第24話
その日の練習は、どこか噛み合わなかった。
リフトの前に、ほんの一瞬ためらいが入る。
手を取るタイミングが、微妙に遅れる。
——遠い。
昨日まであんなに近かったのに。
たけるは、必要以上に触れない。
視線も、合わせない。
練習が終わるころには、胸の奥がざわざわしていた。
リンクサイドで靴を脱ぎながら、意を決して口を開く。
「……ねぇ」
たけるが、ちらりとこちらを見る。
「私、何かした?」
「……いいえ」
短い返事。
「別に」
その言い方が、余計に刺さる。
「……昨日のこと?」
「弟って言ったの、嫌だった?」
一瞬、沈黙。
たけるは、視線を落としたまま、ぽつりと言った。
「……先輩には」
少し間を置いて。
「男らしいって思ってほしかったんです」
「弟じゃなくて」
——なに、それ。
胸の奥が、きゅっと縮む。
照れたように、でも真剣に言うその表情が——
……かわいい。
思わず、そんな感情が浮かんでしまう。
「……今」
たけるが、顔を上げる。
「可愛いって思いましたよね?」
「え?」
「思いましたよね?」
図星すぎて、言葉を失う。
「……バレた?」
「バレバレです」
小さく笑うたける。
さっきまでの距離が、少しだけ戻る。
そして、去り際。
すれ違う瞬間、たけるが一歩近づいてきた。
耳元に、低い声。
「もう、弟なんて言わせませんから」
息が、かかるほど近い。
「……覚悟、しててください」
——ドクン。
心臓が、跳ねる。
何も返せないまま、立ち尽くすまなみ。
その様子を、少し離れたベンチから——
さゆりが、静かに見つめていた。
笑っているのか、
睨んでいるのか。
その表情は、まなみには分からなかった。
ただひとつ。
この関係はもう、
「パートナー」だけではいられないところまで来てしまった。
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