第10話 救
「ひかりの家」から、若い女性が元気よくドアを開けてくれた。
「はーい!こんにちは。ひかりの家の職員のマツダと言います。」
「あ、あの、、。僕は昔、ここに居たんです。小学生までなんですが。」
「あのう、僕は彼の友達なんですが、コンサートで近くまで来たもんですから
じゃあ、久しぶりに寄ってみようってことになったんです。
僕らはこんな都会まで出てくる機会はあんまり無いから。」
僕達は生徒手帳を見せて、名前や高校生だと言うことを説明した。
若い女性職員さんは、笑顔で迎えてくれて、応接室でお茶まで出してくれた。
「施設長さんに連絡して来ますからね、待っててください。」
僕は応接室に通されるまでの廊下がクリーム色の壁に小さな小鳥と花の絵があちこちに描いてあるのを見つけて感動してしまっていた。剥き出しの木目の茶色に昼でも薄暗い廊下の寮と呼ばれていたところがこんな優しさが溢れている場所になったかと胸が熱くなった。
「どないしたんや?リョウ?」
「なんでもないが。こんなにな、子供が喜ぶような場所に生まれかわったんやなと思って
正直にな嬉しいがや。」
「そうか、、。リョウの住んでた時は違ってたんやなぁ、、、。」
そこ施設長さんが入って来た。
「あ、リョウ君!大きくなったわねぇ、、。懐かしいわ。私のことを覚えてるかしら?」
誰だ?僕はその人をじっと見つめて過去の記憶を遡っていく、、。
あ、タジマ先生だ。あの頃からどしんとした体型だったけど、一層丸くなってるしメガネをかけてスーツなんて着てるからわかんなかった。
「タジマ先生ですよね?」
「そう、良く覚えてくれてたわね。嬉しいよ。君がどうしているか気になっていたけど、アズミさんが田舎に連れて行ってくれたから、そこで幸せなら、もうここでの事を思い出させるような真似はしないでおこうと思ってたの。だからね、こうして立派に高校生になって会いに来てくれたのは本当に嬉しいのよ。」
「僕もあの頃の職員さんはもう居ないんじゃないかって思いながらやって来たんです。だから、先生が居てくださって安心しました。」
「そう、ありがとう。何でも友達とコンサートに来た帰りなんですってね。そう、アイドルグループの追っかけをするくらいになったのね。うふふ。」
しばらくはたわいも無い話をしてお互いのあの日からの話をした。
タジマ先生は火事のあと、一旦はここを辞めたそうだ。多くの子供達が亡くなったことに責任を感じていたし、精神的にも参ってしまい専業主婦になっていたそうだ。
ここも焼け跡は更地にはなったけどそのままの状態だったらしい。
口さがない噂もあったし、記者と言うような人達がうろついて燃えずに残った教会さえもしばらくは閉鎖になっていたそうだ。
シスターは、日本にある違う教会へ移動となっていた。
もう、再建されないだろうと関係者は思っていたのだか、虐待事件が後を絶たない、幼くして命を奪われる子供達が増えてきて、行政からの依頼もあり、また、教会としても信者が減る一方だったので、補助金を受けて再開することになったとタジマ先生は話してくれた。
「と言うわけで、私に施設長の白羽の矢が当たったの。悩んだけどね、ここの卒業生が私に連絡をくれてたの。沢山の子供達の中には幸せの尻尾をしっかりと掴んで大人になった子もいたけど、そうじゃない子もいたのね。困った時に頼れる場所があってもいいんじゃないかって。それには、古たぬきの私がいた方がいいかなってね。」
「先生、ありがとう。僕もやっぱり考えちゃうことがあるけど、昔の僕を知っててくれる
人と話したいって思ってました。実は今日の目的もそれなんです。アズミ先生には話しにくくて、、。」
「そう。君がわざわざ、ここに来たのは意味があるとわかっていたわ。あの日のこと?」
「はい。それと僕がここに来た事情を知りたくて。」
「そう。火事の時に書類なんかは燃えたり水浸しになってね。書類としては残っていないの。ただ、私が君の事で知ってることをお話しするって事でいいかしら?でも、これは私が覚えてるだけだから事実とは違うかもしれません。その事はわかってね。」
「はい。それでも僕は知りたいです。」
タジマ先生は、僕を産んだ人は16歳の少女だったこと。同じ歳の彼との間にできた子供だったが、とても若くて育てられないこと若いふたりの将来の事を考えて両家で話し合ってここにくるようになったこと。
「君はね、偶然だけどアズミさんの産まれた所の病院で産まれたのよ。どうも、知り合いの無い田舎で産んだ方がいいだろうと言うことでそうなったようね。アズミさんは多分君の資料を読んで親しみを抱いていたんじゃないかしら。君を田舎に連れて行きたいと相談があった時には驚いたけれど、私も君にはもえ施設じゃ無いところで暮らして欲しいと思ったからお願いしたの。アズミさんの田舎は自然がたっぷりあって君の心を包んでくれるんじゃないかってね。その決断は間違って無かったみたいね。」
「僕の母のことについてもっとわかりますか?」
「ごめんなさい。それは、はっきりと覚えてないの。もし、君がどうしても親の事を知りたいのなら戸籍を見るしかないわね。でもね、私の経験から考えると実の親に辿り着いたとしても君が傷つくんじゃないかと思うの。たぶん、君のお母さんは自分の人生を生きていると思うの。君を受け入れてくれるかはわからないわ。
今、アズミさんと家族のように暮らしているのなら、それではいけない?
私に止めることは出来ないけれど、良く考えて欲しいの。」
確かに先生の言うとおりだ。きっと母には母の人生があるんだろう。わざわざ、それを壊すような必要はあるんだろうか。
「わかりました。ゆっくり考えてみます。先生、あの日の事を教えてください。僕、記憶が曖昧なんです。僕達の寮で亡くなった女の子って誰だったんですか?何故、寮にいたんですか?」
「うーん。あの女の子はね、教会の熱心な信者さんのお孫さんだったのよ。毎年、息子さんご夫婦も一緒に来てくださってね。子供達の為にプレゼントを用意してくださったり、
ケーキなんかもいただいていたのよ。覚えてる?
あの年にね、初めてお孫さんも一緒に参加されたのよ。とてもお行儀のいい、利発な印象だったかしら。」
「覚えてます。叔父さんがサンタクロースの衣装でお菓子の詰まった赤いブーツをくれましたよね。あの女の子が亡くなったあと、どうなったんですか?」
「たったひとりの子供さんでお孫さんだったからね、皆さんの悲しみようは無かったわ。
警察や消防も捜査したけれど、建物自体が古かったでしょう?漏電でそれが暖房の為の
灯油に燃え移ったのが原因だと説明があったわ。女の子は大人の集まりに退屈して寮の方へ行ったんじゃないかって。でも、不思議なのよね。何故内鍵が空いていたのかしら?
歌が終わったあと、皆んなを寮へ送りったのね。施設でのクリスマスは翌日に予定していたから。歯磨きや着替えをして寝る準備もして、私が鍵を外からかけたの。外鍵は二つしかなかったのよ。ひとつはシスター。ひとつは私が持っていたの。
誰かが内鍵を開けない限りは扉は開かないはず。
ね、リョウ君、私は君に何があったのか?それを知りたいと思っているのよ。」
タジマ先生の目は僕を真っ直ぐに見つめていた。それは、僕を責めているとかじゃない
むしろ、僕の心の闇に向き合おうとしてくれてるようだった。
ガラス細工の街 菜の花のおしたし @kumi4920
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ガラス細工の街の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます