャアの一振りが、キング・オニオン・スライムを真っ二つに切り裂いた。
「ギャアアアアアアー!」
キング・オニオン・スライムは倒され、たくさんのカードになった。
「やったー! これで玉ねぎ畑も元通り! 師匠に稽古をつけてもらえるぞ!」
アルクは自分の手は汚さずに大喜び。
(ふ、不思議だ!? こんなふざけた奴が事件を解決してしまった!? これでいいのか!?)
いいんです。たぶん。
羊教会。
「師匠! 玉ねぎ畑を平和にしてきました!」
アルクは友を連れて凱旋した。
「誰です? 隣にいるのは?」
「こいつは、スライムの騎士のスラちゃんです。俺の師匠、挨拶して。」
「スラスラ。」
初めまして。スライム・ナイトです。よろしくお願いします。と言っている。
「は、はあ・・・・・・。」
さすがの牡羊座の騎士アリエスも、予想外の展開にどう反応して良いのか戸惑っていた。
「よし! これでシエルを助けにいけるぞ!」
アルクの冒険は始まったばかりであった。
つづく。
SST5 登場人物
・アルク。カード使い見習い不真面目。
・シエル。さらわれたアルクの妹。
・アリエス。アルクの師匠。牡羊座の騎士。
・オニオン爺さん。オニオン畑のオーナー。
・犬騎士チワワ。スラッシュ。
・犬騎士シバ。おしっこ。
・犬騎士プードル。肉球爆弾。
・猫騎士ペルシャ。ファイア。
・犬猫騎士ワンニャア。ワンニャア・スラッシュ!
・スライム
・オニオン・スライム。
・かぼちゃ・スライム。
・ポテト・スライム。
・じゃがいも・スライム。
・サツマイモ・スライム。
・鍬スライム。
・トラクター・スライム
・電気柵スライム
・案山子スライム
・キング・オニオン・スライム
SST5 渋谷かな @yahoogle
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