第3話 ギルドでの指摘
森からギルドに戻る道すがら、ローグは重い足取りで歩いていた。腕や脚には疲労が残り、筋肉は昨日の覚醒戦闘の影響でまだ張り付いたように硬かった。だが、胸の奥には不思議な充実感もあった。
「……やっぱり俺、まだまだだ」
心の中で呟くと、悔しさが体全体に広がる。森での戦いは、初めて自分の覚醒力を使えた瞬間でもあった。瞬間的に驚異的な速度でモンスターを避け、攻撃を返すことができた。しかし、それはほんの一瞬であり、持続する力ではない。身体は悲鳴を上げ、全身が痛んだ。
ギルドの木の扉を押し開けると、館内はいつも通りの喧騒に包まれていた。冒険者たちは依頼の打ち合わせや武器の手入れに忙しく、ローグの疲れ切った姿など誰も気に留める者はいない。
「お帰り、ローグ君」
受付の女性がにこやかに声をかける。
「任務、無事に終わったのね?」
「はい……なんとか」
小さく返事をすると、ローグはそのままマスターの元へ向かった。森での戦いの感触を、誰かに認めてもらいたかったのかもしれない。
マスターは長い髭をたくわえ、深い瞳でローグを見つめる。
「任務はどうだった?」
「はい、モンスターは討伐できました……でも、僕一人ではほとんど何もできませんでした」
ローグは正直に答えた。自分の無力さを認めることは、少しだけ心が痛んだ。
マスターは静かに頷き、口を開く。
「お前には隠された力がある。だが、それに頼るだけでは危険だ。今のままではFランクのまま、いつか自分や仲間を危険に晒すことになる」
その言葉に、ローグは胸の奥で熱い感情が芽生えるのを感じた。悔しさ、焦り、そしてどこか誇らしい気持ち――自分に秘められた可能性を示されたからだ。
「隠された力……?」
「そうだ。お前の感情が極限に達したとき、身体は通常では考えられない力を発揮する。それは天賦の才能に近い。しかし、それを制御できるかどうかは、訓練次第だ」
ローグはその言葉に、胸が高鳴るのを感じた。自分の中で眠っている力――それを制御できれば、弱さから脱却できるかもしれない。
「……僕、ちゃんと強くなります」
小さく誓いの言葉を口にすると、マスターは軽く微笑んだ。
「うむ。その意気だ。まずは自分の身体を知り、心を鍛えることだ。恐怖や怒りに飲まれず、必要な時に力を発揮できるようになれ」
ギルドの廊下を歩きながら、ローグは改めて自分の弱さと向き合った。森での戦いの中で覚醒した力――それは確かに魅力的で、頼もしいものだった。しかし、同時に制御できなければ自分を壊す危険性もある。
「強くなる……自分の力で……」
呟くと、拳を固く握る。目の前には仲間たちの顔が浮かんだ。自分が守らなければならない存在たち――その思いが、覚醒力に頼らずとも戦える身体を手に入れたいという決意へと変わる。
ギルドの窓から差し込む夕日が、ローグの影を長く伸ばした。少年の心には、初めての危機を経て芽生えた覚醒の感覚と、成長への強い意志が確かにあった。
Fランクの弱小冒険者――ローグの物語は、ここから本格的に始まろうとしていた。
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