第31話
ウェルズ・カーシュ伯爵は図体がデカいが、緑髪と茶色の瞳は柔らかな印象がある人間だ。
マコーレー・アデルフェル伯爵は首元まである黒髪に、灰色の瞳は鋭い線の細い男だ。
この二人だけかと思っていたが、どうやら変更があったらしい。
マコーレー伯爵の横に立っている男は、
「グラットン・アデルフェルと申します」
ディアブロの弟も連れてきたマコーレー伯爵の思惑はだだ漏れだ。
ディアブロではなく、グラットンを私の伴侶にしたいという意思を前々から感じている。
「お座りください」
にしてもなんでこの人を選んだんだ?テレンス公爵よ。カーシュ伯爵なら分かるけど、マコーレー伯爵は貴族らしすぎる男だぞ?駒になれてるのか?
「本日は息子の挨拶をさせて頂きたい」
「?挨拶なら先程聞きましたよ」
「いえ、そのうち筆頭護衛としてわが息子が任に着きますので、そのご挨拶ですよ」
ええ?ディアブロの家庭ってなんか複雑だったりするの?凄い敵対心と嘲笑がディアブロに向かってるんだけど………。
息子がもう就いてるのに新たな息子を就かせたいの?なんで?ディアブロの事嫌いなのかなぁ?うーん………。
「私にはよく分かりませんが」
「ええ、それで結構でご」
「ですが、私の筆頭護衛はディアブロ・アデルフェルであり、筆頭側仕えはリンジー・アーチボルトです。それはこれからも変わらない事実として認識しております」
「「………」」
おお…ディアブロの事を睨んでる。二人して。仲が悪いんだねー。
んー…この人がテレンス公爵の代わり?カーシュ伯爵は分かるけど、これじゃぁカーシュ伯爵の重責が傾いちゃうよ。他にいい人間いないの?
あ、いるじゃん。駒が。
あの子に頼もう。
んー…自然に誘導するにはー…
あ。
「グラットンはもうすぐご結婚されると聞きました!おめでとうございます!」
「え!?い、いえっ!そのような事実はございません!」
「そうなのですか?」
「はい」
「でも、この間の夜会で言ってましたよ?ケーリー嬢が直接、「グラットン様と親密な関係性なんです」と」
「な、な、なっ!?グラットン!」
「っっ〜〜、な、なにかの間違えでっ」
「ほう……ただの噂かと思っておりましたが、そのような事が……」
「カ、カーシュ伯爵っ、こ、これには訳がっ、そのっ、」
「そのような失態を天使様の前で晒すのはやめろ」
「は、はいっ!」
親密な関係性…とは言っていなかったけどね。
盗み聞きしてたら男女としての営みを女同士集まって馬鹿にしてた1人だったんで、つい、使えるかなー?と思って言ってみたけど、うん。予想以上にごちゃごちゃになってくれて助かりました。
「女性に触れる際には必ず左太ももから、ですよね?」
「なっ!?なっ!なっ!」
「動揺するな馬鹿息子が」
ここで切っちゃおうかな。
「ディアブロには噂なんてありません、常日頃から私を危険な目に遭わなせないようにと神経を尖らせてくれているんです。仮にグラットンが筆頭護衛になってもそのように仕事だけを考える。なんて事が出来るようには見えません」
「天使様のおっしゃる通りだ」
相変わらず緑髪は天使様擁護になると口を開くね。なんか頭なでなでしたくなっちゃう。
「そして、天使であるこの私が信用している者を排除しようとする姿勢が………気に入りません」
「「………」」
「カーシュ伯爵、他にはいないのですか?」
「すぐに選定を」
「それでしたらマクネル・ディビシー男爵を」
「…」
「お茶会の詫びとして聞いて頂けるのなら一度だけでも話をしてみたいです」
「………天使様のおっしゃる通りになさいましょう」
「ありがとう。ディアブロ以外のアデルフェル家とはもう用がなくなりました」
「「っっ!?」」
「そうでしょう、お見送りをさせて頂きます」
「ありがとう、カーシュ伯爵」
席を立つと、
「危険です」
どうやら家族が危険なのか、私の身が危険なのかは分からないけれど、撤退らしいので大人しく着いていきます。
「浮けますか」
「…」
空間収納は使えた、声を届けるのも出来る。
魔法陣は使い物にならず、力の放出が難しくなっている。恐らくだが、生まれ出た世界の成長に合わせるならば4000年というところかな。この不調が続くのが。
その間、この体でもできること…できること…
「浮け」
「……」
詠唱だな。
口にわざわざ出さなくちゃならない。当分は。
浮いたまま茶会をあとにした私の横にはリンジーとディアブロ。
「リンジー、マクネル・ディビシー男爵に取り次ぎをお願いしてもいーい?」
「すぐに」
「ありがとう」
部屋に着いてまったりしてるとリンジーには他にも仕事があるのかグロリアを連れてきたからちょうどいいと声をかける。
「ディアブロ、グロリア、話がしたいんです。構いませんか」
「かしこまりました」
ディアブロが大丈夫だと判断したなら問題ないんだろうとソファに座って紅茶……今、温かい飲み物を飲んだら寝ちゃいそうだから、紅茶をゴクゴク飲み干して、冷たい水やアイスコーヒー、クリームソーダを出して眠気を覚ましておく。
「ディアブロ、先程のはどう思いましたか?あなたの父と弟です」
「…」
「聞き方を間違えました。あの家族の正しい立ち位置はどこですか」
「領地に籠もり、数年に一度社交として顔出しする以外は必要ないかと」
そうだよねぇ。
画策するのが好きなのかは分からないけど、粗が見える策略を巡らされるとその分他者の時間を無駄に消費する事になってしまう。
内容も対した事でもないし。
「問題は弟ね」
すぐに把握して的確に話し出すグロリア。
「どうして?」
「…」
「オアソビが大好きみたいだから王都から離れたくないんじゃない?」
「ころ」
「黙ってディアブロ」
「…」
うん、確かにね。殺すのは簡単だよね。私も一瞬考えたけど、他にないか考えてみよっか。
「領地で結婚させちゃう?」
「あまり意味の成さない結果になるかと」
「それなら友達に頼むわ」
「なにを?」
「…」
「男だと思ってるから駄目なんでしょ」
「うん?」
「任せて」
「ディアブロ、私には分かりませんがグロリアの案に賛成ですか?」
「問題ありません」
「そう…それならお願いします」
「…」「はい」
ああ、そうだと緑茶の瓶を出して、茶器もいくつか出す。
「はい、緑茶です」
「…」
「なくなればすぐに作れますから言って下さいね」
「お話を」
「?はい」
緑茶を仕舞ったディアブロはどうやら私に疑問を感じたらしい。
「なぜ「浮け」と口にしたんですか」
それ以外はちょーっと扱いづらいからかなぁ?
「しばらく詠唱にしたの」
「なぜです」
「そっちのほうがかっこいいからです」
「………う、そ………」
「へ?」
触ってもいい対象になったのか、触れる対象になったのか分からないけど、無遠慮に頬を触るディアブロはきっと成長途中なんだろう。
湧き出てくるナニカと、過去にあった強い想いが今になって漏れてきてしまっているんだ。
「嘘は駄目だ」
どうして嘘だと分かったんだろう?
「駄目って言われても言っちゃいます」
「禁止にする」
「………」
嘘が嫌い。
その為、最初に嘘を禁止にしたのはディアブロではなくデズモンド様だった。
どうしてそこまで似てるんですか?
「詠唱にした理由を伺っております」
「…」
禁止されてしまえば残っているのはただ1つだけ。
「………答えて下さい」
「…」
無言だ。
「ヒナノ、マクネル・ディビシー男爵がいつ何時でも空いておりますと返答を頂けたから、そのままカーシュ伯爵の元に行って話をしたら夕食をと言われてきた。大丈夫?」
「うん!完璧!ありがとうリンジー!」
ディアブロの射抜くような視線を感じながら冷えた飲み物をお腹パンパンにするまで飲んでました。本に集中できません。
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