第11話 僕は何者
打ち合わせから帰宅した進は、迷うことなく自分の部屋のパソコンを立ち上げた。
画面に映る白いキャンバス。その中心に、彼は《ルーシェ》を描き始めた。
控えめな魔法少女。
主人公ではない。派手な必殺技もない。
けれど、彼女がいなければパーティは成立しない。回復し、支え、仲間を生かす存在。
——それは、進自身がずっと目指してきた立ち位置だった。
目立たなくていい。
学校の一軍じゃなくていい。
どうせ自分にはなれないのだから。
それでも、存在はしていたい。
ルーシェは、進そのものだった。
ペンタブを握る手に、自然と力がこもる。
正面、背面、左右の立ち姿。
表情差分としての顔のアップ。
色、装飾、衣装の質感。
一線一線に、これまでの人生を込めるように描き上げた。
最後にキャラクター
送信完了の表示を見た瞬間、胸に広がったのは不安ではなく、達成感だった。
——僕のルーシェが、世界に出ていく。
それは、この上ない高揚だった。
締切前日の夜。
いつも通り、進は母親と食卓を囲んでいた。
「……クリエーターの仕事、忙しそうね」
母はそれ以上踏み込まなかった。
進も、詳しくは話さなかった。
「そんなことないよ。でも、大きな案件をもらえて満足してる」
それは嘘ではなかった。
ルーシェが世界に出るのは、もうすぐなのだから。
進は、その先に待つものを、まだ何も知らなかった。
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