第三話 漬物石にするのはやめたまえ

 ──ヒルデは、行商車ぎょうしょうぐるまを押して『ミルデンの森』に来ている。


「さあ、今日もスライム狩りするぞー!」


【ふん、下らん……】


 ヒルデの背中で『魔剣ヴェルサレス』は何やら不機嫌な様子だ。


「今日は使わせてよね……ヴェルちゃん」


 ヒルデは魔剣のつかを握り、上方向に引っ張ってみる。


「………………」


【………………】


「……ヴェルちゃん、ねぇ!」


【………………】


「……もう! 何してんの!?」


【やはり解せぬ……我をスライム如きに使うなど……片腹痛いわ……】


「はぁーあ……」


 ヒルデはため息を吐いた。


「でもね、そう言うと思ってたんだよ……」


 ヒルデはソードベルトを外して魔剣を草はらに放った。


 そして行商車に走ると、荷台から何かを持ってくる。


【何をしておる……? 】


「いいから、ヴェルちゃんは黙ってそこで見てて! ──ジャーン!」


 ヒルデの手には、Y字型の木のフレームにゴムが縛り付けられた道具が握られている。


「パ〜チ〜ン〜コ〜!」


【何だそれは……】


「ふっふっふっ、これはね。このゴムに石を引っ掛けて飛ばすおもちゃだよ! ちょっと見ててごらん!」


 ヒルデは背の高い草の影にサッと身を屈めると、そこからじっくりと周囲を観察する。


 少し先の方で、緑スライムが2匹、ぴょんぴょん跳ねている。


「みーっけ! 緑スライム!」


 ヒルデはゴムに鉛玉を引っ掛けて強く引いた。


「……えいっ!」


 ヒルデが右手を離すと、鉛玉が勢いよく飛び出して一匹の緑スライムに命中した!


 緑スライムはポンッと弾けて光の粒となり消えた。

空中から『スライムゼリー』の小瓶が発生し、草の上にぽとりと落ちる。


「やったー! 一発で当たったー!」


 ヒルデは嬉しそうに飛び跳ねた。


「どう? ベルちゃん。おもちゃだけど、これ結構使えるでしょ!」


 得意げにパチンコを魔剣に見せ付ける。


「ふっふっふ〜、言っとくけどこれはおもちゃ・・・・だからね! ヴェルちゃんの『武器を壊す魔法』でも壊せないってことだよ」


【………………】


 続けて、ヒルデはもう一匹の緑スライムに狙いを定めた。

鉛玉を装着してゴムを強く引く。


 その時、『魔剣ヴェルサレス』から紫色の光が放出した。


【ジャッジメント・ウェポン! 】


 ヒルデの持つパチンコが、砂の粒となって消え去った。


「え、えええっ!?」


 ヒルデは四つん這いのまま、赤ん坊がはいはいする様に魔剣に駆け寄る。


「何で!? 何で!? 何で消えちゃうの?」


【ヒルデよ……それはおもちゃではない。スリングショットと言われる武器だ……】


「ぷりんぐ、しょーと?」


【スリングショットだ……】


「えー!? これが武器なの!? きびしくない!?」


【厳しくはない……スリングショットはその静音性の高さから隠密武器としても使用されることがある遠距離特化型の立派な武器である……】


「なんか早口っ!」


【しかも貴様……石でもなく鉛玉を使っておるではないか……それはもはや、上級者だ】


「えー! これ使うと当たりやすいから使ってるだけなんだけど……。あーあ、これからコウモリ対策どうすればいいの……」


【くっくっくっ……憎むなら己の無知を憎むんだな……】


「なんでよ! ヴェルちゃんが壊さなきゃいいだけじゃん!」


【笑止! この世に我以外の武器など必要ない】


「もーやだぁ、この子ー!」


 ヒルデは半べそをかいた。


 ──しかし、その時ヒルデは、ある秘策を思い付く。


「あ、いい事思いついた!」


 ヒルデはおもむろに『魔剣ヴェルサレス』を持ち上げる。


【何をする……】


「へっへっへっ……これならどう? おりゃー!」


 ヒルデは先ほど狙っていた緑スライム目掛けて突っ走る。


「えいっ!」


 緑スライムに魔剣をさやごと叩きつけた!


 緑スライムは光の粒となって消滅した。

再び、空中から『スライムゼリー』の小瓶が発生し草の上にぽとりと落ちる。


「やったー!」


【おい貴様……何をするか! 】


「えへへー! これなら消せないでしょ? だってヴェルちゃん本人だもんね」


【ぐ……ぐぬぬ……】


「ほーら! どうしたの〜? 武器壊すやつ使わないの〜? へっへっへ!」


 ヒルデは意地悪そうに笑いながら周囲を見渡す。


「よーし! 次はあの青スライムだ!」


 ヒルデは青スライムに向けて走る。


 しかし次の瞬間、『魔剣ヴェルサレス』が急に物凄い重さになり、地面に落下した。


 バランスを崩したヒルデは「ぎゃあ!」と言いながら、でんぐり返しで二回転ほど前にごろごろと転がる。


 ──ヒルデは呆然としている。


「ええー!? 何いまの!?」


【自身の質量を操作して重くしたのだ……残念だったなヒルデよ……くっくっく……】


 魔剣は重くなりすぎたのか、地面にめり込んでいる。


「この、この、このぉー!」


 ヒルデは足で何度も魔剣を踏みつける。


【はっはっは! そんな攻撃で我にダメージを与えられるとでも思うておるのか? 片腹痛いわ!】


「んもう! あなたなんか、漬物石にして使ってやる!」


【…………それはやめたまえ】


 とりあえず、『魔剣ヴェルサレス』は自身の重さを変えられる事が判明した。


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2025年12月22日 20:10
2025年12月22日 21:30
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行商人ヒルデと魔剣ヴェルサレス 鳥部 本太郎 @tobepontaro

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