第41話
ぱくっと一口、フルーツタルトを食べた。
「…」
「初めてデズモンド様に手料理を振る舞う事が出来ました」
「美味しい」
「ふああぁぁ…!聞かなくても“美味しい”と言ってくれる時は初めてです!また初めてです!」
ゴクッと緑茶で喉を潤した。
「美味しい」
「嬉しいです!」
ぱくっと一口、チーズケーキを食べた後、もう一度、ぱくっとチーズケーキを食べた。
「デズモンド様はどちらも好きだと思ってましたけど、チーズケーキの方が好きなんですね」
「ヒナノの手料理しか腹に入れない」
「それならあとでたくさん渡しておきますね!あ、でも、デズモンド様からのプレゼントは食べたいので、買って下さいね?」
「分かった」
「分かってくれて嬉しいです!」
チョキチョは食べない。
その代わり、チョキチョを私の口に近付けたから、ぱくっと食べた。
「ポリポリ…カリカリ…」
「…」
「ポリポリ…カリカリ…」
「…」
「んっ!フルーツタルトを食べたいと思ってました!いただきます」
「いただきます」
「いただきます」の挨拶を、2人して忘れていたから一緒に。
デズモンド様の食べる姿が見たいと分かってくれているのか、食べ進めてくれる。
だから、私は一度、膝から降りて、隣に座った。
デズモンド様に、バーナビーたちに説明する為に。
「困りました…」
「…」
「なにから話せばいいですか?」
「この者達に必要な内容だけでいい」
「デズモンド様の事も必要です」
「いい」
それならと、バーナビーに向き合った私の目には…
「「「「「「「「「「………………」」」」」」」」」」
なぜだか、とってもとっても呆れた視線がいくつもあった。
「デズモンド様…ディアブロは私の伴侶だったの」
「意味を全て理解していないが、聞いてなんとなくは理解している。殺したとも聞いた」
「私がデズモンド様を殺しました」
「…」
「っ、それは仕方の」
「ううん、バーナビーたちに話した内容、接した態度は全て嘘なの」
「…」
「………どうしてそんな嘘をついたんだ?ここは別世界だ。嘘など必要ないだろう?」
ここは別世界なんかじゃない。
「デズモンド様を殺したのは100万年以上前なの」
「は!?」「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」
デズモンド様と過ごした期間は1万年。
たったの1万年だ。
「う?」
私の顎を持ち上げて、顔を寄せたデズモンド様は………とっても近い。
距離が近いです。魔王様。
「…」
よく分からないけど問題ないと判断してくれたのか、ケーキを食べ始めたデズモンド様を確認してから続きを話し出す。
「私がデズモンド様を殺したのは私が私を知らなかったせいなの」
「意味が」「説明しろ」
バーナビーとデズモンド様の言葉が被る。
きっとこの話し合いでは何度も被る事になるだろう。
「あのね?」
「…」
「バーナビーたちに説明したら詳しく説明しますから、」
「…」
「ち、違いますよ!デズモンド様を後回しにしている訳じゃないです!デズモンド様とこれから離れず、傍にいられるよう、バーナビーへと話すんです。いつだってデズモンド様が先ですよ?」
「分かった」
「「「「「「「「「「…」」」」」」」」」」
とは言ったものの。
なんて説明…………。
「あ!先に正体を話せばいいんだ!」
「正体?」
「…」
でも…私は未だにキラキラ〜、も、威圧も畏怖も威嚇もないのだ。
いや、意識して出せるようにはなったよ?キラキラ〜以外は。
出せるようにはなったけど、私は感じ取れていないから今でもよく分からないのだ。
そして、キラキラ〜を出せないと説明しても信じてもらえないかもと思った。
「えーっとねー」
「うん?」
「…」
先に話してみよう。
でもなんて話そう?
あ。
「アレスいるでしょ?」
「も、もちろん、し、んっ!知っている。何故アレス様が出てくるんだ?」
「私たちの子どもだから?」
「「「「「「「「「「はああああ!?」」」」」」」」」」
「…」
ううん、煩いん。
「なに、ど、な、こ、そ、も、も、も、」
さすがに何を言いたいのか分からないよバーナビー。
「信じられない」
「…」
「ああ!攻撃しちゃ駄目だって言ったじゃないですか!」
「…」
「ルーシャンが信じられないのも当然です。私の言葉を疑うのも、デズモンド様以外は仕方ありません」
「…」
「お願いしまうううう!」
「…」
「ありがとうございます!」
「「「「「「「「「「…」」」」」」」」」」
こんなにスムーズに攻撃出来るとは正直思ってなかったんだよね。
いや、なんでもできてしまうとは知っていたけれど、攻撃してるところなんて、魔力のない私には見えなかったし、魔法陣を目に見える形で生成してる時もあったけど、デズモンド様が攻撃してる時なんか、記憶にあんまりない。
今も見えないように攻撃してたから、そういうたくさんがあったんだなぁ…。
大切に守られてたんだ。
ううん、大切に守られてる。
「私が問おう」
「お、ま、む、ま、任せた」
バーナビーは神様が好きすぎるからねぇ…
「アレスはバーナビーを幸福にする存在を召喚した。それは間違いない」
「1つ不安が解消された、先に話してくれてありがとう」
それはそう。
私が勝手に来ちゃったなんて思われても困る。
「私には様々な種となる形が存在し、神々と世界を生み出す存在。だからこそ長い時を過ごしている」
「…」
「……訳が分からないな」
そうだろうね、でも。
「私は世界様」
そうやって呼んでくれる子たちがたくさんいる。
「私は私の存在を証明出来ない。だから」
呼んでしまえば納得するんじゃない?
「アレス、ゼトス」
「「はい(っす)」」
「「「「「「「「「「!!!!」」」」」」」」」」「…」
どうしよう…みんな跪いちゃった。
「顔上げて…って私が言っても無駄か。ゼトス」
「はいっす、顔を上げるっす」
その言葉に顔を上げてくれたみんなに説明するようゼトスにお願いする。
「私ってゼトスのなに?」
「………」
「うん、嘘はもういいよ」
「母ちゃんっすね」
「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」「…」
これでいいかなぁ?というか私の証明ってどうしたらいいんだろう?これで通用しなかったら次はなにしよう?
「イヴ様!一緒に眠れるんですか!?」
どうやらアレスは一緒に眠りたいらしい。
「駄目だ、名も呼ぶな」
イヴも駄目なんだ。
「ゼトス、みんなに私の名前は呼ばないよう通達しておいてくれる?」
「はいっす」
「それと、この人間は伴侶であり、あなた達の父となり、眷属になる存在だと全ての者に伝えておいて。魂も覚えさせて」
そう言うとゼトスがダバーッと涙を流し、あ、あれ?アレスもなの?
「よ、良かったっす、か、母ちゃんに幸福が訪れて…!父ちゃん!俺、ゼトスっす」
「む!私も呼びたいぞ!父上!」
「いい」
どうしてアレスが泣いてるのかは分からないけど、父親ができて嬉しそうだ。
にしても………父ちゃん。デズモンド様が父ちゃん。とっても違和感。
「人間に説明したかっただけなの、また遊びましょう」
「「はい(っす)!」」
呆然としてるみんなと、傅きたいとも思わないのか、現れた瞬間から変わらないデズモンド様は、フルーツタルトを食べ終わりそうだ。
「どうしてキラキラ〜なのに、ははーっ!ってなったりしないんですか?」
「慣れ」
そういうものか。そうだよね、精霊も側に居たら慣れるし。
「でも、いつ慣れたんですか?」
「あとだ」
「はい」
私の知らない人生をどんな風に歩んだのかな?
「子だくさんなんです。いいですか?」
「私の子でもある」
「はい!」
いつだってデズモンド様とは子育てをしていた。
四天王と呼ばれる者達が生まれ、その子たちはとても強い魔力を持っている為、魔王様以外近寄れなかった。
親を莫大な魔力で、腹の中で殺してしまうのも珍しくない。
だから私たちが育て、そして死を看取った。
そういう私たちだからこそ、どちらかの子はどちらともの子だと、当たり前のように受け入れ、子育てをする。
「ルーシャンどう?理解した?」
「「「「「「「「「「…」」」」」」」」」」
どうしよう…覚醒までにどれくらい時間がかかるんだろうか…そして、さっきの会話を聞いてくれてたら助かるんだけど…聞こえてた?
「勝手に話しちゃうね?こういう訳だから世界様の“伴侶”は、バーナビーに仕えなくてもいいと思うな?ずっと傍に居る事になると思うな?他の人間たちの前では、ちゃんと天使様として存在し続けるから。あ、もちろん!天使不在にでもなったら困るだろうから、まだここで暮らす……暮らしてもいいですか?」
「…」
「駄目ですか?」
「眷属になるにはどうする」
デズモンド様に“眷属”とは伝えていないのに、会話だけ聞いて理解する姿は魔王様だ。
誰も、なにも、私も、敵わない存在。
唯一無二であり、瞬時に全てを理解する者。
ん?
でも、今は竜人でしょ?
普通の人間だよね?
ということは………
私の伴侶様は元々、とっても頭がいいって事だ!
かあっこいいいいい!!!
「簡単です。眷属になれー。って願うだけです」
「それだけか」
「うーん…多分たくさん寝ちゃうと思います」
「考える」
「はい」
でもなぁ…。
他の人間は天使サマーが世界サマーだとは知らないし、デズモンド様と話し合う時に声をかけられても困る。
「ゼトス」
「はいっす!」
「「「「「「「「「「!」」」」」」」」」」
頼んでしまおう。
「しばらく伴侶と暮らしたいの」
「分かったっす!母ちゃんの仕事、任せてくださいっす!やるっすよ!」
「…」
少し緊張するのも変わらないなぁ…。
「大丈夫ですよ、神ですから。デズモンド様が触れても、今はもう問題ないんですよ?」
「…」
私以外の者に触れられなかった。
溢れ出る魔力を抑える事が出来るまでは。
抑える事が出来ても、相手をなにかしらで傷つけてしまうのではないかと不安がり、触れるという行為にどうしても戸惑ってしまうデズモンド様は分かる。
分かるけど、人間として…魔王様ではない、ただの人間として育ち、死に、きっと幾度となく繰り返してきた人生があるのだから、触れても問題ないと慣れてるはずなのに。
私のように思考や、言動が変わったりしていないのはどうしてだろう?
あ。
握手した。
「!………と、父ちゃんのぬくもりは初めてっす……」
「…」
「良かったですね」
「いい」
「わ、俺も幸福っす!」
デズモンド様もゼトスもぎこちなく触れ合っている。
「しばらく籠もりたいの。アレスには人間の常識が分からないだろうし…しばらくバーナビーが憂う事なく過ごせるよう協力してくれる?」
「はいっす!」
「ありがとう」
「…」
怖いけど…逃げ出したくなるけど…
「大丈夫だ」
「……はい」
話し合わなくちゃ。
「………ん?」
「どうした」
「デズモンド様って何処に住んでるんですか!?」
「…」
「言いたくないですか?」
「ヒナノの家だ」
「えー!!!」
「…」
デズモンド様の家………見てみたかったのに……
「お願いね」
「はいっす。………初めて幸福な母ちゃんを見れて、とても…とても…心温まるっすよ」
「…」
そんな風に、はにかみながら笑うゼトスにへにゃんと顔を緩ませながら転移した。
「知っている」
「そうなのですか?」
「行った事があるからな」
「え!?」
どうやら全ての世界に必ずある、天界の扉の存在を知るだけでなく、来た事もあるという。
「探していた」
「………ありがとう………ございます………」
私を探して天界まで来てくれてたんだ……
扉を開けて天界に戻ると、すぐに転移して、部屋に入った。
久しぶりの家に、
デズモンド様と帰って来れたよ。
そして、
「んっ、」
ぶわっ!と部屋中にデズモンド様の興奮が広がった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます