第13話 僕は何者

「“僕”の……《ルーシェ》は、ヒューマンのサポートキャラクターです」


進の声は、会議室に溶けるように消えた。


「派手な技はありませんが……パーティ全員の魔法数値に、バフ効果を……与えて、支えます。ルーシェ……自身の、専用魔法は……ありません……」


言い終わる前から、失敗したとわかっていた。

人前で話すのは昔から苦手だった。訓練でどうにかなるものじゃない。頭の中では完璧に組み立ててきたはずの言葉が、口に出ると途切れ途切れになる。


加藤は資料に目を落としたまま、淡々と問いを投げた。


「なるほど。では、《ルーシェ》の一番の強みは何でしょうか?」


核心だった。


「あ……えっと……パーティ全員を、支えられることです……」


それしか出てこなかった。

それ以上の言葉を、進は持っていなかった。


「それだと――」


加藤は顔を上げ、進を見た。


「“いてもいなくても変わらない”キャラクターになりますよね」


胸の奥が、ひくりと縮んだ。


(……その通りだ)


反論は浮かばなかった。

mirrorの《エルザ》のように、戦場を一変させる力はない。

“絶対に必要”と断言できる理由もない。

支えているつもりで、実は何も変えていない。


「わかりました」


加藤は資料を閉じた。


「《ルーシェ》は一旦、保留にします」


その言葉は冷静で、正しかった。

だからこそ、余計に刺さった。


他のクリエーターのキャラクターは次々と「採用」が告げられていく。

頷き、笑顔を見せる人たちの中で、進だけが取り残されていた。


恥ずかしかった。

悔しかった。

そして何より――


(……やっぱり、僕は“何者”でもなかった)


進は俯いたまま、机の上の資料から目を離せずにいた。

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