第2話 ミサキの独白 ―奪う女の論理

どうして、あの女なの。


汚れた靴。卵の匂い。

あんな女が、社長の視線を奪うなんて。


私は違う。

私は努力した。笑顔も、言葉も、立ち居振る舞いも。

この会社で生き残るために、いらない人間を踏み台にしてきた。


なのに。


あのキーホルダーを見た瞬間、確信した。


――これだ。


社長の目が揺れた。

私はその揺れを、何度も見てきた。

人は「信じたいもの」を真実にする。


「私のものよ」


嘘?

違う。奪っただけ。


世の中は、奪える者が勝つのよ。


あの子は、ただの邪魔。

血? 絆? 笑わせないで。

必要なのは、席だけ。


後継者の席は、一つしかない。


だから消す。


消せばいい。



誘拐 ――夜の呼吸


その夜、花子は一人で祖母の家へ向かっていた。

月は雲に隠れ、街灯の明かりが途切れる道。


――カツン。


背後で、靴音がした。


振り返る前に、口を塞がれる。


「――っ!」


鼻を突く薬品の匂い。

力が抜け、視界が歪む。


「大人しくしろ」


低い声。二人、いや三人いる。

花子の意識は、闇に沈んだ。



目を覚ますと、冷たい床。

コンクリートの匂い。

手足は縛られ、口にはガムテープ。


遠くで、金属音が響く。


「時間通りにやれよ」

「女社長候補がうるせぇからな」


その言葉に、花子の胸が凍りついた。


――ミサキさん。


恐怖で涙が滲む。

祖母の顔、ヨシオの声が浮かぶ。


(助けて……)



救出 ――父の咆哮


「そこまでだ」


倉庫の扉が激しく開いた。

光とともに、怒声が突き刺さる。


「花子!」


ヨシオだった。


部下たちが一斉に動き、男たちは抵抗する間もなく取り押さえられる。

ナイフが床に落ち、乾いた音が響いた。


「誰の指示だ!」


男の一人が震えながら叫ぶ。


「ミ、ミサキだ! 金で……全部、あの女の指示だ!」


ヨシオは花子のもとへ駆け寄り、縛りを解いた。


「もう大丈夫だ。お父さんがいる」


花子は声を上げて泣いた。


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