第7話 覚醒力の制御訓練

ギルドの早朝、ローグは広間の奥に立っていた。昨日の森での巨大狼との戦い以来、胸の奥には未消化の興奮と疲労が混ざっている。全身の筋肉はまだ痛むが、心は新たな挑戦を求めていた。


「今日は覚醒力の制御を学ぶ」

マスターがゆっくり告げる。

「感情に任せて力を爆発させるだけでは、お前の身体は持たん。必要なのは、意図的に力を引き出す技術だ」


ローグは剣を握り、うなずいた。胸の奥には、覚醒力を制御することができれば、もっと安全に、もっと強く戦えるという確信があった。


マスターはローグの前に立つと、まず呼吸と意識のコントロールから始めるよう指示した。


「深呼吸をして、自分の心臓の鼓動を意識するんだ。恐怖や焦りを感じたとき、まずそれを制御する。次に、身体に力を流すタイミングを意識する」


ローグは目を閉じ、ゆっくりと呼吸を整える。胸の奥で高鳴る心拍を感じながら、力を全身に巡らせるイメージを持つ。最初はうまくいかない。身体が震え、思わず力が暴走しそうになる。


「落ち着け……自分のタイミングで……」

心で何度も呟きながら、ローグは意識を身体の奥深くに集中させる。腕の筋肉、脚のバネ、体幹の安定感――覚醒力の流れを一点ずつ確認し、意図的に引き出す練習だ。


次にマスターはローグに木製の訓練棒を渡し、攻撃と回避を組み合わせた連続動作を指示した。覚醒力は使わず、身体の力だけで動く――しかし、意図的に力を少しずつ増幅させる感覚をつかむ訓練だ。


「始めろ」


ローグは剣を振り、跳び、回避する。最初はぎこちなく、リズムが崩れ、疲労で体が止まりかけた。しかし、呼吸と心拍に意識を集中させると、筋肉の反応が滑らかになり、力を意図的に高める感覚がつかめる。


「いいぞ……その調子だ」

マスターの声に励まされ、ローグはさらに集中する。身体の力と心の力が融合し、瞬間的に通常の三倍の速度で動けるような感覚を覚える。しかし、過剰に力を使うと身体が悲鳴を上げることも実感する。


午後からは、仲間を交えた模擬戦が行われた。森の中に設置された訓練用の魔法生物が相手だ。ローグは覚醒力を必要な瞬間だけ少量引き出すことを意識し、攻撃と回避を行う。


一瞬の隙を突き、仲間と連携して敵を制圧する。覚醒力は爆発せず、あくまで補助として作用している感覚――それを初めて実感した瞬間、ローグの胸に小さな自信が芽生える。


夕暮れ、ギルドの屋上でローグは空を見上げた。身体の疲労は激しいが、心には充実感が満ちている。今日、初めて覚醒力を意図的にコントロールできたこと――それは、森での戦いよりも、自分自身の成長を強く実感させるものだった。


「……俺、やっと……力を自分のものにできるかもしれない」

拳を握りしめるローグ。Fランクの弱小冒険者として、身体の強化と覚醒力の制御――二つの柱が、彼の成長の軌跡を作り始めたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る