第12話 僕は何者

キャラクター提出から数日後、進——“僕”は再びゲーム会社の本社に呼び出された。


二度目ともなると、最初のような過剰な緊張はなかった。

受付も、エレベーターも、会議室までの廊下も、どこか見慣れている。


——ここに来る資格は、もうある。


そう思いながら、前回と同じ会議室の扉を開けた。


ガチャ。


(……あれ?)


室内を見渡した瞬間、違和感を覚える。

人数が、明らかに少ない。


前回の、半分ほどしかいない。


戸惑って立ち止まる進の背中を押すように、後ろから加藤が入室してきた。


「先日、提出していただいたキャラクターですが——」


加藤は淡々と告げる。


「本日ここにお集まりの皆さんのキャラクターは、正式採用となりました」


一瞬、言葉の意味が理解できなかった。


——つまり。


提出した段階で、半数以上のクリエーターは落選したということだ。


進の胸に、ちくりとした痛みが走る。

名前も知らない誰かの努力が、静かに切り捨てられた事実。


それでも同時に、別の感情が確かに存在していた。


——選ばれた。


その事実が、どうしようもなく甘かった。


加藤は続けて、順番にキャラクター設定の確認を始める。

他のクリエーターたちは、迷いなく答えていく。


数値、役割、世界観との整合性。

“プロ”同士の会話だった。


進はただ、それを聞きながら圧倒されていた。


(……みんな、慣れてる)


そして、場の空気が一段階変わる。


「それでは次に、mirrorさん。

ヒューマン攻撃タイプの魔法少女エルザについてお願いします」


mirrorが前に出る。


「エルザは魔法少女ですが、杖を剣としても扱えるキャラクターです。

そのため、遠距離と近距離、両方の戦闘を得意としています」


淡々とした口調。

だが、内容は圧倒的だった。


魔法少女でありながら、武器は二系統。

衣装は可憐さを残しつつ、防具としての機能も備えている。

近接対策と世界観設定が、すべて噛み合っていた。


——五日間で、ここまで?


進は言葉を失った。


(……これが、天才?)


自分にはなかった発想だった。

魔法少女は、魔法で戦うもの。

その固定概念に、進は疑問を持ったことすらなかった。


mirrorの説明には、一切の矛盾がなかった。

加藤も、他のスタッフも、頷いている。


そして——


「では次に、“僕”さん。

ヒューマンサポートの魔法少女ルーシェについてお願いします」


ついに、自分の番が来た。


進は、喉の奥が乾くのを感じながら、口を開いた。


——ここからが、本当の勝負だった。

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