のぞき見されている証拠とは?
「何でそんなこと言うの? そんなことないよ。
日本中の人がスマホを持っているけど、そんなこと言う人いないよ」
そう言うと、じいちゃんは少し胸を張って答えました。
「いや、わしは生物学会の会員だったからな。わしの写真を見れば、新種の生物が発見できると思われているのだろう。実際に……」
そこで、ようやく話がつながりました。
つまり、こういうことです。
じいちゃんが写真を撮る。
いつの間にか、写真アプリが自動で分類する。
ピープル
ばあちゃんの顔写真
娘の顔写真
孫の顔写真
二〇二五年の写真
二〇二四年の写真
花の写真
虫の写真
つまり、そういうことなのです。
AIが、写っている人の顔を認識し、その人が写っている写真を集めてくれている。若い人にとっては、何の不思議もない機能でしょう。少し年配の人なら、「おお、今どきのスマホはこんなことまでしてくれるのか」と、便利さに感心するかもしれません。
けれど、じいちゃんレベルの、本物の高齢者にとっては違います。
誰か、人の手によって、一枚一枚、写真が分類されていると信じているのです。
新種の虫の写真も、きれいな花の写真も
それらを分類することを職務とする労働者が、どこかに存在している、と。
――じいちゃんの脳内、きっとこうだろう劇場――
「よし、今日はこうもりじいちゃんのスマホをのぞき見するぞ。いいか、みんな。気づかれないように、うまくやるんだ」
「ははっ!」
「ああ、これは奥さんの写真だな。ずいぶん、ばあさんになったもんだ。これは娘さんだな。こっちは孫だ。可愛いな」
「おっと、これは新種の昆虫じゃないか?」
「これは貴重な大発見だ。すぐに学会へ報告しておけ」
「ははっ!」
「いいか? くれぐれも、じいちゃんに気づかれないようにしろ」
「わかっています。痕跡を残すなということですよね」
「……それにしても、いろいろな虫を撮っているな」
「おや、これは家の写真か? ずいぶん、ぼろ家だな」
「家の写真がたくさんあるのか? まとめておけ」
「ははっ!」
八十九歳のじいちゃんに、
「それはAIが認識して分類しているんだよ。わたしのスマホも同じだよ」
と、どれだけ力強く説明しても、伝わりませんでした。
そもそも、聴力が衰えていますし、人生のどこかで人の話を聞く耳そのものを落としてきたのかもしれません。
やがて、じいちゃんはスマホを手放しました。スマホにまつわる妄想も、いつの間にか消えたようです。ばあちゃんは、ひと安心。
……とはいえ、
また新たな問題が始まっている気もします。
今日もきっと、ばあちゃんに叱られているでしょう。
けんかするほど仲がいい、
とは、よく言ったものですね。
こうもりじいちゃん、スマホに吠える~エッセイ さとちゃんペッ! @aikohohoho
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