第2話 マロン・アデルカ

 冒険者になるには、ギルドに登録する必要がある。

 街の中央に鎮座する大きな建物、ギルド本部。地下迷宮――ダンジョンの入り口を蓋するように建てられたその建物は、冒険者を管理する組織――ギルドの本拠地である。


 ギルドの役割は大きく分けて二つ。冒険者のサポートとダンジョンの管理だ。

 しかし、ダンジョンの管理、といってもやっている事は、せいぜいダンジョンからモンスターが地上に現れないように監視している程度だが。


 ギルドの仕事の大半は、冒険者のサポートである。

 冒険者には、パーティー単位でギルド職員が一名アドバイザーを担当する事になる。アドバイザーは勤続五年以上の職員のみがなる事ができる。

 冒険者が集めた情報を元に、磨かれた観察眼でパーティーの力量を見極め、最適な攻略方法を提案する。それが、アドバイザーの役目である。


 冒険者にとって最も重要な才能は、アドバイザーの助言を素直に聞き入れる事、といえるかもしれない。


 その点、リリアは運が良かった。リリアのアドバイザーとなったのは、勤続一〇年のベテラン職員、マロン・アデルカ。

 ふんわりと癖のある栗色の髪を腰あたりまで伸ばし、同じ色の瞳は目尻が少し垂れ、優し気な雰囲気を醸し出している。丸みを帯びた顎のラインが、年齢以上に若く見せている。

 白い襟付きのシャツに黒いベスト、深緑のネクタイ、そして、黒のタイトスカート。ギルド職員の制服をキッチリと着こなしながら、リリアを凌駕する見事な二つの果実と臀部の肉感は、同性のリリアですら生唾を飲む程の色香を放っている。

 同時に、優し気な雰囲気と聖母の如き包容力は、癒しの極地といっても過言ではない。


 そして、ベテランの経験則と洞察力でリリアとの丁度良い距離感を瞬時に把握した。


「こんにちは、マロンさん!」


 元気いっぱいに挨拶するリリアに、マロンは楽し気な微笑みを浮かべる。


「うふふ、こんにちは。今日はいよいよ、ダンジョンに入るのね」

「うん! マロンさんに教えてもらった事を活かして、いっぱいモンスターを倒してくるよ!」


 やる気に満ちたリリアに対し、マロンは頬に手を当てて心配そうに首を傾ける。


「でも、ダンジョンは本当に危ない所だから、できればパーティを組んで貰いたいのよね。丁度、最近冒険者になった、リリアちゃんと同い年の女の子がいるの。その子とパーティを組んでみない?」


 ゆったりとした口調で提案するマロンに、リリアは顎に手を当てて思案する。


「んー、パーティーかー。正直、あんまり組みたくはないけど、マロンさんが言うなら、良いよ」

「ほんと? ありがとう、リリアちゃん。リリアちゃんはアドバイザーの言葉を素直に聞いてくれて、本当に良い子ね」


 よしよし、と頭を撫でられ、リリアはだらしなく頬を緩める。


「あ、噂をすれば。あの子が今言った女の子よ」


 堂々とした足取りで一人の少女がやって来る。


 青い髪をハーフアップに纏め、水宝玉アクアマリンのような澄んだ青眼が特徴的な整った顔に、勝気な笑みを浮かべている。身長はリリアよりも少し高く、凹凸の小さいスラッとした体つきに、白を基調とした上品な戦闘衣は騎士を彷彿とさせる。

 左腰に剣を、背中に楯を背負った少女は、それでも重心を崩すことなく、真っ直ぐ歩いている。


 凛とした佇まいに気品を感じさせる少女は、二人の前までやってくると、リリアを一瞥しマロンに言い放つ。


「ちょっと、マロン! まさかとは思いますが、この方がわたくしとパーティーを組むとは、言いませんわよね?」


 マロンを呼び捨てした事に、リリアは眉を寄せるが、グッと堪えマロンの言葉を待つ。


「うふふ、そのまさか、よ。リリアちゃんは、シャルロットちゃんと同い年だし、真面目で凄く良い子だから、とても相性が良いと思ったの」


 おっとりと笑うマロンの言葉に怪訝な表情を浮かべながら、青髪の少女――シャルロットはマロンに褒められドヤ顔で胸を張っているリリアを見下ろす。


「これが、ですの?」

「これっていうな! 私は、リリア・ホワイトロードだ!」

「あら、失礼。それで、わたくしがこの方と組むメリットはなんですの? 残念ながら、わたくしには何一つ思いつきませんでしたわ」


 なんだか賢そうなシャルロットの言葉に何も言い返せないリリアは、ぐぬぬ、と唸りながら縋るような視線をマロンに向ける。


「シャルロットちゃんは防御役ディフェンダーでしょ。リリアちゃんは攻撃役アタッカーだから、丁度いいかなって」

「このどんくさそうな方が、アタッカーですの?」

「こんな貧弱そうな奴がディフェンダー?」


 小馬鹿にしたような二つの声が重なる。


「「むっ!」」


 同時に振り向き睨み合う、紅と青の視線。早速息ピッタリの二人に、マロンはご満悦である。


「失礼しましたわ。こんな重りを二つもつけて動けるのか、心配になりましたもので」

「こっちこそ、悪かったよ。そんな体でモンスターの攻撃が防げるのか、心配になってさ」


 相手の胸元に視線を向け、勝ち誇ったように笑う二人。バチバチと火花を散らす二人に、マロンは両手を合わせて楽し気に笑う。


「二人共、早速仲良くなって嬉しいわ。それじゃあ、二人でパーティー登録をしておくわね」

「へ?」

「え?」


 勤続一〇年のベテランは、二人が口を挟む間もなく手続きを終えてしまう。


「二人共、パーティーとして初めての探索、頑張ってね!」


 全てを包み込む聖母のような微笑みに毒気を抜かれ、二人は見つめ合い同時に溜息を溢した。


「はーい」

「行ってきますわ」


 最悪なファーストコンタクトを終え、二人はいよいよダンジョンへと足を踏み入れる。

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