第9話 捜

サトルは「ひかりの家」の前に立った時、あまりの変貌ぶりに驚いていた。


小学四年の時だった。学校から帰ると母さんは何度も何度もため息をつきながら電話の相手をしていた。

「姉さん、あまり考え込まない方がいいんじゃない?女の子はこのくらいの歳から

大人びてくるって聞くわよ。男の子なんて子供っぽいんだけどね。

うん、うん。元気にしてるわ。こっちの事は心配しないで。

今年もクリスマス会に行くのね?大変ね。お義母さんにはお義兄さんは頭が上がらないから。教会はお義母さんの生きがいですもんね。

お正月?いいわよ、実家には私達で行くから。良いのよ、姉さんの立場はわかってるから。」


そんなやり取りが聞くつもりじゃないけど耳に入ってきたんだ。

夜中に喉が乾いて目が覚めた僕は2階の自分の部屋から1階の台所に行こうと階段を降りていた。ボソボソと話声が聞こえてきた。父さんと母さんだ。まだ起きてるんだなと思った。父さんと母さんは仲が良かったから二人で僕が寝たあとにお酒を飲んだりしてたんだ。今夜もそんな感じなんだろうと思った。

けれど、会話の調子が楽しそうでは無い気がした。だから、立ち聞きする気持ちになったんだ。

「姉さんからね、又電話があったげの。」

「いつものかい?女の子じゃ無くて男の子にすればよかったってヤツかい?」

「そう、、、。なんて身勝手なんじゃと実の姉ながら思うわ。確かに、私に赤ちゃんが授からんとわかった時に姉さんやあちらの方からの申し出は嬉しかったが。

貴方も全く血が繋がって無い訳じゃないからと同意してくれた。貴方のご両親も私を責めんとおいてくれてな。サトルの事もようしてくれて。」

「サトルはちんまい手で僕の指を握った時に親父になれたんやなと嬉しいて泣けてもた。サトルは僕の息子だげ。正真正銘のな。そげだけは決まっとる。お前も心してくれな。」

「勿論や。まだ、小さく産まれてミルク飲むんも少なくてな、。目を離したら死んでしまうんやないがと心配で眠れんかったがや。

そいでも、かわゆうて、かわゆうて。あれから私がサトルの母親やと自信を持って育てきたが。あちらがどう言って来ても渡すつもりなんか無いわ。例え姉妹の縁を切ってもやで。」

「そやな。サトルは僕らの子供やが。誰にも渡さんよ。」


僕はどうやって自分の部屋に戻ったか覚えて無い。

僕はただ枕に顔を押し当てて泣いた。

何日も眠れない夜を過ごしたが父や母には変わらない態度でいなきゃと自分に言い聞かせた。

眠れない夜の何日目か、僕はこの状況を整理して考えなきゃと思ったんだ。

父や母は真実、僕を大切に育ててくれた、それに感謝しなければ。

でも、じゃあ、僕は一体誰?

そんな疑問が湧き上がる。

知りたい、どうしてこうなったのか、僕には知る権利があるはずだ。

ただし、父さんや母さんを悲しませるような事はしたくない。

知られないように行動してみようと決心した。


初めに役所に行き戸籍を取った。

そこには、僕が養子として今の両親に迎えられたこと、本当の両親の名前、、、。それは母さんの姉さん、僕の叔母さん、叔父さんだと教えられてきた人達だった。それはわかっていたことだから、驚きもしなかった。ある一点に僕は釘付けになった。信じられない事が書き記されていたから。

僕は双子だったのだ。妹がいる。

僕は考えた。母さんは子供ができないって父さんと話していた。だから、僕が養子として貰われたのだろうか?

母さんの姉さんに会った記憶は無いと思う、、。じいちゃんやばあちゃんの所へもお盆もお正月も来た事ないし、、、。

母さんも叔母さんの話は僕の前ではしない。すっきりしない気持ちだ。

あ、そう言えばクリスマス会が教会であるって電話で話してたよな。こっそりでも姿を見たい、僕の本当の家族を。

叔母さん?だよな、母さんとは言えないし。叔母さんの住んでるところにある教会ってどこなんだろう。

僕は誰もいない時に母さんの鏡台を探してみた。母さんは大切な物をここに入れる癖がある。

引き出しの中を探していると1番下の引き出しには母さんの友達やら知り合いからの手紙なんかがしまってあった。その束のしたに白に花柄のハンカチの包みを見つけた。

手が震える。ハンカチを広げていくと中には教会の前に赤ちゃんを抱っこしている男の人と女の人が笑顔で写っていた。

赤ちゃんはふたり。ブルーとピンクのおくるみに包まれている。これは僕達だ。

そして僕達の両親だ。

叔母さんは母さんと似ている、当たり前か、姉妹なんだから。父さんは気弱そうな感じのするヒョロリとした人だった。

これが僕の家族だったんだなと感じただけで、特別な感情なんて無かった。

写真の裏をみると、そこには教会の名前と日付か書いてあった。

「ここだ。この教会でクリスマス会があるんやな。叔母さんの住んでるところは、、。

あった、去年の年賀状や。うわ、大都会やが、、、。どないして行こうか、、。」

僕はひらめいた。そこには父さんの妹、つまり僕の叔母さんが住んでた。たぶんそこの近くなんじゃ無いだろうか。

図書館で地図を探して場所を確認したら、やっぱり、隣町くらいだった。

父さんや母さんと遊びに行った事が何回かあった。近くにあったんか。そう言えば叔母さんのところに行くと母さんはひとりで用事があると出かけてた、あれは母さんの姉さんに会うためだったのかもしれない。

とにかく、行こう。父さんと母さんに上手く嘘をつかなきゃとそればかり考えていた。


僕は自分の事を知りたいと思っただけだったのに、あんな事になるなんて思ってもみなかったんだ。










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