第43話
「眷属に」
「………はい?」
「今だ」
「………はい?」
「時間がない」
「え、っと、………はい?」
話し終えた私の耳に届いたのは、デズモンド様の人生の話でもなく、罵詈雑言でもなく、呪いのような言葉でもなく………
「死ぬ可能性がある今を生きていたくない」
「で、でも…」
「お前と永遠に生きていく」
「っっ」
「永遠を与えてくれ」
「……デズモンドさま……」
「お前を私の眷属にしたい」
「っっ、は、はい!」
いつだってデズモンド様は魔王様だ。
これからする行為はあくまで、私が眷属にする為ではなく、デズモンド様の眷属として生き、そして……
「私がお前の命を操り、守る」
「いいえ、私も守ります」
「……一緒だ」
「はい、一緒です」
全てはあとに。
「愛しています」
「愛している」
その表情はデズモンド様に見えた。
「私も生きた、訳の分からない感情と共に」
デズモンド様の頬に触れて、
「伝えられなかった言葉を今なら分かる」
顔を近づける私は熱い涙を流していて、
「見過ごした全てを聞き、そしてお前にも聞いてもらいたい」
無表情に見えるデズモンド様も、どうしてか涙を流している。
「私たちには時間が足りない」
ゆっくりとおでこにおでこを当てる。
「永遠でなければ駄目だ」
眷属となれ。
そう願うと、デズモンド様の魂がくるくると回るように変化していく。
「ヒナノの全てを食らい尽くし、私だけの存在に」
そう言い放ったデズモンド様は私に噛みつくように、荒々しいキスをして、
トサッ…
深いねむりについた。
そして、
どうしてか、私も。
眠った。
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必ず聖樹から生まれ落ちていた。
そして、生まれた瞬間からヒナノを探していた。
「魔王様、パデズの国にも黒目黒髪の女性はおりませんでした」
「…」
スイレナディ国となる前のこの土地で何度か王の座に着いていた時もあれば、旅人として世界を渡り歩いていた事もあった。
何度生まれ変わっても探し求めるモノは1つだけ。
「………ヒナノ」
数千の悪魔が私たちを襲い、ヒナノの腕と耳を千切られた後、残っているヒナノの腕を私の胸へと誘導したナニかが見えた直後、眩い光に覆われていた。
そして、次に目を開けた時。
赤子となって生まれた私の傍にヒナノはいなかった。
同じようになっていると信じてやまなかった。
姿形が変わらずに生まれ変わる私と同じように、ヒナノもどこかで生まれ変わっているのだと。
弱々しく、1人で生きていけない私だけの妃が私を探し回るような危険なことをしないように早く見つけてやろうと。
いつの時代もヒナノを探していた。
「アレス」
「なんだ?」
「天界に連れて行け」
「いいぞ!」
天使に出会ったことはある。
私の元に来たことはないが。
そして神アレスには何度も出会っている。
その度に天界へと行き、ヒナノを探した。
悪魔や淫魔と契約し、他の世界へ渡り探した時もあったが、いつ頃だろうか。
私の記憶が薄れていったのは。
初めの生まれ変わりの時は全て覚えていた。
けれど、何度も生まれ変わっていくにつれ、どんどんと記憶を記録できなくなっていた。
それでも微かに覚えているヒナノを探し求めていた。
いないなどとは思わなかった。
だが焦燥はいつだって纏わりついていた。
「見たことも聞いたこともないわねぇ」
「…」
「また生まれ変わったら教えなさいよ」
「…」
炎の精霊と縁があり、生まれ変わる度に協力を願い出た。
私が死んだ後、生まれ変わる間にヒナノが生まれていたら保護するように都度、交渉していた。
「……ヒナノはどんな見た目だ」
「あら、忘れちゃったの?黒目黒髪よ」
「………そうだったな」
朧げになっていく。
愛も、姿形も。
そしてディアブロになった時。
なにも思い出せなかった。
今までの私も。
ヒナノも。
倒れた時に思い出すまで。
私は私を忘れていた。
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