第18話
結局グロリアは1年無給で働くという罰を受けたと同時に、訓練量も倍にされたと聞いた。
それはディアブロも同じ。
どうやら、私の伝えた言葉も、事の顛末も、全てなぞるように、正確にバーナビーへと伝えたらしく、結果、二人共に罰を。という事になったんだって。
「お金はいいから訓練量なしにしてって頼んでよ」
「やだよ、自業自得じゃん」
あれからグロリアは化けの皮が剥がれ、無遠慮に接してきた。ので、私も化けの皮を剥がし、私として接している。
もちろん隠し事は多いけど、取り繕った、かわいこちゃんぶる私が大嫌いらしいので、グロリアには素に近い態度で向き合っている。
変わりつつある私の性格は、この世界に慣れてきた証拠とでも思われてるのか、周囲には不思議に思われていない。
「ディアブロが好きなんです」
「無理だ」
仕事の最中でも…というよりは、仕事でしか会えないらしいので、ここぞとばかりに告白をしてはフラれているグロリアと、まだ私の命令が有効だと思っているのか、変わらない返答でも返答するディアブロ。
「どんなところが好きなの?」
「こ、こんなところで言えない…」
なに乙女出してんだ、殴るぞ。
「でも、私はグロリアとお喋りがしたい」
「すれば?」
「いつも誰かが側にいるから“こんなところ”は変わらないと思うの」
「そ、そ、うん」
私の髪の毛を整えているグロリアは鏡越しで見ても赤い顔をしている。
「姿形も好き、強いところも好き」
「あとは?」
「あと………?」
気になってたんだよね。どこがいいのか。
いや、否定する訳じゃないんだけど、別になんだっていいんだけど、この間の喚きを聞いていたら気になっちゃってね?
「いつも無言なんでしょ?」
「?うん」
「なにを話しても無言なんでしょ?」
「?当たり前でしょ、ディアブロだもん」
だよね。
「中身のどんなところが好き?」
「………」
「「「「………」」」」
ね。
一目惚れしたとも聞いた、その後した努力に凄いとも思った。近付きたくて、ディアブロしか見てなかった人生に羨ましいと思った。
でもね?
「例えば結婚したりするでしょ?“おはよう”って言ったら無言が返ってくる毎日がグロリアの好みなの?」
「「「「「………」」」」」
「今日はデートしよ♡なんて言って、無言が返ってくるデートがしたいの?」
「「「「「………」」」」」
「一体性行為ってどんな感じなのかな?」
「「「「「………」」」」」
「無言?」
「「「「「………」」」」」
ね。気にならない?
「グロリア、手が止まってる」
「…失礼致しました」
「うん」
リンジーの注意で仕事を再開したグロリアはきっと、「結婚したら………」なんて考えているに違いない。
相変わらず、よく顔に出る友達だ。
リンジーとグロリアが揃っている今日は、夜会の日。
自国の貴族らにお披露目して、すぐに街歩きと、数名とのお茶会。そして、他国を招いてお披露目を、テレンス公爵の主導でテキパキと進んでいる。
「なにがいいの………?」
どうやら自問自答しだしたグロリアは、しばらく頭の中がぐるぐると忙しいだろう。
鏡越しでチラッとディアブロを盗み見て、何が過去にあったのかと、私も思考の渦に落ちる。
彼は、「無理だ」しか言わない。
グロリアの恋心に無理という。
グロリアが私を好き。なんていう、妄想にも無理という。
それはおかしい。
「付き合えない」「好きじゃない」なら分かる。だが、どちらの返答も「無理」なのだ。
それは好きになれないという事ではないだろうか?決めた相手がいる。というのが、今のところの持論だ。
そして、その相手とも結ばれない。
だからこその、「無理」なのではないだろうか。
ふむ。
「ディアブロ」
「はい」
「命令ではなくただの好奇心なのですが、心に決めた方がいるのですか?」
「…」
面白い。
「ごめんなさい、忘れてください」
彼は案外分かりやすいのかもしれないな。
心動かされる事がないというのは、心動かされる衝動と出会った時に、分かりやすいほどに、顔に、心音に、汗に出る。
焦燥だ。
焦り、心深いどこかに苛立ちが存在していると、全てで語っている。
赤子のような彼は、新しく芽生える、誰しも経験する感情が、今更新しく芽生えた時、己自身でさえも持て余すほどのなにかに突き動かされるんだ。
うーん…。
これからもあるだろうし。
彼が暴れたように見える行動を取る度にバーナビーを説得する訳にもいかないし。
だからといって、今、彼の研究をやめたくもない。
どこかにいい駒いないかなー?
「すきなところ………」
まだ考えてたのか。
もうドレスに着替えて夜会だよ。大丈夫そう?
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