第6話 初めての強敵との遭遇
森の奥、朝霧が立ち込める薄暗い場所にローグのチームは足を踏み入れた。今日の依頼は、これまでの小型モンスター討伐とは違う――近隣農村で目撃された、異常に大きな狼型モンスターの討伐だ。Cランクのリオが先頭を歩き、ミラとケインが左右を固める。ローグは慎重に後方に位置した。
「油断するな、奴は普通の狼とは違う」
リオが低い声で言う。
ローグの心臓は高鳴る。胸の奥で、訓練の成果が身体に力を与えている感覚――体幹、脚力、反射速度、全てが少しずつ自分の意志通りに動く。しかし、目の前の相手はただの訓練では太刀打ちできないことを告げていた。
霧の向こうから現れたのは、体長二メートル近い巨大な狼。毛並みは黒く、目は鋭く光り、牙からは唾液が垂れている。ローグは息を呑む。
「……これ、やばい……」
先に攻撃に出たリオが一撃を加えるが、モンスターは全くひるまない。鋭い爪で反撃を仕掛け、リオの防御をぎりぎりでかわす。ミラとケインも攻撃を試みるが、相手の反射速度が異常で、狙いが定まらない。
「……俺も……」
ローグは自分の剣を握り直した。訓練で鍛えた身体――踏み込み、回避、攻撃の連携。森での連携戦で培った感覚を思い出す。心を落ち着かせ、まずは敵の動きを観察する。
最初の数回の接触では、ローグの身体能力だけで敵を避けることができた。踏み込み、ステップ、横移動――訓練通りの動きで回避は成功する。しかし、攻撃のタイミングは依然として難しい。敵の牙が一瞬の隙を突いて飛んでくる。
「……くそっ、まだだ……!」
次の瞬間、モンスターが咆哮をあげ、ローグのすぐ隣の木を破壊した。避け切れず、衝撃で倒れそうになる。恐怖と焦りが胸を締めつけ、身体の奥で熱い感覚が弾けた――覚醒力が呼び覚まされる瞬間。
心の中で制御しようとするが、初めての本格的な危機に、力は制御を超えて一気に溢れ出す。筋肉が限界を超えて伸縮し、身体は常人を超えた速度で動き始めた。反射的に剣を振り、モンスターの牙をかすめさせる。
「……これが、覚醒……!」
息も忘れるほどの速度で攻撃と回避を繰り返すが、身体に痛みが走る。呼吸は乱れ、膝や肩が悲鳴を上げる。覚醒力は強大だが、制御できなければ自分を壊す危険もある――訓練で培った身体能力との対比がここではっきりと示された。
一方、訓練で身につけた身体能力があったおかげで、ローグは覚醒力を少しだけ抑え、必要な瞬間だけに爆発させることができた。踏み込み、回避、剣のタイミング――自分の意志で動く部分と覚醒力が生む瞬間的な反射が組み合わさることで、戦闘は少しずつ有利に傾く。
ミラが盾で攻撃を防ぎ、ケインの矢が敵の隙をつく。リオの一撃も加わり、ついに巨大な狼は悲鳴を上げ、森の奥に退く。ローグは地面に膝をつき、息を荒くする。全身が痛むが、心の中には満足感が広がった。
「……俺、少しは……成長できたのか」
森を抜ける頃、ローグは初めて身体能力と覚醒力の両立を実感していた。完全に制御はできていないが、訓練の成果がなければ、この戦いは乗り越えられなかっただろう。
夕日の赤が森を染める中、ローグは仲間と共に歩きながら、自分の中で芽生えた確かな成長を胸に刻んだ。Fランクの弱小冒険者――ローグの冒険は、身体の力と覚醒力の融合という新たな段階に進み始めていたのだった。
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