第40話


美味しい緑茶と、美味しいフルーツタルト。

我慢ができなくて、チーズケーキと、チョキチョも。


デズモンド様との思い出の食べ物はたくさんあるけれど、この4つが一番、


「えへへ」

「…」


大切な味。


「「「「「「「「「「…」」」」」」」」」」


いつも通り、私の左横に座り、いつもとは違う、食べる時は離れている手を握られて、


「えへへ」

「…」

「この態度は問題だ、気付いているか?」

「ん?」

「…」


バーナビーの声に、用意したテーブルから目を離し、前を向いた。


「なあに?」

「ディアブロは護衛であり、ヒナノの」

「名を呼ぶな」

「その態度は処罰に値する」


どうしてだろう?なんて思ったから、そのまま疑問を口に出す。


「デズモンド様、どうして名前を呼んじゃ駄目なんですか?」


もう魔国での妃という立場ではなくなった。

妃と魔王という名ではないのに、今でも名を呼んではいけないと言っているから不思議に感じた。


「…」

「聞いています」

「お前の名もまた、私のモノだ」


それはそうだけど…


「でも、バーナビーもルーシャンも、リンジーやグロリアだって、他のみんなも大好きなので呼んで欲しいと思ってます。駄目ですか?」

「…」

「…」


どうやら気に食わないらしい。

とっても気に食わないんだって。

今のこの状況も、2人きりになれない今も。


「でもどうしよう…」

「どうした」

「デズモンド様はディアブロで、ここに住んで……はっ!?デズモンド様にご両親がいるんですよね!?ちゃんと会ってみたいです!」

「親だと思った者はいないな」

「それでも!それでも会ってみたいです!小さな頃のデズモンド様を知ってるんですよ!?ああ!写真!写真はありますか?」

「ない」

「そんな…!」

「いい加減にしろ」


バーナビーからお叱りの声を頂きました。

デズモンド様宛てのお叱りを。


「言え」


こんな時でも相変わらずなデズモンド様です。

私の、こう、もにょもにょーってする心を察してくれてる。


「なにを考えている」


その言葉はデズモンド様の口癖だった。

いつだって私を知りたいデズモンド様は、知らない事がないようにって、いつもそんな事を言う。


「言え」

「あう…ディアブロでいなくちゃ駄目なんです」

「何故だ」

「だって…デズモンド様はディアブロとしての人生を歩み、バーナビーに仕えているんです」

「この人間に仕える気はないな」

「そうですよねぇ…」

「「「「「「「…」」」」」」」「お前たち…」「説明しろ」


敬う気持ちなんてないだろう。

正直、私もない。

だからこそ、バーナビーがデズモンド様にキツく当たる態度に、もにょもにょーってする。

だってデズモンド様は今でも唯一無二な魔王様なんだもん。竜人だけど。

いや、もちろん、バーナビーを人として尊敬する部分はあるけれど、もし私が護衛として存在していたとしても、本当の私を曝け出した後ならなおさら、仕える気持ちは沸かないだろう。

いや、守る為に嘘はつくけど……。


嘘……。


「デズモンド様」

「…」

「嘘つきになる気は」

「…」

「ごめんなさい」

「いい」

「はい」


正直に生きたいというのがデズモンド様だ。


「はぁー…まず、デズモンドとは」

「やめて!!!」

「…」

「「ヒナノ?」」

「名を呼ぶな」

「デズモンド様の名前は私だけが呼んでいいの!バーナビーたちは駄目!」

「「「「「「「「「「…」」」」」」」」」」「…」


はっ!?


「デズモンド様の気持ちが分かりました!」

「…」

「一緒ですね!」

「一緒だ」

「嬉しいです」

「嬉しい」

「「「「「「「「「「…」」」」」」」」」」


どうしよう。

今の状況も分かってる。

そしてわざとではないけれど、デズモンド様との話し合いを先延ばしにしているんだって…。


「なにを考えている」


指摘された。

それはそうだ、デズモンド様の前で考え事をすると、なにを考えているかまでは分からないけれど、なにかを考えている事は知られてしまう。


「私もバーナビーたちに本当の事を話した方がいいですか?」 

「どうなるか分かるか」 

「はい、切り札といいますか、デズモンド様と一緒にいられるようにはなるんですけど…」

「…」


先に調べ上げてからデズモンド様と話そうと思っていたけれど、一度、怖い気持ちもなくして、傍にいようと、いたいと感じた。

だって、もう…離れられそうにない。


離れたくないから。


一時も。


私は今の気持ちに正直になると決めた。


デズモンド様が触れてくれる“今”を、


怖がる気持ちもそのままで。


全ての私を曝け出して、


この人と、デズモンド様と生きていきたいという気持ちを隠さずに、


デズモンド様にはいつでも正直だった私になろう。


愛を伝え、


愛を甘受しようと。


決めた。


その気持ちに正直になった私は、こっそりと“調べた”。



「来い」

「はい」


繋がれている手を引っ張られ、デズモンド様に乗り上がると、横抱きにして、私の頬に触れてくれる。


「怖いです」

「大丈夫だ、私がいる」

「だからこそ怖いです」

「私もだ」


私の不安を取り除くように触れてくれるんだよ。


「デズモンド様も?」

「死ぬ可能性がある、1人にさせない保証が出来ない」

「それなら大丈夫ですよ」

「…」

「大丈夫です、怖くないですよ」

「終わらせろ」

「はい」


終わらせろというのは、後回しにしていた説明をバーナビーたちにしろという意味だ。

デズモンド様が誰で、これから先、離されないようにする為の。


デズモンド様は死なない。

寿命まで生きるという意味ではなく、眷属となれば永遠の命を持つ。

でも………眷属になれるかどうかは分からなかった。

今では私だけしか出来ない事の1つ。

やり方は至極簡単で、体の一部に触れ、眷属になれ。と願うだけ。

それだけ。

だが、眷属に出来る者というのは限られている。

それこそ、運命よりも数が少ないのだ。

しかも、してみようとしないと分からない。

神であっても出来る者など僅かだと思う。

だから調べた。

こっそりと、デズモンド様に眷属となるよう願った瞬間、魂の輝きが変化しそうだったのを確認して急いでやめた。

眷属となれば互いを縛り合い、今よりも深く、相手の感情と近くなる。

主の私が操り、全て意のままに出来るのがきっと、眷属の正しい認識だ。

けれど、私は眷属を、正しい眷属として魂の形を変えるのではなく、永遠に一緒にいたいという気持ちで眷属にさせるだろう。


多分ね。


だって…


私がデズモンド様を殺してしまった後の私を聞いてしまったら、今の気持ちはなくなると思ってしまうから…。


嫌われてしまってもおかしくない。


「なにを考えている」

「話し終え、デズモンド様と向き合う時を」

「…」


怖いね。


とても怖い。


けれど、デズモンド様が生き死にを繰り返している人生も、私の人生も全て話し合わなければならない。


それが今の私たち。


「愛しています」

「私も愛している」


今のぬくもりだけを感じていよう。


今はただ、夢物語のようなぬくもりだけを。


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