第9話 僕は何者
「今回のソーシャルゲームですが」
担当の加藤は、手元の資料に目を落としながら淡々と説明を続ける。
「ジャンルはファンタジーMMORPGです。RPG要素とシミュレーション要素を併せ持ったタイプになります。キャラクターそれぞれに物語があり、世界観を重ねていく設計です」
進は息を潜めるように聞いていた。
「皆さんにデザインしていただきたいのは、ヒューマン、エルフ、ドワーフの“魔法少女”です」
(……三種族)
言葉を噛みしめる。
つまり、三タイプのキャラクターデザインを任されるということだ。
全員が同時に理解し、わずかに空気が動いた。
「人気キャラクターについては、季節イベントや限定イベントごとに特別衣装の実装も検討しています」
(……継続案件)
進の胸が高鳴る。
一度きりでは終わらない。
キャラクターが“生き続ける”可能性がある仕事だった。
「こちらの資料に、各キャラクターの特性タイプを記載しています。攻撃系、サポート系、回復系、それぞれ役割と相性もまとめていますので――」
加藤は資料を全員に配った。
(すごい……)
進はページをめくる手が止まらなかった。
企画書というものを、初めてまともに読んだ。
数値、役割、世界観。
キャラクター同士の関係性まで設計された、本気のゲームだった。
(このゲームのキャラクターデザインを……僕が……?)
喉が熱くなる。
クリエーターとして、これ以上ないほどありがたい仕事だった。
会議室に沈黙が落ちる。
その沈黙を破ったのは、mirrorだった。
「皆さん、どのキャラクターを担当したいか、ご希望ありますか?」
一瞬、空気が張り詰める。
どの種族、どの役割を引き受けるか。
それは、単なる分担ではない。
この場での“評価”を左右する選択だった。
(ここで決まる)
進は無意識に資料を強く握りしめていた。
ヒューマンは王道。
エルフは人気が出やすい。
ドワーフは癖が強く、実力が試される。
(……負けたくない)
心臓がうるさく鳴る。
ここにいる誰にでもなく、
mirrorにだけは、負けたくなかった。
“僕”として。
魔法少女を描いてきた人間として。
進は、静かに口を開こうとした。
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