第2話 僕は何者

学生時代の僕は、正直に言って、男の友達が多いタイプじゃなかった。

スポーツは苦手で、球技の時間はいつも居場所がなかった。

話題も合わない。流行っているゲームや部活の話についていけず、かといって勉強ができるわけでもない。


成績は中の下。

可もなく、不可もなく。

目立つ理由も、誇れる肩書きもない、どこにでもいる人間だった。


そんな僕に、初めての転機をくれたのが、あのWebデザインコンテストだった。


物心がついた頃から描き続けてきた魔法少女。

誰に見せるわけでもなく、評価されることもなく、ただ自分の世界の中で育ててきた存在。


――僕の絵には、どれくらいの価値があるんだろう。


そんな疑問が、ふと胸に浮かんだ。


他人にも、家族にも、絵を描いていることは話したことがなかった。

笑われるかもしれない、理解されないかもしれない。

その可能性を考えるだけで、口を閉ざしていた。


でも、ペンネームなら大丈夫だと思った。

名前を隠せば、「僕」だとバレることはない。

傷つくのは、絵だけでいい。


そう思って、応募ボタンを押した。


結果は、審査員特別賞。


画面に表示されたその文字を見たとき、しばらく現実だと理解できなかった。

何度も更新して、スクリーンショットを撮って、それでも信じきれなかった。


それでも確かに、世界のどこかにいる「誰か」が、僕の絵を見て、価値があると言ってくれた。


その日から、少しずつ自信が生まれた。


SNSに描いた絵を載せると、反応が返ってきた。

いいねが増え、フォロワーが増え、コメント欄には賞賛の言葉が並んだ。


「可愛い」

「世界観が好き」

「このキャラ、もっと見たい」


その一つ一つが、胸に染み込んでいった。


嬉しかった。

認められている気がした。

何より、ずっと感じていた孤独が、少しだけ薄れた気がした。


――僕は、ここにいていいんだ。


その感覚を、僕は初めて知った。

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