第2話 初めての危機
森の入り口に立つローグは、深呼吸を一つした。朝の光が木々の間に差し込み、葉の緑が目に眩しい。しかし、その光景の向こうには、恐怖が潜んでいることを少年は知っていた。
「準備はいいか?」
ベテランのリオが低く声をかける。
「はい……」
ローグは小さくうなずき、剣を握り直した。
仲間たち――ミラ、ケイン――も身構えている。Fランクの自分は、まだまだ役に立たないかもしれない。心臓が早鐘のように打ち、手がわずかに震える。胸の奥で小さな不安が膨らむ。
森の奥へ踏み入れると、空気が冷たくなり、葉のざわめきが増す。小型モンスターの足音が遠くで聞こえた。ローグは自然と背筋を伸ばす。心の中で覚悟を決める瞬間だった。
「気をつけろ……!」
突然、茂みの中から二匹の狼のようなモンスターが飛び出した。仲間たちは瞬時に構えるが、ローグは一歩遅れ、動きが止まる。
「や、やばい……!」
狼の一匹がローグに飛びかかろうとしたその瞬間、胸の奥で熱い何かが弾けた。恐怖、焦り、仲間を守りたいという感情――それらが一気に身体を駆け巡る。
手足が自分の意志以上に動く。剣を握った腕が反射的に振り下ろされ、飛びかかるモンスターを弾き飛ばした。
「え……俺……!?」
信じられない速さでの攻撃と回避。だが、その代償はすぐに現れる。筋肉が悲鳴を上げ、膝はぐらつき、全身が激しい疲労で硬直した。覚醒の力は、まだ制御できるものではない――それを痛感する瞬間だった。
ミラが駆け寄り、狼の残りを斬る。ケインも援護に回る。ローグは息を切らし、膝をつくしかなかった。
「大丈夫か?」
リオの声が耳に届く。ローグは力なくうなずく。
「……俺、まだこんなもんじゃないのに……」
胸の奥に残る熱い感覚――それは、身体の中で眠っていた力の兆しだった。しかし、同時に、あまりにも無理をした代償を思い知らされる。筋肉は張り、関節は痛み、呼吸は荒い。覚醒力を使う代わりに、身体は大きな負荷を受けるのだ。
森をさらに進むと、茂みの間から小さなモンスターが飛び出した。ローグは剣を握り、心の中で冷静さを取り戻そうとした。しかし、恐怖と緊張で胸は高鳴る。
「……今度は、必要な時だけ力を出す……」
心で呟くと、身体はその指示に応えるかのように軽くなる。恐怖は覚醒力のトリガーだが、制御すれば味方を守る力になることに気づいた。ローグは一歩前に出て、モンスターを避けながら素早く剣を振るう。跳躍、回避、攻撃――身体は次第にリズムを覚え、最初の混乱は少しずつ消えていく。
ミラとケインが協力してモンスターを追い詰める中、ローグも一撃を当てることに成功した。モンスターは悲鳴を上げ、森の奥へ逃げ去る。
「やった……!」
胸の奥で小さな達成感が湧く。だが、身体は限界に近く、膝がぐらつく。覚醒力は便利だが、まだ安定して使えるものではない――それを痛感した。
森の奥からさらに咆哮が響く。ローグは息を整え、仲間と目を合わせる。心の中で確信が芽生える――この力を、制御できるようになれば、自分は必ず強くなれる。
夕陽が森を赤く染める頃、ローグたちは任務を終え、森を抜けた。疲れた身体を仲間に支えられながらも、胸には小さな自信が芽生えていた。
「……俺、この力をちゃんと自分のものにする」
Fランクの弱小冒険者としてのローグの冒険はまだ始まったばかり。しかし、初めての危機を経て、彼の中で覚醒力と自分の身体をどう融合させるかという新たな戦いが始まったのだ。
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