第17話

次の練習日。


 リンクには、張りつめた空気が流れていた。


 何度も繰り返してきたスロージャンプ。

 今日も、いつもと同じはずだった。


「いきます」


 たけるの声。


 踏み切り、空中へ。


 ——その瞬間。


 まなみは、わずかな違和感を覚えた。


 着地。


 ズン、と強い衝撃。


「——っ!」


 足が、言うことをきかない。


 氷に叩きつけられるように転倒し、視界が揺れた。


「先輩!」


 すぐに、たけるの声。


「大丈夫ですか!?」


 駆け寄ってくる気配。

 差し出された手が、震えているのが分かった。


 まなみは、反射的にその手を握った。


「……大丈夫だよ」


 精一杯、笑おうとする。


 でも——


 立ち上がろうとした瞬間、足に走る鋭い痛み。


「……っ」


「先輩……?」


 立てない。


 その事実に、たけるの顔が一気に青ざめた。


 コーチやスタッフが駆け寄ってくる。


「無理しないで!」

「病院行きましょう」


 まなみがストレッチャーに乗せられる間も、

 たけるはその場から動けなかった。


 唇を噛みしめ、拳を強く握りしめている。


「……俺のせいだ」


 病院へ向かう車の中で、たけるはうつむいたまま呟いた。


「ちゃんと集中してなかった」

「最近……さゆりに会って、動揺してたから……」


 声が、震える。


「俺が……ちゃんと投げてたら……」


 ぽろり、と涙が落ちた。


「……たける」


 前の席から、コーチが振り返る。


「あなたのせいじゃないわ」


 きっぱりとした声。


「この競技は、こういうことが起きる競技よ」

「あなたはもう、自分を責め続けなくていい」


 たけるは、何も言えず、ただ肩を震わせた。

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