第30話


赤く腫らした目元のまま魂を曝け出した私を天界に連れてきてくれたゼトスは、神々を呼んでくれた。

宴会の場に着くと泣いている子や、喜んでいる子、初めて私を見た子は驚いたりと忙しない。

寂しくて召喚されたけれど、寂しければここに来れば良かったんだと思う。

だってこんなにも愛が溢れているんだから。

子が死んだ悲しみに苛まれて目が曇ってた。


「今日はいい月ね。………私は生きるのに疲れた時、アレスの世界で人間として全てを騙して甘えていました…いえ、今も甘えてる最中なの。だけど甘えが終わったら…あなた達と関わり…愛を言葉で伝えたいと思っているの」


「もちろんです」「お会い出来て光栄です」なんて言葉が次々と聞こえながらも、視界に入ってくるのは愛がたくさんの瞳。


「愛しているわ、可愛い我が子達」


アレスはひときわ驚き、ガバァッと立ち上がり私に挨拶をしてきた。


「天使様!い、いや!世界様を召喚してしまったのですか!?この私が!?ハジメマシテ!」

「ふふ、はじめまして。あなたのお陰で愛に気付けたわ。本当にありがとう」

「い、いえ!はい!………はい!?」


混乱しているアレスも他のみんなもそのうち意識が戻るだろうと気にせずその場に座ったそこは、昔に関わった時、いつも座っていた場所だった。


「本当に申し訳ございませんでした、世界様を悲しませる事をして…」


ピアに呪いを投げたトリアイを見るとやはり寂しさやツラさを思い出してしまう。

でも、それもこれも私がきちんと言い聞かせなかったからだと、次は二度と同じ目に合うもんかと、初めて神々に命令を下した。  


「呪いは禁止する」


感情が溢れて呪いを制御出来ない時もあるだろうけれど……せめて遊びでは投げなくなるだろう。


「「「「「「「「「「「「「はい」」」」」」」」」」」」」

 

こんな真剣な返事を聞ければ、今は充分だ。


私の横にいるゼトスの頭を撫でながら注いでもらった酒を煽ると痛感した。


ああ……戻って来たんだと。


「そうだ、そのうち淫魔世界にも顔を出すわ」

「はいっす!みんな待ってるっすよ!」

「統率してくれてありがとう。偉いわね」

「っっ〜〜、はいっす!」


このまま天界で過ごしたくなるけれど、私は天使様。子が与えてくれた職務を全うしたい。

それにまだ眠いからね。


「アレス世界に滞在しているけれど、人間に擬態しているから突撃はしないでくれると助かるわ。ああ、アレスとゼトスは別だけれど」

「「「「「「「「「「「「「はい」」」」」」」」」」」」」


当分は滞在すると伝え、ゼトスに元に戻してもらった私はベッドに落とされるとすぐに眠ってしまった。

そして起こされた時は愛を抱えていた。











「ヒ……ナノ………ヒナノ」

「…」

「ヒ、ヒナノ…起きれる?」

「…」


なぜか上擦っている声を上げているリンジーの声で起きた私はリンジーの緊張を理解した。


「ぐがー!ぐがー!」

「…」


どうしてか私の腕の中で寝ているアレスにおどおどしてるんだと。

腕枕をしている腕を引き抜いてリンジーに手を伸ばすと心得たかのように抱き上げ、少し足早に寝室から出た。


「………ディアブロが言うには20日前から度々現れると聞いたけど…ヒナノは……うん、知らないよね」


どうやら長く寝かせてくれたらしい。

そしてアレスは寝に帰ってくる場所として認識したらしい。私の元を。


「今日はカーシュ伯爵とアデルフェル伯爵と昼食なんだ」


ああ、テレンス公爵が籠もり期間を取得する間にその荷を代わる人か。

カーシュ伯爵は確か食事会にも居たな。安全な緑髪だ。天使様が好きな可愛らしい人間だ。

アデルフェル伯爵は夜会で話しかけてきたうちの1人であり、ディアブロの父だ。

印象としては貴族らしい男だと思ったくらい。

という事はテレンス公爵は籠もり期間に入ったのか。


「か、神様と、そ、その」

「ない」

「う、うん、そうだよね」


どうやら恋仲だと勘違いしたらしい。

やめてくれ。子どもと恋仲になんて想像もしたくないんだけど。


ふらふらとする頭を支えてもらいながら支度をしてもらっている途中でディアブロの気配が扉の向こうからした。

今から護衛なのかと思っていると扉を叩かれリンジーが対応するとそのまま。


「整えます」

「「…」」


中に入ってきたディアブロが側仕えになったんじゃないかと勘違いしそうになるほど軽やかな動きで支度を整えだした。


「「…」」


どうやらドレスの着方を習得したらしい。

とっても器用だ。


「眠れてますか?」

「…」

「寝不足ですか?」

「…」

「きちんと寝ないと病になりますよ」

「…」

「眠れないんですか?」

「…」

「ハーブティーを持ってるんです。あとで渡すので」

「緑茶を」

「冷たいの?」

「はい」

「…」「…」


普通だと思ってたけど気に入ったらしい。

それにしてもディアブロが寝不足なんて珍しいな。忙しかったのかな?


「ディアブロは側仕えにもなったんですか?」

「いいえ」

「そうですか」

「…」


まぁ、バーナビーが止めに入らないならいいか。


「大丈夫ですか」

「?」

「倒れるように寝ちゃったでしょ?ディアブロも俺も心配してたんだ」


ああ、そういえばそうだっけ。

言い訳なんて考えてなかったや。なににしよう。


「う?」

「…」

「ディアブロ……」


またディアブロに顎を掴まれた。


「「…」」


そしてその視線は「探り」になっている。いや?観察だな。


「ディアブロ!」

「「…」」


なんだか最近はやたらと距離が近い。

ああ、そういえば心配されてるんだっけ。


「大丈夫ですよ」

「っ………」

「大丈夫です、怖くないですよ」

「………」


一瞬だけ瞳を揺らしたディアブロは手を離し、私を視界に入れないようにしている。


「「…」」

「…」


凄く不自然。

リンジーも不自然に感じてる。

だってそんなそっぽ向くなんて仕草、ディアブロ“らしく”ない。

なにかの変化が起きている。

彼の心を動かす事柄があったんだと分かるけど………一体どのタイミングでそうなったのかが分からない。

急激に変わったような、緩やかに変わったような………


ああ………デズモンド様にもそう思った事があったな。


「はいはい、見つめ合ってないで支度するよ」

「「…」」


いつからか目が合っていたらしい。


にしても………


なにが彼の心を動かしているのか。


私ではない。


答えは彼の中にしかない。

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