第45話
「わぷっ!」
乱雑にベッドの上へと放り投げられました。
さすが魔王様。
傷付かないように吸収魔法を使ってたんですね?昔の私は気付きませんでしたよ。
「私の目の前で一体どれほどの事を隠してた」
お、怒ってる…
めちゃくちゃ怒ってる。
覆い被さったデズモンド様の距離が近くて、今はちょっと怖いです。
「えっ、と、デズモンド様ではなくて、その、護衛のディアブロに対しては、えーっと…」
いや、ディアブロに対してだけではなくて、みんなに隠してたというか…。
「あれは誰だ」
「バーナビーの兄です」
「どうやって知った」
「小悪党の…あれ?あの人の名前なんだろ?」
「…」
「鱗を4つも飲み込んでたクズが空間収納に入れていた中に、卵の殻がありました。そこに入り込んでいた元々の魔力、4つを登録し、城に来たら分かるようにしておきました」
卵の殻には元々、上書きされていない魔力が4つあった。
2つはバーナビーの両親だろう、そして、残りの2つはバーナビーの兄と、亡くなったであろう兄の運命の魔力があった。
卵を産み落とした後は魔力を与えておかなければならない。
多分、運命は卵のまま兄を連れ去ったんだろう。
そして卵が割れるまでは、己自身の魔力で補っていたと憶測を立てているが、まぁ、合っているだろうな。
どれが兄の魔力かまでは理解出来ない為、全ての魔力を登録し、もし、兄自身で城までやって来たのなら仲介のような立ち位置でいようと思っていた。
ルーシャンはちゃんと気付いた、あの子が兄だと。
まぁ、手の中に卵の殻を創ればルーシャンは気付くと思ったからあの手法を取った。
「何処かに行っていたな」
「いつの事でしょう?」
「公爵となにを話した」
ああ、ディアブロに聞かれた事があったな。
「どちらかに行かれておりましたか?」と。
テレンス公爵と中庭で話した時に。
「あの時、バーナビーがテレンス公爵に心砕いていると知りました。彼の伴侶は魔力過多で死にそうになっていたので、契約をする為に内緒話を」
「内容は」
「バーナビーが玉座を降りるまで職務を果たす事、私を周囲が見ている天使としてこれからも接する事、そして自害を禁じたこの3つの契約を持って、伴侶の病を治しました」
「他には」
えー?たくさんあるけどなぁ。
そんな事よりデズモンド様の話が聞きたい!
「「…」」
なんて、言い出せないですよねー。
「えーっと、光のと夜中に遊んだり、ロイド・シャノンに駒になってもらったり、淫魔のヘディと遊んだり、貴族の中にバーナビーに不利益をもたらす者がいたので壊滅させたり、あ、温泉も掘ったりしました」
「随分と楽しそうだな?」
「は、はひ…」
だ、だって、遊びに出かけるというか、用があって抜け出した先で色々な者と出会って遊んじゃったりしてたから………。
確かにデズモンド様には言ってないけど、あの時はデズモンド様とは知らなかったし!知ってたら一緒に行ってましたよ!?
「お前しかいらない」
「私はみんなと一緒がいいです」
「………分かるのが嫌だ」
「へ?」
「昔よりも感情を理解している今、私たちの子らに深い愛情を抱いている事に気付いてしまった」
「嬉しいです」
だからゼトスの頭を撫でていたのか。
己の意思で撫でたいと思ったのかな?
「日記をつけたくなる気持ちも理解ができる」
昔、デズモンド様と子育てしていた私は日記を書いていた。
子どもたちの成長を書き記し、参考にし、そしていつか懐かしむ時の為に。
そういう気持ちも体感しているんだろう。
「お前だけでいいというのに」
困り顔のデズモンド様は本当に感情が育っている。
緩やかに一万年かけて築いた心よりもずっと…
感情が表に現れている。
「みんなと宴会をするのは、とても楽しいですよ」
「…」
神々はいつだって酒盛りをしている。
面白おかしく。
デズモンド様は魔王様だった。私にとっては今もだけれど。
魔国に居た頃は毎日仕事をして、私に構って、また仕事をする。
その後の人生は、私を探し歩いてくれていたんだ。
だから………。
「休憩しましょう」
「…」
「デズモンド様も私も、休息が必要です。毎日なにかに迫られて生きるよりも、毎日なにかを探すよりも、毎日死を渇望するよりも、今は休息を」
「…」
「なにも考えず、ただ目の前の幸福だけを感じませんか?」
とは言ったものの、デズモンド様は説明してくれると思ってた。
過去を話し、私の知りたいという気持ちを優先してくれると思い、口を開いてくれるのを待ってた。
「んんっ!?」
それなのに何故か熱いキスをされた。
ずっと赤い瞳で見つめられ続けていた私は忘れていたんだ。
匂いを遮断してた事に。
周囲の匂いはキツすぎて遮断してたんだと、熱すぎるキスで思い出し、デズモンド様の匂いだけを嗅いだ。
「うあっ!?」
興奮は目で分かる。
だから嗅ぐまでもなかった。
うん、物凄く興奮しておいでです。
これは………
困った。
デズモンド様は私を愛してくれている。
それは今でも。
だけど、形が変わった。
愛する形が変わったのもそうだけど、物理的にというのかな?うん、魂が変わってる。
元々の竜人だった魂はそのまま。
そして眷属になった時、魔王の魂と竜王の魂が私からデズモンド様へと移った。
眷属とは神となんら変わりがない存在となり、力を操れ、魂が見れる。
そしてもう一つが、運命が分かるという事。
魔王様だった頃とは違うんだ。
心で、惹かれる。
強く、強く、
それに合わせて、運命を感じる魔王と竜王の魂も混じってるんだ。
だから当然………。
「んー!」
「っ」
抗えない愛と、欲を私にぶつけてくる。
それは嬉しいんだけど…。
「まっ、んっ、デズ、モンド、さまぁ」
「っ、どうした」
ありがとうございます。ギリギリの所で待ってくれて。
「あ、あの、」
「…」
「その…」
「…」
「は、恥ずかしい、ので、ゆ、ゆっくりとが、いい、です、その、なんか、………ぅぅ」
そう!とても恥ずかしいのだ!
さっきからデズモンド様が感情を露わにしてくれる度、ドキドキと高鳴る鼓動が収まってくれない。
だから、出来ればゆっくりと進めて、まずは手を繋ぐところから………
「………はぁ………難しい」
「は、はい」
「どうしたい」
「て、て、手を繋ぐところから、その、」
「………分かった」
「わ、分かってくれて嬉しいです」
起き上がるとすぐに手を繋いでくれた。
「デズモンド様です」
「ヒナノだ」
一度は受け止めた。この人がデズモンド様だということを。
でもそれは、“夢物語”として感じていたんだ。
眷属になり、過去を見て、魂が主の元へと返っていったいくつもの証拠を見て心から感じて、思えている。
この人は間違いなくデズモンド様だって。
夢見で植え付けた記憶を保持している人じゃない。
私を愛してくれた過去があるデズモンド様だって。
「記憶を見た」
「は、はい」
「だがお前の口から直接聞きたい」
「………はい!」
「時間ならある」
「ふふっ、いくらでも」
「聞かせてくれ」
「私も聞きたいです」
「分かった」
「分かってくれて嬉しいです!」
そう伝えるとどうしてかまたベッドに押し倒されました。
「あ、あのっ、あのっ、」
「伝えていなかったな」
「は、はい?」
おでこから髪を撫でるように私の頭を触る。
「どれほど記憶を忘れても、何度生まれ変わることになっても、お前だけを求め続けていた」
その手が耳に触れ、輪郭をなぞる。
「愛している、私の妃、私の永遠」
唇までもなぞったデズモンド様は熱い息を吐き出しながら顔を近づけて。
「離さない、永久に」
ちゅ。とキスを落とした。
「全てを我が物に」
そう言ったあと、ニヒルに笑った表情は、
私の唯一であり、私の、私だけの魔王様の顔だった。
愛に飢えてる化け物は運命を拒絶する ユミグ @misugu
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