第8話 初めての単独任務
朝霧がギルドの街を包む頃、ローグは一人で準備を整えていた。剣を腰に差し、軽く体をほぐす。昨日までの訓練で、身体は少しずつ強くなり、覚醒力の制御も手応えを掴み始めている。
「今日の任務は、近郊の森での小型モンスター討伐……だな」
ローグは小さく呟き、深呼吸する。これまで仲間と行動していたが、今日は初めて単独だ。胸の奥に緊張が走る。
ギルドマスターは静かにローグを見つめ、指示を与えた。
「単独任務は、お前の力を試す絶好の機会だ。無理に覚醒力を使うな。身体の感覚を信じろ」
ローグはうなずく。覚醒力に頼らず、自分の身体能力だけで戦うこと――これが今日の目標だ。
森に足を踏み入れると、木々の間から小型の狼型モンスターが現れた。ローグは剣を握り、呼吸を整える。訓練で培った踏み込み、回避、体幹のバランス――全てを意識し、モンスターの動きを観察する。
一匹目は順調に倒すことができた。身体だけで対応できる。心臓の鼓動が落ち着き、自信が少しずつ芽生える。しかし、森の奥から複数のモンスターが現れ、状況は一変する。
「……これは、少し手強いな」
ローグは一瞬迷うが、冷静さを取り戻す。身体の反応を信じ、敵の攻撃をかわす。だが、二体が同時に襲いかかり、回避が間に合わない。瞬間、胸の奥で熱い感覚が弾ける――覚醒力が呼び覚まされる。
「……まだ、制御できる!」
ローグは深呼吸し、意図的に力を少しだけ引き出す。爆発ではなく、必要な瞬間だけの覚醒だ。身体が高速で反応し、二体の攻撃をかわしつつ、一撃ずつ正確に返す。
その瞬間、森の中で自分が完全に「戦う身体」を手に入れたことを実感した。覚醒力と身体能力が連動し、制御された形で力が増幅される――これまでの訓練が確かに役立った瞬間だった。
戦いが終わり、森を抜けたとき、ローグの体は疲労で重い。しかし、心は充実感で満たされている。初めての単独任務を、自分の力だけで成功させた達成感が胸に広がった。
「俺……一歩、強くなれたかもしれない」
拳を握りしめ、夕日が街を赤く染める中、ローグは確かに成長を感じた。Fランクの弱小冒険者――彼の冒険は、身体能力と覚醒力の制御という二本柱で、さらに前進を始めたのだった。
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