第9話 試練の森

深い霧が立ち込める森の中、ローグは剣を握りしめ、仲間と共に進んでいた。今日の依頼は、複数のモンスターが出没する区域の調査兼討伐だ。Fランクとしては難易度の高い任務だったが、ローグは成長を実感した身体能力と覚醒力の制御を信じ、挑む覚悟を決めていた。


「油断するな。群れで来るぞ」

リオが低く警告する。


森の奥に足を踏み入れると、草むらから小型の狼や爬虫類型のモンスターが次々に現れた。初めの数体は、ローグの訓練済みの身体能力だけで対応できた。踏み込み、回避、攻撃――全身の感覚が滑らかに連動する。


「よし、この感覚だ……」

心の中で呟くローグ。初めての連戦でも、自分の身体だけで動ける手応えがあった。


しかし、数分後、次々と現れるモンスターの数は増え、連戦が続くにつれて疲労が身体に蓄積していく。呼吸が荒くなり、腕や脚の筋肉が重くなる。体幹のバランスを維持するのも一苦労だ。


「……くそ、まだだ……!」

ローグは意識を集中させ、身体だけでは追いつかない瞬間に覚醒力を少量引き出す。全身が爆発的に動き、攻撃をかわしつつ、一撃ずつ正確に返す。しかし、長時間の使用で身体の疲労はさらに増し、膝や肩が悲鳴を上げる。


「これが……限界か……」

胸の奥で焦りと恐怖が湧く。覚醒力に頼れば瞬間的に乗り切れるが、持続力は限られている。ローグは呼吸を整え、意識を自分の身体の奥に集中させる。筋肉の反応、呼吸、心拍――全てを可視化するように意識し、力を微調整する。


仲間も戦いを支えてくれる。ミラが盾で敵を防ぎ、ケインの矢が隙をつく。リオの指示に従い、ローグは身体能力と覚醒力を最小限に抑えつつ、効率的に敵を切り倒す。


戦闘は数十分続いた。通常なら体力が尽きる時間だが、ローグは自分の限界を超えた集中力で動き続けることができた。覚醒力は完全ではないが、意図的に制御し、持続力を引き伸ばす術を少しずつ学んでいる。


最後のモンスターを倒した瞬間、ローグは膝をつき、深く息をつく。全身の筋肉は限界に近く、呼吸も乱れ、汗で全身がべとついている。しかし、胸の奥には達成感と確かな成長の手応えがあった。


「……やった……俺、少し……強くなった……」

心の中で呟くローグ。長時間の連戦と覚醒力の持続――身体と心の両方を使った試練を乗り越えたことで、彼はさらに一歩、大きく成長した。


夕陽が森を赤く染める頃、ローグは仲間と共に森を抜けた。Fランクの弱小冒険者としての彼の旅路は、身体の強化と覚醒力の制御という二本柱で、着実に前進していたのだった。


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