第3話 僕は何者
ある日だった。
いつものようにパソコンを立ち上げると、見慣れないダイレクトメッセージが届いていた。
「“魔法少女”をテーマにしたイラスト展示会を計画しております。
よろしければ、“僕”さんも参加していただけないでしょうか。」
一瞬、意味が理解できなかった。
視線を何度も文字の上で往復させる。
――展示会?
――僕が?
あまりにも唐突で、現実味がなかった。
胸の奥がざわつき、指先がわずかに震える。
「“魔法少女”をテーマにしたイラスト展示会……」
独り言のように呟きながら、頭の中で情景を思い描く。
きっと、他にもたくさんのクリエーターが参加するのだろう。
自分と同じように、魔法少女を愛してきた人たち。
迷いは、なかった。
怖さよりも、期待の方がはるかに大きかった。
一度は誰かに認められた世界だ。
なら、もう一歩踏み出してもいいはずだ。
気がついた時には、返信欄に文字を打ち込んでいた。
「喜んでお受けいたします。」
送信ボタンを押したあと、深く息を吐いた。
心臓が早鐘を打っていた。
――展示会用の、魔法少女。
頭の中に、次々とイメージが浮かぶ。
王道は避けたい。
他の誰かと似たものにはしたくない。
どんな世界観にする?
どんな敵と戦わせる?
魔法の源は?
彼女は、何のために変身する?
考えれば考えるほど、楽しかった。
その日から、進の創作意欲は止まらなかった。
仕事から帰るとすぐパソコンを立ち上げ、ペンタブを握る。
眠気も、時間も、関係なかった。
自分でも信じられないほど、手が動いた。
線が迷わず走り、色が自然に乗っていく。
――これが、描きたかったものだ。
胸の奥が熱くなる。
世界に向けて、自分の「魔法少女」を差し出せる喜び。
その時の進は、まだ知らなかった。
この展示会が、祝福であると同時に、
ゆっくりと自分を壊していく始まりになることを。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます