事件概要
「柄木山三十一殺し」という名前を最初に目にしたのは
事件を一覧にしたページの中だった。
多くの事件名が
日付や地名だけで並んでいる中で
この名前だけが
数字を含んでいた。
理由はそれだけだったが
私はそのページを開いた。
柄木山三十一殺しとは
昭和初期の戦時中、岩手県北部の山間にあった柄木山集落で発生した
大量殺害事件である。
事件は深夜に起きた。
集落出身の青年が
猟銃および刃物を用いて集落内の住民を次々と襲い
結果として三十一名が死亡したとされている。
犯行は一夜で終わり
青年は夜明け前に自ら命を絶った。
動機については
結核を患ったことで徴兵を免除されたことが契機となり、その後集落から村八分に遭い
さらに婚姻問題などが重なったことによる
精神的な不安定さが原因と説明されている。
これが
検索して最初に表示される、
いわば「公式のあらすじ」だった。
私は一度
ページの上から下までを読み
すぐには閉じなかった。
文章は簡潔で
無駄がない。
必要な情報はすべて揃っている。
犯人は一人。
被害者は三十一人。
事件は異常だが
原因は理解可能なものとして整理されている。
この説明に
引っかかるところはなかった。
むしろ
どこか安心感すらあった。
極端な出来事も
こうして要約されてしまえば、
ひとつの「分かる話」になる。
私は
この事件を題材にすることを、
その時点では、
軽く考えていた。
▁▁▁▁▁▁▁▁▁▁▁▁▁▁▁▁▁▁▁
個別の情報を確認するため
私は複数のサイトを行き来した。
事件の経過を示した図、
犯行ルートとされる簡略地図
事件後の集落の様子を写した写真。
それらは
どれも似た構図だった。
集落の中央から線が引かれ
家々に番号が振られている。
その番号が
被害者数と対応しているのだという。
私は画面を拡大し
一枚ずつ確認した。
各資料を精査するその過程で
ごく小さな違いが目に入った。
被害者数の表記が
三十一人で統一されていない。
三十人とするもの、
三十二人とするもの、
中には四十一人と記すものもあった。
最初は、単純な誤記だと思った。
資料の出所が違えば
そういうこともある。
ただ、不思議なことに
どのページでも見出しや事件名は
「柄木山三十一殺し」のままだった。
数字は揺れているが、
名前は固定されている。
私はこの時点では、それを特別な問題だとは考えなかった。
事件を扱う上で細部の数字よりも
象徴的な呼び名の方が記憶に残りやすい。
そういう整理のされ方は
珍しいものではない。
それでも、ページを閉じようとした指が、
一度止まった。
理由は分からない。
ただ、
この事件は、
すでに「説明し終えられている」ようでいて、どこか、説明の余地を残している。
その感覚だけが
この時点で
かすかに残った。
ある事件について調査しています 烏丸 @tiki50122012
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