卵売りの花子

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第1話

花子は祖母と二人、町外れの小さな家で暮らしていた。

朝、鶏の鳴き声とともに目を覚まし、籠いっぱいの卵を抱えて町へ出る。それが祖母と生きていくための、ただ一つの仕事だった。


「花子、無理するんじゃないよ」

「大丈夫。今日もちゃんと売ってくる」


そう言って笑う花子の胸元には、古びたキーホルダーが揺れていた。幼いころから、なぜか手放せなかった大切なものだ。



ある日、卵を納品した先で花子は会社社長のヨシオと出会う。

質素な身なりの花子に、ヨシオは不思議と懐かしさを覚えた。


「君、うちで働いてみないか」


花子は驚きながらも、その言葉を受け入れた。



だが、会社にはヨシオの義理のいとこ・ミサキがいた。

すでに“次期後継者”として社内に君臨する女だった。


「社長、こんな子を雇うなんて。掃除係がお似合いじゃない?」


ミサキは人前では微笑み、裏では花子を徹底的に追い詰めた。

仕事を押し付け、失敗すれば大声で叱責する。


「身の程を知りなさい。ここはあなたの居場所じゃない」


花子は何も言い返せなかった。



ある夜、帰宅途中の路地で花子は男たちに囲まれた。

下卑た笑い、逃げ道を塞ぐ影。


「助けて――」


その瞬間、鋭い声が響いた。


「何をしている!」


ヨシオだった。男たちは慌てて逃げたが、花子の足元には何かが落ちていた。

気づいた時には、キーホルダーは消えていた。


それは男たちによってミサキのもとへ届けられる。



数日後、ミサキはヨシオの前でそのキーホルダーを見せた。


「社長、これ……私の宝物なの。幼い頃から、ずっと」


ヨシオの心臓が大きく脈打った。

それは、行方不明になった幼い娘に持たせたものと、まったく同じだった。


「そうか……」


ヨシオは疑念を押し殺し、ミサキを正式な会社後継者に指名する計画を進めた。

ミサキは背中を向け、口元だけで笑った。


――すべて、手に入る。



しかし、ヨシオは真実を知る。

キーホルダーを拾った男の一人が、酒に酔って口を滑らせたのだ。


「あれは、あの卵売りの女のもんだった」


ヨシオの世界が崩れた。

花子こそが、長年探し続けた我が娘だった。


「花子……すまなかった」


涙ながらに抱きしめるヨシオに、花子は震えながら言った。


「お父……さん?」



その夜、ミサキは最後の賭けに出る。

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