こうもりじいちゃん、スマホに吠える~エッセイ
さとちゃんペッ!
こうもりじいちゃんスマホに吠える
こうもりじいちゃんという、わたしの愛するじいちゃんがいます。 若い頃、こうもりの研究をしていた経歴があり、 今でも虫や植物が大好きなじいちゃんです。
昭和十一年生まれ、つまり一九三六年生まれ。 国民学校に通い、軍国少年として育ち、鬼畜米英やっつけろと叫びながら、戦争ごっこに明け暮れていたそうです。
終戦後は、アメリカの駐留軍からチョコレートやキャラメルをもらったといいます。
「ギブミーチョコレート!」
本当にそう言っていたそうです。 ゼロから始めて英語をペラペラにしたのは、本当にすごい。まあ、おなかをすかせた子どもにとって、英語が話せればチョコレートがもらえるというのなら、学習への動機づけとしては、これ以上ないほど完璧ですね。
戦争による物資不足のなかで両親を亡くし、 兄や姉に育てられ、 学問に向き合い、働いて働いて働いた。そして今は八十九歳。妻であるばあちゃんに叱られながら、夫婦二人で暮らしています。
はい、わたしはそのこうもりじいちゃんの親族です。現在、遠距離介護の真っ最中です。
見守りのために、じいちゃんにスマホを渡しました。GPS機能で、迷子になるのを防ごうという企みでした。
ところが、思いのほか、じいちゃんはスマホのカメラ機能を気に入り、写真を撮っては家族用のSNSに送ってくれるようになりました。子どもも孫も、最初のうちは大いに喜び、ちやほやしましたが、そのうちそれぞれが自分のことで精一杯になり、既読無視が増えていきました。
それが、今となっては悔やまれるところです。
ある日、じいちゃんは吠えました。
「スマホの運営会社に、のぞき見されている」
それを、親戚一同に一人ずつ、繰り返し話して回っているのです。
「あれはいかん。あんな物を持っていたら、個人情報は丸裸じゃ」
「あんたのスマホにも家族の写真、家の写真があるだろう。あれは危ない」
なぜ、そんなことを言い出したのか、わかりませんでした。 しかも、じいちゃんは聴力の衰えが著しく、 自分からはよく話すのに、こちらの言うことはほとんど聞こえません。 結局、「スマホはもういらん」と突き返されてしまいました。
さあ大変です。GPSは使えません。写真の送信による生存確認もできません。
ため息をつきながら、わたしは腰を据えて、じいちゃんの話を聞きました。
「携帯電話の運営会社が、わしの写真をのぞき見している」
「そんなことはないはず。どうして、そんなふうに思うの?」
このやりとりが、十回以上、さまざまな人との間で繰り返された末に、 ようやく謎が解けました。
そうです。
じいちゃんが、のぞき見されていると震えるのには、 ちゃんと理由があったのです。
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