卵売りの花子
@22351431tu
第1話
花子は祖母と二人、町外れの小さな家で暮らしていた。
朝、鶏の鳴き声とともに目を覚まし、籠いっぱいの卵を抱えて町へ出る。それが祖母と生きていくための、ただ一つの仕事だった。
「花子、無理するんじゃないよ」
「大丈夫。今日もちゃんと売ってくる」
そう言って笑う花子の胸元には、古びたキーホルダーが揺れていた。幼いころから、なぜか手放せなかった大切なものだ。
⸻
ある日、卵を納品した先で花子は会社社長のヨシオと出会う。
質素な身なりの花子に、ヨシオは不思議と懐かしさを覚えた。
「君、うちで働いてみないか」
花子は驚きながらも、その言葉を受け入れた。
⸻
だが、会社にはヨシオの義理のいとこ・ミサキがいた。
すでに“次期後継者”として社内に君臨する女だった。
「社長、こんな子を雇うなんて。掃除係がお似合いじゃない?」
ミサキは人前では微笑み、裏では花子を徹底的に追い詰めた。
仕事を押し付け、失敗すれば大声で叱責する。
「身の程を知りなさい。ここはあなたの居場所じゃない」
花子は何も言い返せなかった。
⸻
ある夜、帰宅途中の路地で花子は男たちに囲まれた。
下卑た笑い、逃げ道を塞ぐ影。
「助けて――」
その瞬間、鋭い声が響いた。
「何をしている!」
ヨシオだった。男たちは慌てて逃げたが、花子の足元には何かが落ちていた。
気づいた時には、キーホルダーは消えていた。
それは男たちによってミサキのもとへ届けられる。
⸻
数日後、ミサキはヨシオの前でそのキーホルダーを見せた。
「社長、これ……私の宝物なの。幼い頃から、ずっと」
ヨシオの心臓が大きく脈打った。
それは、行方不明になった幼い娘に持たせたものと、まったく同じだった。
「そうか……」
ヨシオは疑念を押し殺し、ミサキを正式な会社後継者に指名する計画を進めた。
ミサキは背中を向け、口元だけで笑った。
――すべて、手に入る。
⸻
しかし、ヨシオは真実を知る。
キーホルダーを拾った男の一人が、酒に酔って口を滑らせたのだ。
「あれは、あの卵売りの女のもんだった」
ヨシオの世界が崩れた。
花子こそが、長年探し続けた我が娘だった。
「花子……すまなかった」
涙ながらに抱きしめるヨシオに、花子は震えながら言った。
「お父……さん?」
⸻
その夜、ミサキは最後の賭けに出る。
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