第22話


「ヒナノ?……起きた?このまま支度するからね?」

「…」


どうやら眠ってしまったらしい私は、リンジーに起こされて、支度を整えられる為に、抱き上げてもらいながら部屋へと向かった先に居たのは………。


うん、ディアブロ。


私は寝起きが悪い。

悪いけど、寝てる訳じゃない。

すこぶる悪いけど、脳が回転しない訳でもない私は、ディアブロの顔を見て“やべぇ!”なんて咄嗟に思った。

昨日の……何日寝たか知らないけど!この間の私は酷く感情的になり、バーナビーの物である王城を壊し、尚且つディアブロに抱き着いて、みっともなく泣き叫んだ………。


チラッと…ううん、とっても凝視してディアブロをじろじろと、観察するけど………


「「…」」


うん、良かった。

相変わらず「無」です。


抗えない愛が芽生えていなくて本当に良かったぁっ!


「ふあぁぁ……」

「おはよう」

「んー…おはよー…」

「王様とクライム様が室内庭園でお待ちしているんだ、平気?」

「ん?」

「心は大丈夫?」


私に友達が…!そしてその友達が心配を…!心配をしてくれている!


「ふへへー」

「ん?」

「リンジーと友達になれて良かった」

「俺も」


護衛たちを外に出して、洋服に着替え、向かうだけとなった私は、頭を捻る。


「ディアブロってあんなじゃないよね?」

「俺たちも驚いてる」


抗えない運命への想いがやっぱり募ったとか?


「昨日?」

「2日前」


この間の出来事には、頭を捻らずにはいられない。

私の感情には嫌って程、理解している。

そしてディアブロの感情は全くと言っていいほど分からない。

先を考えず、動いたと分かるけど……だからこそ分からない。

だって、感情が動かされる時に、意味を追求しようと行動するだけで、あのように「慰める」なんて事をする人でもないと思う。

この認識は、私だけではなく、周りも持っている彼の常識だ。


「あのあとは?」

「………ディアブロがベッドまで運んだ」

「そのあとは?」

「さっきまで寝室に…処罰は受ける覚悟だと、王様も知ってるよ」

「ううん、心配かけちゃっただけだから…」

「伝えておくね」

「ありがとう…でも、それはどうでもいいというか…ディアブロが心配する事自体が不思議で…」

「俺たちも戸惑ってる。なにを聞いても相変わらず無言なんだ」

「バーナビーにも?」

「簡潔に伝えたらしいけど…」


だろうな。


彼はストーカーのように、見守り続ける。という、気持ちで私に接していない。

相変わらず愛情のない瞳で見つめてくる。

これが、愛情の籠もった瞳。なら、その行動にも理解できるんだけど……。


「薬物?」

「なに?」

「薬物摂取してる可能性は?」

「ディアブロが?」

「ううん、周りにいる人達」

「ああ、それはないよ。毎日色々な検査を終えてから業務に向かうから」


え………。

なんか大変だね?お疲れ様だよ?

バーナビーに伝えておこうか?もう少し緩くしてあげなよって。

にしても、薬物でもないとなると、感情のコントロールを薬でしてる訳でもなければ、感情のコントロールが上手い人でもない。

だって、心乱れる時があるのは、グロリアも知っている。


やっぱり不思議な人間だ。


支度を終えて、扉を開けた先にいたディアブロはやっぱりなにも感じ取れない。


私は最低だ。

ディアブロとデズモンド様を重ねるなんて…。

あれ?


………


似てる???


そうだ、似てる。


デズモンド様をデズモンド様として、愛する伴侶として接するまで、魔王様という認識を持っている時のデズモンド様は無言が多かった。必要な事以外を発さず、けれどディアブロと異なるのは過度な心配を私に………。


…………


心配………されてると思う。


だって…ずっと寝室に居たっていう事は、そういう意味合いが込められていると考えてもおかしくない。


そういう人間………という事かな。


デズモンド様は、漏れ出る魔力と、唯一無二の魔王としての覇気が溢れ、四天王と呼ばれる、魔力の高い魔人でさえも、最初は近寄る事が出来なかった。

人と関わる事がなかった為、己の感情にも疎く、私を愛しているという感情も少しずつ理解していく人だった。

無言だけれど、なにを言いたいのか傍にいればいるほど理解していった私は、デズモンド様が無言だとはあまり思わなくなっていったけど………。

はたから見たら、ディアブロのように見えていたんだと思う。


「「………ヒナノ?」」


はっ…と、顔を上げると、心配そうな表情をしている二人。


「……バーナビー!ルーシャン!会いたかった!」

「「大丈夫か?」」


考えすぎてしまったのか、室内庭園に来ていた事にも気付かなかった。


「大丈夫!心配してくれてありがとう!遊べる?」

「「遊ぼう」」

「やったー!」


あ、でも…マージャンなくね?

アレスを転移させたら持ってきてくれるかな?


「ぐごー!ぐがー!」

「「「「「「!?」」」」」」


寝てたみたい。ごめんよ。戻しておくね。

天界の岩の上なの?元居た場所。

うん、岩がたくさんある家を創っておくね?

好きに使ってね。


「あれ?消えちゃった」

「お、驚いた…」


マージャンは駄目か。


「なにして遊ぶ?」

「盤上の遊びだ、やりながら教えよう」

「うん!」


二人で遊ぶゲームらしく、ルーシャンは対戦相手、バーナビーは話し相手になってくれるみたい。


「食事会の様子を聞いた」

「うん、迷惑かけてごめんなさい。建物も壊しちゃった…」

「そんな事は気にしなくていい、大丈夫か?」

「もう平気、なのは嘘だけど……でも、心の整理を始めなくちゃね」

「「………」」


あの時は、心がごちゃごちゃと荒れていて、なにを口走ったかは分からないけど、まぁ、なんとかなるだろう。なんとかしよう。うん。


「女の子と遊んだのは悪い事ではないんだ」

「………」


…………………ああ!住んでた集落に他所の人間を入り込ませてしまったというオハナシか!

そう捉えたんだね!ありがとう!


「うん…でも、私のせいだから…私のせいで死んじゃったか」

「大丈夫だ」

「「「…」」」


何故ここでディアブロが口を開く………。

誰も彼もが驚いてるだろ。


やっぱり心配………してるな。


「あ、あのね?」

「あ、ああ」

「ディアブロとも友達になったから、だから、その、心配してくれてるだけで、その、だから、できれば…処分はしないで欲しい、の……」


なってないけどね?


「分かった。が、態度が問題だ。これは外さなきゃならない態度をしている」


それは困った………。

天使サマーに仕える者として相応しくないのは分かる。

でもまだ彼の事を知りたい。


「ディアブロ」

「はい」

「態度を改める事はできますか?あ、いえ、命令です。改めてください」

「かしこまりました」

「これじゃ駄目?」

「「…」」


駄目らしい。


「様子見にしよう」

「む…」

「あ、ありがとう…!ルーシャン!」

「………試しにもう一度言ってもらえるか?ツラければ…」

「あ、ううん。大丈夫。「私のせいで死んじゃった」」

「大丈夫だ」

「「…」」


お前は機械人形かなにかかよ。

柔軟性を持て、柔軟性を。


「バーナビーたちと秘密の話したい…」

「そうしよう」


このままではディアブロが外されてしまう。

私をテーブルの上に押し倒したり、抱き締めたりする行動は護衛としての職務を超えて……明らかに超えすぎている。


「もう大丈夫だ」

「三人だけ?」

「ああ」


しょうがないよなぁ…。


「私の種族の特徴にもう一つあってね?」

「「ああ」」

「運命が分かるの」

「は?」「え!?」


まぁ、そうなるよねぇ………。


「その、獣人や竜人ほどではないの。あ、運命だ、ふーん。くらいの感覚しかないんだけど…」

「「…」」

「えーっと……」

「ディアブロが運命か」


ルーシャンの鋭さが今ここで発揮しなくていいんだよ。


「うん……。彼は抗ってるみたいだし…私も伴侶は欲しくないから抗ってて…でも、その…」

「そういう事なら、目を瞑ろう」

「本当!?」


バーナビーは柔軟性に溢れているね!


「ルーシャンも私の運命だ。ディアブロにも事情があるんだと思うが、それ以上に運命を大切にしたい私の心で許可を出そう」

「ありがとう!本当にありがとう…!ディアブロには」

「「内緒だな」」

「うん!」


良かった…!観察がまだ続けられる!


「私も表で感情的にならないように頑張るね!」

「ふっ、ほどほどにな」


そもそも私が爆発的に感情を溢れさせたから悪いんだ!きちんと制御をしなければ…!


「ヒナノは強いのか?」


弱く見せてるよ!?弱くない!?


「どうして?」

「雷も驚いたが、ディアブロの攻撃を弾き飛ばしたと聞いた」

「?うん」

「普通のこと…なのか?」

「え?氷魔法の初歩だよ?」

「それも聞いてはいるが…あんなモノでディアブロの攻撃は避けられない。国一番の強さがある者だ」


そうなんだ。

あ、いや、弱いとは思ってないし、それなりの人を選んでくれたとは思っていたけれど、そもそも彼のあの攻撃も、強くはなかったというか、かなり手加減してたし。


「ここで使ってみていい?」

「ああ、音を戻すぞ」

「うん」


この国で使用している魔法陣を宙に描いて説明する。


「これだけ」

「「……普通だな」」


でしょ?


「なにが違うんだ?」

「あ、もう一度ディアブロにやってもらう?」

「そうしてみよう」


好奇心旺盛なのか、あっさりとバーナビーが許可を出した瞬間、この間の攻撃魔法を放つディアブロに、展開してた氷魔法の陣を放つ。


「「「「「「「「!?」」」」」」」」


やっぱりみんな驚くね。


「なにが…」

「どうやって………」

「多分、魔力の流れが汚いからじゃない?」

「「………ん?」」

「正確に描いた陣に、必要量の魔力を正確に流し込む。これが私の世界でのやり方」

「確かに……手本のような陣だな」

「やってみよう」


そこから主に、ルーシャンがるんるん気分になりながら魔法陣を楽しんで………ちょ、ちょっと待ってよ!遊びは!?魔法陣で遊び始めて結構経つけど、私との遊びは…!?


ねえ!

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