第14話 僕は何者

「保留」


その二文字は、キャラクターではなく、進自身に突きつけられた判定だった。

《ルーシェ》は僕だった。

だから、保留されたのは――僕自身だ。


(支えるだけじゃ、だめなのか)

(攻撃がないと、価値はないのか)

(それじゃ……ルーシェじゃなくなる)


頭の中で、言葉が何度も衝突する。

採用されるためには、ルーシェは“強さ”を手に入れなければならない。

明確な攻撃力。

目に見える成果。

誰にでもわかる「役に立つ存在」。


けれど、それは本当に《ルーシェ》なのだろうか。


目立たなくていい。

前に出なくていい。

誰かを押しのけてまで、輝かなくていい。


ただ、そこにいて、支える存在でありたかった。

それは進が、自分自身に与えてきた役割だった。


自分のキャラクターへの愛か。

クリエーターとして成功するための変質か。


それとも――

自分自身を肯定することか。


答えは、まだ出なかった。

だから進は、描かないままペンタブを置いた。


《僕は何者か》

その問いは、まだ“保留”のままだった。


――終わり。

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僕は何者 余白 @YOHAKUSAN

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