第6話 最底辺パーティ
「……あんた、空いてる?」
声をかけてきたのは、見覚えのある顔だった。
少し前、依頼失敗で同じ卓に並んだことのある女剣士だ。
腕は悪くないが、運がない。
正確には――評価されない。
「三人足りない。
強くないけど、死にたくない奴らが集まってる」
その言葉に、少しだけ心が動いた。
「……条件は?」
「無理しない。
勝てなきゃ逃げる。
文句言わない」
悪くない。
いや、むしろ理想だ。
俺は頷いた。
―――――
集まったのは、四人。
女剣士。
火力はそこそこだが、突っ込み癖がある。
魔法が不得意な魔術師。
詠唱が遅く、威力も低い。
盾役の青年。
守れるが、決断が遅い。
そして俺。
戦えない、前に出ない、逃げる役。
誰も英雄じゃない。
誰も目立たない。
「……最底辺だな」
誰かが苦笑した。
「そうですね」
否定はしなかった。
―――――
最初の依頼は、廃坑の確認。
危険度は低。
だが“低”ほど油断して死ぬ。
俺は最初に言った。
「俺の言うこと、
撤退に関してだけは聞いてください」
女剣士が眉を上げる。
「指揮官気取り?」
「違います。
生存係です」
一瞬、沈黙。
それから、盾役が頷いた。
「……分かった。
死にたくない」
それで決まりだった。
―――――
廃坑の中は、想像以上に荒れていた。
足場は不安定。
天井は低く、音が響く。
魔物の数は少ない。
だが、逃げ場も少ない。
戦闘が始まる。
女剣士が前に出る。
魔術師の魔法は遅いが、当たる。
盾役は必死に守る。
俺は、数えていた。
時間。
息。
距離。
「……下がろう」
女剣士が振り返る。
「まだいける!」
「いけるけど、戻れなくなる」
その一言で、彼女は歯を噛みしめた。
「……チッ。分かった!」
撤退。
素早く、迷わず。
途中で魔物が増える。
予想通りだ。
だが、退路は確保してある。
罠を外し、道を塞ぎ、
無理のない速度で進む。
―――――
外に出たとき、
四人とも息は荒いが、立っていた。
「……失敗だな」
魔術師が呟く。
「生きてる」
盾役が言った。
女剣士は、しばらく黙っていたが、
やがて笑った。
「悪くないな、最底辺パーティ」
その言葉に、胸の奥が温かくなる。
―――――
報告は、やはり失敗扱い。
評価も上がらない。
それでも、次の依頼が来た。
「また、組まない?」
誰かが言った。
俺は頷いた。
強い者同士が集まるパーティは、
英雄になるための集団だ。
だが、このパーティは違う。
生きて帰るための集団。
最底辺。
だからこそ、無理をしない。
最底辺。
だからこそ、全員が帰る。
その日、俺たちは知った。
最底辺にも、
最底辺なりの戦い方がある。
“生存率だけは英雄級”。
その二つ名が、
このパーティの中心に、静かに根を下ろし始めていた。
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