第23話
リンクに、見慣れた顔が増えた。
シングルの選手たち。
貸切時間が終わり、一般練習の時間に切り替わる。
「おーい!たける!」
明るい声が響く。
「久しぶりだな!」
振り向いた先にいたのは、大学時代の後輩——かけるだった。
「……って、先輩?」
「まなみ先輩ですよね?」
「久しぶり」
そう答えると、かけるは目を見開いた。
「え、もしかして……」
「たけるの次のパートナーって、まなみ先輩なんすか?」
「そうだよ」
たけるが、何でもないことのように答える。
「へぇーーー」
かけるは、意味深な笑みを浮かべた。
「……なんだよ」
たけるが、むっとする。
「いやぁ」
「たける、昔から先輩のこと大好きだもんな!」
一瞬、空気が止まる。
「は?」
たけるの声が、低くなる。
「何言ってんだよ」
「先輩、すいません。こいつ、変なことばっか言って」
「でも、そうだろ?」
かけるは、悪びれず続けた。
「二人、ずっと一緒にいたじゃないっすか」
「ね?先輩」
視線が、まなみに集まる。
——大好き。
その言葉が、胸の奥で跳ねた。
……違うよね。
尊敬とか。
先輩として、とか。
そうに決まってる。
「そ、そうだね」
とっさに、口が動いた。
「もう、弟みたいに可愛がってたもんね」
言ってしまってから、
空気が変わったのが分かった。
「……弟?」
たけるの声が、静かに落ちる。
さっきまでの柔らかさが、消えていた。
——あれ?
私、何か変なこと言った?
「ま、まぁ」
かけるが、気まずそうに頭をかく。
「たける、頑張れよ」
それだけ言って、リンクの向こうへ滑っていった。
残されたのは、二人。
沈黙が、氷みたいに冷たい。
「先輩」
たけるが、まなみを見ずに言う。
「僕って……」
「先輩にとって、弟みたいな存在なんですか?」
心臓が、どくんと鳴る。
「……え?」
どうして、そんなこと聞くの?
言葉を探している間に、たけるはもう背を向けていた。
「……いいです」
それだけ言って、リンクを離れていく。
——待って。
声には、ならなかった。
まなみは、その場に立ち尽くす。
私、何か間違えた?
胸の奥に、取り返しのつかない違和感だけが残っていた。
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