第19話


夜会会場には転移で向かってもいいけれど、初めて顔見せを行うという事で、扉からの入場となった。


中には既に、全ての者たちが集まり、到着を待っているという現実に、何度目かの疑問を覚えた。

バーナビーとルーシャンはいいんじゃない?だって、バーナビーの幸福を与える為の使命を神から授かった天使サマーは、どちらかというと、バーナビーを護衛する立ち位置の方が正しいんじゃない?なんて考えていると、両扉が護衛によって開き、そして、わざと出しているんだろう扉の音が大げさに夜会会場へと響いた。


コツ…コツ…コツ…。


やっと歩けるようになった私は、傅き、敬意を払っている者たちの真ん中を通るように、ゆっくりと歩き出す。


コツ…コツ…コツ…。


やっぱり疑問なんだけどね?バーナビーまでもが、頭を垂れる必要はないんじゃないかな?


コツ…。


「顔を上げてください」


バーナビーの元へ行き、そんな事を言う私はやっぱり立場が逆だと思わずには居られない。


「天使様、私の幸福の為にと世界を渡って頂き、感謝致します。神様のお言葉通り、あなた様に敬意を払い、遣い様である存在を認め、導いて下さる道標に沿って進む事をお約束致します」


そういう収まり方をしたらしい。

それならばと、この国の礼をして、感謝を伝える。


「神アレスが認めた王であり、唯一の愛し子である我らが王様に出会えた最大の感謝を贈ります。そして、私の存在は貴方様に必ずや、良き出会いとなり、幸福へと導く手伝いをさせて頂きたいと、心から、私自身の心で仕え続ける事を誓います」

「「「「「「「「「「「「「!!!」」」」」」」」」」」」」


ゆっくりと顔を上げると、驚いた顔が2つあるから、ニッと笑って、“どうだ!”なんて顔をしてやった。

私はバーナビーに仕える立場だよー、分かったかなー?


「「ありがとうございます」」


どういたしましてー。

案内された席に座るよー。

あとは挨拶にくる貴族と仲良し♪しておけばいいだけですからねー。


そのうち声をかけてくる人間がわらわらと集まってきた。

順番制じゃないんだね…私、君達に埋もれて消えそうだよ…。

しばらく対応してたけど、リンジーが蹴散らしてくれたらしい、ありがとう!

色々おすすめされた飲み物と食事を口にしつつぼーっとしてるとまた、数人集まってきた。


「天使様、こちらはいかがです?」

「ありがとうございます」


今飲んでるのが終わってからね?ちゃんと飲むよ?


「今度、私の領地に遊びに来ませんか?」

「王様と行ける機会があれば是非」

「そ、そうですね」


こんな感じでそそくさ消えるから楽でいい。


「天使様、こちらの髪飾りはいかがですか?」

「王様に似合いそうです、声をかけてみたらいかがです?」

「も、もちろんですとも」


王様って凄い…。


「天使様、不自由はございませんか?」

「良くして頂いていますよ」

「それは良かった…世界を楽しんで下さい」

「はい、ありがとうございます」


天使様って凄い…そんなに安堵しなくても嫌な事なんてないよー。

声をかけてくる人達は天使様に会えた喜びにお酒の手が進んでるらしいです。

良きかな良きかな。


「無理はなさらないで下さい」

「ん?」

「残してくださって結構です」


そうリンジーが声かけてくれる。

それもそうか、普段はちょこっとしか食べないもんね。


「お腹いっぱいにならないの」

「…そう、なのですか?」

「うん。お腹空いたもないから、お腹いっぱいにもならないの、だから大丈夫!心配してくれてありがとう!」

「お口に合わなければ残して下さいね」

「はあい」


パクパク食べて飲んで飲んで貰った物を消費しつつ声を拾ってた。

この国は本当に魔法も技術も、今まで見たどの世界よりも強く、そして美しく描いてくれる。

獣人も居る為、音を遮断するように話す事も当たり前みたい。

魔法陣は綺麗で美しく描かれているけれど、必ず綻びが存在する。

その隙間は誰であっても埋められない。神々でさえ。

だが、穴に気付く者もまた少ない。

その合間を潜って声を拾っていった。


『天使様は淫魔に似ているな』


『王様の元に天使様がいらっしゃったのは当然の事だ』


『いやはや!貴方様まで出てこられるとは…!』


歓迎ムードだな。

バーナビーを慕っている者達ばかりだし、天使様という存在にナニかしたいとも奪いたいとも思っていない。

いてもほんの僅かだ。

大丈夫そうだね。


『この国を幸福に…という事は、今は幸福ではないのではないか?』

『やめておけ』


歴史というのは歪む。

書物に残され、人づてに残される昔話は語り手によって変化され、聞き手によって変化する。


それはとても自然な事。


椅子から立ち上がって、バーナビーと話したい貴族達の群れをお邪魔する。

途中からリンジーに手を繋がれながらだけどね。


「バーナビー!踊り知ってる?」

「ダンスは分かるが、ヒナノの知ってるダンスは知らないな」

「大丈夫だよ!踊るだけだもん!」

「ふっ…そうだな」

「神様から愛された素敵な王様、どうか私と踊ってくれませんか?」

「っっ、……喜んでお受けする」


腕の長さも違ければ、浮いているから地面に足をついていない不格好さも、体の幅だって全て可笑しい。

それでもバーナビーの両肩に手を置いて笑うと、手で腰を持って動いてくれる。


「ふふ」

「退屈だったな」

「んーん、可愛いドレスが着れて楽しい」

「そうか」


ぐいっ!っとバーナビーを引っ張るように体を引いて、くるくると回ってから、バーナビーも回ってというように、手をバーナビーの頭の上でくるくる動かすと楽しそうに回ってくれる。


「ね?大丈夫でしょ?」

「そうだな…ふっ!楽しいな!」

「でしょう!」


ルーシャンの元まで踊りながら行くと、バーナビーと私が同時に手を差し出してルーシャンを引っ張って3人で踊った。


「あ!そうだ!」

「「ん?」」


バーナビーの手をルーシャンの腰に置いて、ルーシャンの手をバーナビーの首に回す。


「お、おい」

「このまま、ね?」

「天使様の願いだ」

「っっ」


浮きながらリンジーの元まで戻って二人のダンスを見届けた。


私が来るまでも幸福だった。


けれど、もっと幸福になるんだよ。


分かってくれたかな?










「天使様、ご挨拶を」

「ぶはっ!」

「「「大丈夫ですか!?」」」

「だ、だいじょ、ぶ、へ、へんなとこに、は、はいった、だけ…っっ〜〜」


なにこの人なにこの人なにこの人!

わ、笑いそうになるでしょ!?なにかの罰ゲームなの!?

笑っていいの?駄目なの?これって常識?


「洗浄は致しましたが、喉の調子はいかがですか?」

「グロリア、だ、だい、ちょ、ちょっと…まって…」

「はい」


駄目だ!笑える!

お腹を押さえながら、笑わないように力を入れるけど、挨拶をしに来た人を見上げたら…。


【こいつはバカ】


「ぶはっ!」

「「天使様!」」


ひ、額に、額に、ば、バカって…!か、書いてあ、あるよ!?な、なんで!?


「リンジー、な、ないしょ、ばなし」

「かしこまりました」


その人を一度下げて、防音にしてくれたから思いきり笑う。


「ぶはっ!あははははっ!あはっ!ひー!あははっ!んふっ、な、なんで、あははっ!」

「「?」」


二人とも不思議そうな顔で見てるけど、ちょっと待ってね?笑いが止まらないから。


「んふっ、あ、あの人の額に、魔法で、ぶはっ!あははっ!」

「額?守りの陣があったけど…それのこと?」

「あ、あれ?あれが、まもり、まもっ、ぶはあっっ!」


ただのバカです。って、練り歩いてるだけで、守りなんかじゃ…。

あ、あの人と、描かれている魔法陣の魔力質は異なってたから別の人間が書いたのかな?


「あはははっ!っっ〜〜、も、文字見えなかった?」

「「いいえ」」

「じゃぁ、たぶん、うはっ!あはははっ!」


翻訳だ。

私の翻訳魔法で見えるようになってる。


「あ、あの、魔法陣、だ、誰が、んふっ、んんっ、誰が発案したの?」

「こちらに来てはおりませんが、王城の守りや、新たな魔法陣を発明する方です」

「会いたい」

「かしこまりました」

「すぐじゃなくて、ぶはあっ!いい、から、」

「はい、あとでお聞きしますね」

「うん、ふはっ!」


あー…久しぶりに笑ったあ!

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