第8話 僕は何者
年齢も性別も、まるで統一感がなかった。
スーツ姿の者もいれば、ラフな服装の者もいる。
誰がどんな実績を持っているのか、見た目だけでは判断できない。
もちろん、“僕”も同じだった。
(どこに座ればいいんだ……)
立ち尽くす時間が怖くて、進は視線を泳がせる。
そして、空いている席を見つけると、逃げ込むように腰を下ろした。
ガチャ。
「こんにちは。はじめまして、皆さん」
柔らかな声が室内に響く。
「今回の企画を担当します、佐藤律人(さとう りつと)と申します」
物腰の柔らかい男性だった。
敵意も威圧もない、淡々とした空気に、進はわずかに肩の力を抜く。
順番に、集まったクリエーターたちが自己紹介を始める。
聞いたことのある名前。
SNSで見かけたことのあるアカウント。
そして、まったく知らない名前。
(……すごい人たちの中に、来てしまった)
そう思った時だった。
「はじめまして。mirrorです。よろしくお願いします」
一瞬、音が消えたように感じた。
(……え?)
進の心臓が跳ねる。
顔を上げると、そこにいたのは、想像していた姿とはまるで違う人物だった。
高校生か、よくて大学に入ったばかりに見える、華奢な男の子。
(mirror……?)
絵の繊細さから、勝手に女性だと思い込んでいた。
長年描き続けている、経験豊富な大人だと。
それなのに。
「mirrorだ……」
「mirrorさんだ……」
「え、やば……」
クリエーターたちの間から、小さなざわめきが漏れる。
憧れ。
嫉妬。
畏怖。
そのすべてが、空気に混じっていた。
(また、同じ場所に並んでしまった)
胸の奥が、じわりと痛む。
展示会のあの日と同じだ。
同じ空間にいて、同じ“魔法少女”を描いているのに、
見る人の視線は、自然とmirrorに集まる。
(……負けたくない)
進は、無意識に拳を握りしめていた。
憧れの存在。
同時に、どうしても超えたい存在。
ここは仕事の場だ。
勝ち負けを競う場所じゃない。
頭ではそう理解している。
それでも。
“僕”にとって、これは試合だった。
自分が“何者”かを証明できるかどうか。
それが、今まさに試されようとしていた。
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