第10話 僕は何者

「私はこのヒューマンのキャラがいいです」

「俺はこのドワーフがいいかな」

「私もこのエルフがいいです」


クリエーターたちは、まるで待っていましたと言わんばかりに、次々と希望のキャラクターを口にしていく。

迷いのない声。即断即決の態度。

進はその光景を、少し距離を置いて眺めていた。


(僕は……)


資料に視線を落とす。

ヒューマン、サポートタイプ。

前に立つより、誰かを支える役。目立たないけれど、必要な存在。


(この子がいいな……)


「“僕”さんは、ご希望のキャラクターはどれですか?」


声をかけてきたのはmirrorだった。

年下の男の子に名を呼ばれた瞬間、進はなぜか恥ずかしくなった。展示会で見た圧倒的な存在感が、脳裏に蘇る。


「あ……僕は……ヒューマンの、サポートの子がいいです……」


肩をすくめるように、控えめに答える。

自分の声が、必要以上に弱く聞こえた。意見を言うのは、昔から苦手だった。


拍子抜けするほど、担当はすんなり決まった。

mirrorは当然のように、主軸となるヒューマンの攻撃タイプを任される。誰も異論を唱えない。彼が特別であることは、この場にいる全員が理解していた。


「それでは、皆さん担当が決まったということで」


加藤が話を締める。


「提出期限は五日後です。資料に記載されたサイトへ、担当キャラクターのデザイン、クリエーター名、キャラクター名を提出してください。本日はありがとうございました」


会議室の空気が一気にほどけ、クリエーターたちは次々と部屋を後にした。


進も流れに身を任せるように外へ出る。

帰りのエレベーターを待っていると、背後から足音がした。


mirrorだった。


(あ……なんか……話さないと……)


理由はない。ただ、このまま何も言わずに別れるのが落ち着かなかった。


「“僕”さんは、どうしてあのキャラクターを選んだんですか?」


不意に投げかけられた質問に、進は一瞬言葉に詰まる。

高校生のはずなのに、その声は落ち着いていて、こちらの方が年下のように感じられた。


「……最初に描いた魔法少女が……“ルーシェ”って名前で……」


視線を落とし、もごもごと続ける。


「……その子のイメージに、すごくぴったりだったので……」


mirrorは少しだけ驚いたような顔をしたあと、柔らかく笑った。


「そうなんですね。思い入れのある子が、ゲームになるなんて素敵じゃないですか」


その笑顔は、不思議なほど澄んでいた。


「mirrorさんは……その……もうデザイン、決まってるんですか?」


恐る恐る、探るように尋ねる。


「僕は、まだ何にもないです。これから考えます。あ、エレベーター来ましたね」


扉が開き、二人で乗り込む。

エレベーターの中は、沈黙だけが流れていた。


やがて扉が開く。


「では、また」


そう言って、mirrorは振り返らずに去っていった。


進はその背中を見送りながら、胸の奥に小さなざわめきを感じていた。

――まだ何もない。

その言葉だけが、妙に強く残っていた。

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