第35話
リヴァが顕現した日から城内は騒がしくなった。
世界全てを暗くするような大きさがあるリヴァが出現したのは、誰の目から見ても明らか。言い伝えがある「暗黒」という名の生物は誰も彼もが知っていた。その恐怖が一瞬にして消え去ってしまった事実に驚きながら、この国から放たれた魔法陣のお陰だという事が他国から見ても伝わった。
当然、スイレナディ国には天使様がいる。ならばその天使が行った所業なのではないかと勘ぐり、連絡が殺到している。
後世に残す為に真実を知りたいと。
まぁ、そんな感じでごちゃごちゃ、わちゃわちゃしてるので、街歩きも城内での顔見せも延期となった。
なので寝た。
というより眠る時間が確保出来たので寝て下さいとディアブロに言われたので、お言葉に甘えて寝てました。とてもぐっすり。
「35日も寝てたよ」
らしいです。
「体調は大丈夫?」
「悪くならないよ」
「………それも嘘なのか聞いてもいい?」
「へ?」
リンジーがなんとも言えない顔で私を見てくる。
「ディアブロと話してる時、答えない内容は嘘なんでしょ?」
ああ、確かに。
最近はディアブロが詰めてくるからね。
当然、リンジーもグロリアも居れば、護衛も居る。バーナビーだって報告を受けて聞いているはずだ。
「気になる?」
「というより心配かな?」
「うん?」
「………最近は眠かったんでしょ?」
「どうして?」
「ディアブロが進言してたよ。睡眠不足だから寝かせておいて下さいって」
どうやら裏であれこれと心配や、私の為に動いてくれてたみたい。
相変わらず心配性だ。
「体調が悪くならないのは本当」
「うん」
「眠いのは、そうだなぁー…うーん…」
「言いづらい?」
「ううん、私、とっても嘘つきだから」
「………」
「今までの嘘を説明しなくちゃならないんだ。それでもいいとは思ってるけど……」
どう説明したらいいのか分からない。
信じてほしい訳ではなく、私の存在を説明した事なんてないから、どう言えばいいのか分からないんだ。
「友達の事が心配なんだ…」
そう言いながらしゃがみ込んだリンジーは私の手を取り、瞳を覗き込んでいる。
「じゃぁ、リンジーの心配を解消しよう」
「……うん?」
「私のなにが心配?ちゃんと答えるから」
私にとってもリンジーは大切な友達だ。
その友達に心配かけたい訳じゃない。
「………なんでも?」
「ふふっ、なんでも」
少しだけ眉を下げたリンジーは少し言いにくそうに、
「………デズモンド様に会いたい?」
私の嘆きを心配している言葉を口に出した。
「会いたいよ、とっても」
「好きな人?」
「大好きで、愛してる伴侶なんだ」
「っっ、………そっか」
「死する事まで愛せる私になるまでは、まだほど遠いみたい」
「………うん、ありがとう」
「こちらこそ、心配してくれてありがとう」
握られている手を握り返して、今の私の現実も伝えようと口を開く。
「デズモンド様にはとっても会いたくて、悲しくなる時も多いけど……」
「うん」
「心配してくれる友達がいる今が間違いなく幸福だよ」
「俺も」
ああ、そうだ。と、
「デズモンド様の名前を呼んでいいのは私だけ」
「………くすくす、分かった」
「んふふー!」
支度に戻ったリンジーは今までより少し強引な友達になった。
「詠唱の理由は?」
「………」
「俺の心配、解消してくれるよね?」
「………」
今日は他国を招いた夜会が開かれる。
最近、招いたばかりで他国の王たちも忙しいから使者が多いとは聞かされている。
それでも開催されるのは、リヴァの情報について詳しくこの耳で聞きたいからという要望にバーナビーが応えたから。
ビタバレティモ国王はやっぱり知っていたみたい。声高らかに伝えなかったのは、淫魔一人の情報だから隠していたんだって。
それでもリヴァの花を観察していたビタバレティモ国王は、時間がきたらいつでも討伐できるようにと、準備していたらしい。
そんなことを、夜会前に話があるからとバーナビーとルーシャンに言われた。
今は室内庭園に居て、まったりとお茶をしてる最中。もう少しで夜会が始まるけどね。
「本当に助かった。ありがとう」
「ううん」
リヴァについては私が悪いんだから気にしなくていいのに。
「そのうち魔石も返したいんだが…」
「いらないよ?」
「「…」」
眠ったからか少しスッキリした頭で答える。
「………話があるんだ」
「うん」
バーナビーもルーシャンも眉が下がった困り顔です。
「私は…私は大切な席に就いていたヒナノを喚んでしまったのか?」
「………うん?」
今度はこちらが困り顔をする事になった。
「私が聞こう」
「ルーシャン、バーナビーどうしたの?」
「ヒナノは一つの国の重要な人物ではなかったのかと考えているんだ」
「へ?」
「純度の高い魔石もそうだが、神様と対等に話せる器。そして、雷もそうだ。とても強い力を持っているだろう?そんな人材を、国政も出来る優秀な人だったのではないかと思っている」
私のチグハグな性格が破綻してるんだな。と気付いた。
最初の頃のような無邪気でなにも分からない平民に擬態してた性格ではなくなっているんだ。それに、擬態もきっと完璧じゃなかったはず。人と関わらなくなって拙く粗の見える人格に見えてしまってる。それが混乱を、というより、困惑させてしまっているんだ。
「なぜ嘘をつくのかも………」
「どうして知りたいの?」
「「心配だからだ」」
そして、心砕いてくれているからこそ心配してくれている。
今までみんなの前で嘆いてしまった事実も、嘘を突き通し続けている事にも心配しているんだ。
どうでもいいと吐き捨てればいいものを。
私は幸せ者だ。
「リンジーとグロリアとディアブロにも聞いてもらいたいな?駄目?」
「構わない」
「あ、その前に。私はどこかの国でなにかをしてた訳じゃないから、安心して?」
「本当か?」
「うん、今から吐く言葉に嘘はないよ」
「そうか…そうかっ…」
ううん、相当に気に病んでいたみたいだ。
寝てばかりのせいで、周りをよく見てなかったな。反省だ。
ルーシャンが3人を入れて、再度、防音魔法をかけた。
「でも、なんて言えばいいか分かんない」
「それなら質問しよう」
バーナビーが尋問役だ!わくわくだよ!
「どうして詠唱にしてる?」
「それ以外はちょーっと扱いにくくなっちゃったから」
「なぜだ?」
「そういう時期があるみたい。知らなかったけど」
本当に知らなかった。
世界が生まれると強烈な睡魔が襲うのは知っていたけど、抗った先で力と魔力の放出が難しくなるとは思わなかった。
「なぜ隠したんだ?」
「どうしてだろう?私が嘘つきだからかな?嘘をつき慣れてるの」
確かに伝えても良かったはずだ。
“そういうもの”だと。
けれど、咄嗟に思い付いたのは、「なんて誤魔化そう?」だった。
「報告にもあったな」
「そっか」
仕事が早いねリンジー!かっこいいよ!
「か、神様に、んんっ、その、どうやって場所を教えるか聞いても?」
「こうやって」
力の放出が難しいから、ほんの少し、手元を光らせた。
「光?」
「これをバーナビーにだけ見せようと思えば」
「見えるか?ルーシャン」
「いや、消えている」
「「…」」
ふわふわと浮かせてルーシャンの髪に光を乗せて、弾かせた。
「!………すごいな」
「私にもできるか?」
「うん、これなら簡単に出来るよ」
魔法で出来ない事なんてあまりない。
適切な魔法陣と魔力さえあれば。
「仕組みは分からぬが、これで神様に通じるのか?」
「大丈夫だよ、何万年と先にも分かるようになってるから」
「「…」」
でも確かに。
また人間が分からなくなっちゃったらどうしよう?取り壊しもあるし………。うーん。
一万年単位で聞きに回ってみるか。
「魔石はどうした」
「うん?」
「国庫にある魔石よりも純度が高く、高価な物だ。そちらの世界では違うのか?」
「どうだろ?価値については分からないけど、魔石は掘ったの」
「「掘った?」」
「うん、カーンカーンって」
「「…」」
そういえば緑茶の作り置きがなくなるな。
どこかにいい茶葉がないか見に行こう。
あ、この世界に作っておこうかな?ディアブロも飲むだろうから。
「………ふっ、聞いても分からぬことが増えていく」
「そっかぁ」
私も私について分かってることなんてあまりないんだ。
そういう存在だってことしか分からない。
「嘘つきなのか?」
「とっても」
「私に嘘をついた事はあったか?」
「最初から」
「「「「!」」」」「…」
「ああ、アレスが召喚したのは本当だよ。バーナビーを幸福にさせたいと想う願いでここに来たんだ」
ほんの少し、ほんの少しだけ休憩できたら良かっただけなのに。
今ではとても大切な居場所。
「なぜ嘘をついたんだ?この世界で嘘をついても意味がないだろう?」
「そういう私でいたかったから」
「「?」」
「こうやって守られて、心配されたかったの」
か弱く馬鹿でいたかった。
今でも馬鹿だろうけど。
愚かになる時もあるだろうけど。
そうだね。人間として接して欲しかった。
ただそれだけ。
「ヒナノを知っても守りが必要だと思うぞ?」
「んふふー、絶対に必要じゃない」
「そんなに強いのか?」
「んー…そうだなぁ…あ!」
「ん?」
「城に居る全ての者を1秒で殺せる」
「「「「「…」」」」」
「ふふっ、ほんとだよ?」
「「「「「…」」」」」
これで少しは心配しなくてすむかな?
「頼もしい天使様だ」
「えへへー」
バーナビーを守れるようにたくさん力で付与してるからね!加護がどっさり!って感じかな?
「そろそろお時間です」
夜会の時間が迫っているようです。
「ヒナノ」
「うん?」
「守ろう、なにからも」
「………ありがとう」
「また嘘の内容を教えてくれ」
「ふふっ、うん!」
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