第3話 シャルロット・ブルーベル
ダンジョンは地下迷宮。当然、地下にあり洞窟のような見た目をしているが、光る鉱石――
また、火を使っても煙が充満したり、酸素がなくなったりもしない、不思議な空間である。
一部例外を除き、現れるモンスターは下層に行く程強くなる。上層、それも、一階層では一般人でも倒せる程度のモンスターしか現れない。
しかし、初めてダンジョンに潜ったリリアは、緊張からか右手で剣の柄を握り、過剰な程周囲を警戒しながら進んでいた。
「そういえば、わたくしはまだ名乗っていませんでしたわね。わたくしはシャルロット・ブルーベルと申しますわ。これまでに何度かダンジョンに潜っていて、貴女より先輩ですので、存分に頼って下さいまし」
先輩を強調してくる所に若干思う所はあるものの、シャルロットの余裕な姿を見て、リリアは少し肩の力を抜く事ができた。
「そうだね。さっきはパーティーなんていらない、と思ったけど、実際ダンジョンに入ると、一人だと心細かったかもしれない。ブルーベルがいてくれて良かったよ」
小さく微笑むリリアはあまりに可憐で、シャルロットは顔に熱が集まるのを知覚する。
「あ、あら、随分と素直ですわね。まあ、わたくしも、一人で潜っていた時より、多少は心強くは、ありますわ。多少、ですけれど!」
言い訳のように付け加えた照れ隠しだが、リリアは首を傾げる。それが余計に恥ずかしかったのか、シャルロットの顔は更に赤みを増し、林檎のようになってしまった。
シャルロットの内心を知る由もないリリアは益々困惑するが、モンスターの気配を感じ、すぐさま戦闘態勢を取る。
「来ましたわね。先ずは簡単な連携を試してみましょう。わたくしが敵の攻撃を受け止めるので、その隙に攻撃して下さいまし」
「うん、わかった!」
現れたのは、体長三〇C程の角の生えた白兎――ホーンラビットだ。数は二体。
「一体に集中して先に仕留めて下さい!」
シャルロットは一体目の体当たりを楯で受け止め、時間差でやってきた二体目には、タイミングを合わせて楯を押し込み、ホーンラビットは大きく体勢を崩した。
「おお!」
シャルロットの見事な技に感嘆しつつ、リリアは悠々と切り込む。流れるような剣捌きに二度、三度斬りつけられたホーンラビットは、あっけなく絶命した。
「へえ」
リリアの流麗な剣戟を感心しつつ、同じように残る一体の突進を弾く。後は、同じ事の繰り返しだ。
リリアにとって、そして、パーティーにとっての初戦闘は難なく終了した。
「ブルーベル、結構やるじゃん」
「貴女も、まあまあでしたわ」
コツン、と拳を合わせる。
倒したモンスターが薄紫の霧に変わり、リリアとシャルロットの胸に吸い込まれていく。残ったのは、薄紫色の小さな結晶だけだ。
「こうして、倒したモンスターの魔素を吸収する事で、わたくし達は強くなりますの。そして、これは魔石。モンスターの核であり、これを壊すとモンスターは死にますわ。核を壊さずに倒した場合は、このようにその場に残ります。魔石はギルドが買い取ってくれるので、回収は忘れないようにしないといけません」
昨日、マロンに習った事ではあるが、リリアは実際に目にする事で改めて、モンスターとは不思議な生き物だと実感する。
「たまにドロップアイテムもあるんだよね」
「ええ。今回はありませんでしたが、稀にモンスターの体の一部が魔素にならず、そのまま残る事があります。それをドロップアイテムといい、武具の素材や薬の材料等になるので、こちらも回収忘れのないように注意しましょう」
ふんふん、と真剣に聞くリリアに気分を良くしたシャルロットは、その後も事ある毎に先輩面で解説するようになった。真面目なリリアはそれを律儀に聞いてあげるのだった。
「ホーンラビットの魔石が六個に、ヒュージラットの魔石が五個。それに、ドロップアイテムも。初めての探索でこんなに倒すなんて、凄いじゃない」
「えへへ、それ程でもあるかなー」
「調子に乗るのではありませんわ。所詮は一階層のモンスターですの。倒せて当然ですわ。マロンも、この程度で褒めないで下さいまし」
マロンに頭を撫でられだらしなく頬を緩めるリリアに、シャルロットは容赦なく喝を入れる。
「いいじゃんか、初めての探索だったんだから。それに、私は、褒められて伸びるタイプなんだよ」
「うふふ、シャルロットちゃんも良く頑張ったわね。リリアちゃんの事を守ってくれて、ありがとう」
「へ? あ、えっと、わ、わたくしはディフェンダーとしての仕事を熟しただけで」
同じように頭を撫でられ、あたふたと赤面するシャルロットに、リリアはニヤリといやらしい笑みを浮かべた。
「ブルーベルだって、褒められて浮かれてるじゃん! そんなので、良く私の事言えたなー」
「う、うるさいですわ! わたくしは浮かれてなんていませんわ! それよりも! 早く換金をしてくださいまし!」
「あら、ごめんなさい。直ぐに鑑定するわね」
勤続一〇年のベテラン受付嬢は、流石の手際で数分と経たず鑑定を終えた。
「換金額は二八〇〇イリスよ」
「では、一人一四〇〇イリスですわね」
シャルロットは受け取った硬貨の内半分をリリアに渡す。
「一四〇〇イリス……一度の探索でこんなにも……これだけあれば、一週間は暮らせるよ」
「貴女、一体どんな生活をしていますの?」
因みに、成人女性の一日の平均的な食費は約五〇〇イリス、一週間は六日である。
「ねえ、リリアちゃん。昨日から気になっていたのだけど、もしかして、下着を着けてない?」
「え? うん。前のが小さくなって、新しいのを買うお金も無かったから」
あっけらかんと言い放つリリアに、シャルロットは呆れたように首を振る。
「どうりで胸が暴れていると思いましたわ」
「えっと、リリアちゃん、これで新しい下着を買って」
そう言って、マロンはリリアに五〇〇〇イリス硬貨を渡した。
「そんなの、悪いよ。私は下着くらい無くても平気だから」
「ダメよ。シャルロットちゃん、悪いのだけど、リリアちゃんが下着を買うのに付き合ってあげてくれないかな?」
「な、何故わたくしがそんな事を」
「お願い。シャルロットちゃんしか頼れないの」
両手を組んで、上目遣いで栗色の瞳がシャルロットを見つめる。
「うっ……わかりましたわ。付き合って差し上げます」
「ありがとう、シャルロットちゃん!」
勝手に決まってしまった付き添いに、リリアは怪訝な表情を向ける。
「えー、ブルーベルに下着の事わかるの? だって、必要無いでしょ?」
「貴女、ぶっ飛ばしますわよ?」
額に青筋を刻みながら、シャルロットはリリアの首根っこを掴み、ギルド本部を後にした。
魔法を失った世界で魔眼少女は迷宮に踊る 結城ヒカゲ @hikage428
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