この話の締め括り
しのびかに黒髪の子の泣く音きこゆる
首を長くしてお待ちしていません
鈴木太郎って名前は聞いたことある?
今考えたんだけど、どこかで聞いたことありそうだよね。
新宿花子って名前は聞いたことある?
新宿区の人は役所の書類の記入例で見たことあるかな。
じゃあ、
まあ世の中広いし、何人かは同じ名前の人がいるかもしれない。
でも今聞いたのは、たった一人の藤森愛奈。
この文章はその彼女についてまとめたもの。
でも、まだ不十分。
これを読んで、何か彼女の情報を持っている人がいたら連絡が欲しい。
◆
きっかけはとあるブログの噂。
今は非公開で、URLや閲覧用のパスワードは不明。
それでも誰かがそのブログの投稿を転載し、一部のホラー好きの間で少し話題になっている。
そう、ホラー好きの間で。
◆
タイトル:『愛奈の余命一年闘病記』
概要欄:ジジイババアもすなるブログといふものを、大腸がんで余命告知された女子大学生もしてみむとてするなり
記事名:いい店みつけた
投稿日:2023-10-21 20:14:19
今日で抗がん剤をやめて二週間ぐらい
今日は体調が良かったので久々に外出できた
全然知らなかったけど、近所にいい感じの喫茶店ができていた
【画像:喫茶店内。二人掛けテーブルの向こう、窓ガラスに若い女性の首から下の姿が写りこんでいる】
モコモコのパンケーキ!
【画像:クリームが多く盛られたパンケーキ】
今は薬の影響もなくて何食べても美味しい!
いい日でした
#抗がん剤 #パンケーキ #闘病記
#味覚障害 #大腸がん #抗がん剤の副作用
#抗がん剤治療
記事名:お気に入りの一杯
投稿日:2025-11-15 18:22:51
【画像:前掲の喫茶店の別座席。四人掛けのテーブル】
今日は良く行く喫茶店に友達と来た
お気にの五目ヤキソバをすすめたら大ハマリ
【画像:テーブルの座席に着き、コーヒーカップを持つ若い女性。首から上は写っていない】
友達に撮ってもらった一枚♪
気晴らしになっていい日でした
#喫茶店 #カフェ #友達と
#休みの日 #闘病記
◆
普通の闘病ブログにしか見えないって?
でもこのブログはもう三年以上続いているんだよ、『余命一年』なのに。
もちろん余命告知以上に生き延びることは普通の話だけど。
◆
記事名:旅立ち
投稿日:2024-01-15 22:34:16
愛奈の家族です。
娘は本日朝に旅立ちました。
昨晩からせん妄がひどく、穏やかな最期とは行きませんでした。
それでも短い人生を精一杯満足に生きられたと思います。
このブログの読者のみなさまにも御礼申し上げます。
◆
記事名:新しい靴
投稿日:2024-06-16 15:24:18
記事名:クリスマス!
投稿日:2024-12-24 22:25:32
記事名:大学の図書館
投稿日:2025-04-04 15:44:26
記事名:パパの誕生日
投稿日:2025-08-12 23:15:48
◆
このブログは、本人の死後も続けられている。
家族や友人とか誰かが本人のふりして書いてるだけ?
そうかも。
でも、本人らしき写真まで用意して何年も続けるなんて、それだけでも異常だろう? だから、趣味の悪いホラー好きや動画配信者なんかのネタにされているんだ。
それにもっと奇妙なことがある。
◆
〔某ニュースサイト〕より
車同士が衝突、21歳女性が死亡 新宿区
2024年6月16日 13時32分
16日10時40分頃、東京都新宿区×××(伏字にしとく)の交差点で軽乗用車とトラックが出合い頭に衝突し、軽乗用車の助手席に乗っていた21歳の女性が死亡しました。(中略)この事故で、軽乗用車の助手席に乗っていた同区在住の大学生、藤森愛奈さん(21)が全身を強く打って死亡しました。(後略)
◆
このニュース記事の通り、彼女は病死してすらない。
それなのに粛々とブログは続いている。
何の為に?
仮説がある。
次の某SNSの投稿を見て欲しい。
◆
XXXX@×××××××
変なのみちゃった
午後19:35 · 2025年11月13日
XXXX@×××××××
×××の交差点、、、
学校の帰り、自転車で走ってたら
前の方に俯いてフラフラ歩いてる女がいて
邪魔くせえと思ってたら
案の定進行方向に出てきて
鈴鳴らしたら、
やっと気付いて振り向てきたんだけど
そいつ、俯いてるんじゃなくて首が無いの
ヤバいと思ってすぐ通り過ぎた
午後19:38 · 2025年11月13日
XXXX@×××××××
一瞬だし見間違いかもしれないけど、
服の襟から上、何にもなくて
そういう変なファッションの奴?
でも学校で聞いたことあるんだよね
昔あの交差点で死んだ人がいて
事故で首が取れちゃったんだって
午後19:45 · 2025年11月13日
◆
この素朴な怪談は確かにいかにも作り話臭い。
でもさっきのブログとニュースの後なら、どうだろう?
更に思い出して欲しいのは、ブログでの藤森愛奈の写真。
確認できる限りの写真で彼女の首から上が写ってない。
彼女には首が無いからだ。
ブログを書いているのも、新宿の交差点に現れるのも体だけ。
つまり、藤森愛奈ってのは世にも奇妙な首無し女なんだ。
この本物のオバケの存在は、もうホラー好き達にバレかけている。
そう、あの普段は嘘八百の幽霊や妖怪なんかを楽しんでいる変な人らに見つかっちゃったんだ。
彼らの間ではそういう、モキュメンタリーとか実話怪談とか、本物っぽいのが流行りらしい。
けったくそ悪い。
でも、そういう連中が持つ藤森愛奈についての情報も今までの分ぐらいだろう。
俺も頭打ちだった。
だから、ネットだけじゃなく足を使って調べることにした。
◆
インタビュー:×××の交差点周辺の学校にいた女の子(二つ結び、小柄で小学生から高校生ぐらい?)
―ごめん、今ちょっといい?
(眉をひそめて)は、なんや、おっさん?
―(ここまでの経緯を説明)それで、藤森愛奈について何か知らない?
そんなん聞いたこともないわ。
―本当に? 少しでもいいから、学校で聞いたことない?
ないよお! そんなローカルな話、通行人に聞くより図書館とかで調べたらええんちゃうん?
―あ、確かに……。
◆
インタビュー:某所レファレンスコーナー担当者(二十代前半の女性。白い長髪で美人)
―(経緯を説明)ということで、ここで調べてもらいたんだけど。
(苦笑しつつ)すいません、うちではそういうサービスはやっていなくて。相談に乗ったり調べ方をお教えしたりとかはできますけど……。
―でも、こういうとこなら色々調べる方法はあるんでしょう?
(しばらくパソコンを操作してから)そうですね、でも、うちで契約してるデータベースでも藤森愛奈さんという方の情報は出てこないですね。
―じゃあ、調べ方とか何でもいいから教えてよ。
そうですねー。では、例えば今回のターゲットは首の無い女性なわけですが、彼女は本当に首が無いんでしょうか?
―どういう意味?
ボクが言いたいのはですね、何か先入観に縛られていないか、ということです。ろくろ首を知っていますか?
―首が伸びる女の妖怪でしょ。でも藤森愛奈は首が無くて、探しているんだよ?
あ、それそれ。実は半分間違いなんですよ。ろくろ首って二種類あって、首が体から離れて飛んでいくタイプもいるんです、ていうかそっちの方が古くて。だから、彼女の首も飛んでってるだけかも。
―だから何?
いやあ。言ってみただけですので。
―あんまり役に立たないなあ。女のくせに自分のことをボクとか言ってるし、他の人いないの?
すいません、みんな忙しくて。
―あ、そう。じゃ、何かもっと現実的なアドバイスしてよ。
では。まあ『藤森愛奈』という名前は一端置いて、『首の無い女』の方を調べるのはどうです? ここ最近に絞れば、ネットでも書籍でも大した数にはならないと思いますよ。
―なるほど、いいかも。それは確かに先入観に縛られてたな。
◆
この助言のお陰で得られたのが、以下の二つの情報。
◆
〔某匿名電子掲示板〕より
スレッド名:新宿の心霊スポットを話そう
#90 2025/01/23 22:33
以外と知られていない
木村さんち
[名無しさん]
(中略)
#92 2025/01/24 01:01
>>90
どこの木村さんちだよ
[名無しさん]
(中略)
#95 2025/01/25 16:23
>>92
本当に知らないの?
××××(伏字にしとく)町の一軒家
てか廃墟
[名無しさん]
(中略)
#98 2025/01/25 16:23
>>92
あそこはやべーヨ
あの近くで働いてるけど、
台風が来たら吹き飛びそうなほどボロボロで
壁中の落書きもスゲーし
氏ねとかM・F(マザーファッカー笑?)とか
あと、
二階の窓に女が立っているの何度も見た
そいつ、首から上が無いんだよな
もう頭おかしくなりそう
[名無しさん]
◆
〔某怪談朗読動画〕より
題名:こんなにもいない家
(以下書き起こし)
これは東京のS区のとある民家にまつわるお話です。
何十年も前からあるけど、気付いたら誰もいない空き家。
そんなよくある普通の家です。
でした。
でも、気付いたら「出る」ようになってて。
若い子の肝試しに使われるようになってた、って話。
(中略)
それでAさんが振り向くと、また、いたんです。
黒いジャンパースカートに白いブーツ。
右手の指が四本無くて、首も無いあの女が。
(後略)
◆
掲示板の「木村さんち」の首の無い女は藤森愛奈。
理由は落書き。M・Fは彼女のイニシャル。
怪談朗読動画の首の無い女も藤森愛奈。
ジャンパースカートとか服装や右手の指が無いのも符合する。
場所もどっちも新宿だしね。
ただ、それがわかっても次に繋がるものはない。
また行き詰って……相談することにした。
◆
インタビュー:某所レファレンスコーナー担当者(二十代前半の女性。白い長髪で美人)
―(経緯を説明後)それで、お姉さんはどう思う?
そうですね。あれ、そう言えば藤森愛奈さんの服装とか右の指が無いとか、そんな話これまでありましたっけ?
―覚えてないの? 真面目にやって欲しいな。
アハハ、すいません。
―全く……。それで?
そうですねえ。これだけだとボクもよくわかりませんが……でも、そもそも彼女はなぜ化けて出てきてるんでしょうか?
―そりゃ、無くした首を探しているんでしょ。
そうですか? 首は飛んでってるだけかも。
―またろくろ首の話?
アハハ、首のオバケと言ったらそれぐらいしか思いつかないので。
―こっちは現実の話をしてるんだけど。困るんだよな、ホラーマニアみたいに面白がられても。
嫌いなんですか、ホラー?
―嫌いだよ、特に最近のは。嘘の話を本当みたいに有難がって。しかもほら、それだけじゃなくて『情報をお持ちの方をお待ちしています』とか、余計に話を広めようとして。作る方も読む方も、何が楽しくてそんなことやってんだか。
へえ、でも、なら貴方はどうして彼女のことを調べているんですか?
―それ聞いて何になるの?
いやあ。でも貴方はどうも自分の仮説ありきで進めているようなので。間違った前提とか、勘違いもあるかもしれませんよ。
―勘違い?
例えば、ろくろ首に二種類いるって前に話しましたけど、あれも勘違いから生まれたんです。元々ろくろ首は首だけ飛んでいくオバケだったんですよ。ただ首と体の間には何か霊的なつながり、線があるとされていて、それを絵に描いた時、誰かが『首が伸びてる』と勘違いしちゃったんです。
―はあ、それで?
ろくろ首の首は書かれたものの中にしかない、藤森愛奈さんの情報も今のところ書かれたものの中にしかありません。見間違いや勘違いがないか、努々ご注意ください。
◆
勘違いなんてないはず。
でも、そう言われると不安になって。
これまでの情報を見直している最中に発見があった。
◆
インタビュー:×××の交差点周辺の学校にいた女の子(二つ結び、小柄で小学生から高校生ぐらい? 変な関西弁)
―あ、こないだの。
お? おー誰?
―ほら、あの時の。(経緯を説明)
あー首無しの。はいはい。
―久しぶり。あれから藤森愛奈について、何か学校で聞いたりしてない?
そんなん聞くわけないやん。だって、ほら。
―ん?
(スマホを取り出して)これ。
―これは……!
◆
〔某ショート動画投稿サイト〕より
タイトル:やばいのいた
(以下、書き起こし)
【00:00:01】
動画開始。画面の比率は9:16の縦長。
スマートフォンで撮影されたものと推定。
夜、場所は新宿の某繁華街。
ビルとビルの合間、短い通路に二人の人影が見える。
【00:00:03】
「あれ何?」
若い男の声。撮影者か。
通路の二人がアップされる。
【00:00:05】
通路にいるのは男性と女性。
男性は派手なスーツのホスト風。
女性は黒いジャンパースカートと白いブーツ。
女性の首から上は無い。
【00:00:06】
「あれ……服被ってんだよな?」
撮影者の声。
【00:00:08】
「止めろ!」
通路の男性が突如叫ぶ。
それと同時に愛奈の手、指が欠けた右手が男性の首に伸びていた。
【00:00:12】
男は愛奈の手を振り払い、どこかに逃げ出す。
【00:00:16】
「何だあれ……」
撮影者の声。
愛奈は一人取り残されて佇む。
【00:00:20】
愛奈がくるりと身を翻し、カメラの方を向いた。
【00:00:22】
「ヤベッ」
撮影者。
【00:00:23】
愛奈がカメラの方向、撮影者の方に走り出す。
猛烈な速度で撮影者に近付き、前傾姿勢になったことで首元の断面が見える。
【00:00:29】
「ヤバいヤバいヤバい!」
撮影者が逃げ出し、カメラは大きくブレ、ボケ。
何も見えなくなり、動画終了。
◆
インタビュー:某所レファレンスコーナー担当者(二十代前半の女性。白い長髪で美人)
―(経緯を説明後)どう、この動画?
うーん……どう、とは?
―いや、だからこれが首の無い女、愛奈の証拠だよ! 男の首に手を回していたの見たろ!? 彼女はろくろ首じゃなくて、自分の首に執着する亡霊なんだ。これが動かぬ証拠だよ!
でも、ろくろ首はですね……。
―だから、ろくろ首はもういいんだって! 動画があるんだ!
いやあ。とは言っても、書き起こしを読んだだけですので。
―何、まだ疑っているの?
いや、よくわからなくて……。
―どこが?
貴方がどうしてそんなに藤森愛奈さんに……いや、首の無い女に熱心なのか、よくわからなくて。
―それ今関係ある?
そもそもは死後も続く闘病記のブログの話だったんですよね? そこに同名の女性の交通事故死のニュースがあって、それからその事故現場辺りで首の無い女が出るってなった。
―それが何か?
ブログと首の無い女を繋ぐのはせいぜい記事の写真に首から上が写ってないことだけ。かなり距離があるように思えます。その後の藤森愛奈さんと首の無い女を繋ぐ根拠もほとんどない。ボクがろくろ首と言うのも頑なに否定する。貴方は最初から彼女が首の無い女だという前提の元調べていたんじゃないですか。どうしてです?
―お前、俺が藤森愛奈の関係者……恋人とか家族だとは思わないわけ? これ見ろよ。
◆
ごめんなさい
どうしても疲れちゃって
明日がくるのがこわくて
結局、首吊りが一番楽って聞いたので
そうすることにしました
最後まで迷惑掛けて
ごめんなさい
さようなら
今までありがとうございました
まな
◆
―わかるか……? このメッセージを残して、愛奈はいなくなった。数週間後にあの廃墟で見つかった時、愛奈の遺体には首が無かった。首を吊った後自重で切り離されたのを、動物が持ち去ったんだと警察は言っていた……。だから愛奈は未だに成仏できないで今も苦しんでいるんだよ!
ん? ん? ん? ん、あれ? 彼女って自殺なんですか? え、元々不治の病だったんですよね? それが交通事故で亡くなって、首が取れたって話じゃ……え?
―どうでもいいだろ、そんなこと!
は、はあ……。
―俺が愛奈を調べているのは、愛奈を弔いたいからだ!
そうなんですね。そうしますと腑に落ちることも多いです。でも、やっぱり変だな。
―どこがだ!?
だって、それならどうして彼女に会いに行かないんですか?
―は。
交通事故の現場とか、掲示板にあった民家とか、動画の繁華街とか、首の無い女が出没する具体的な場所はこれまで幾つも出てきました。それなのに、貴方は一度もそこに足を運んでいない。
―それは、話してないだけで……。
本当ですか? 貴方の調査は熱心ですけどどこか変です。ネットでの調査に偏重していて、核心に近付こうとはしない。『首の無い藤森愛奈さん』は本当のところどうでもよくて、情報自体を集めるのが大事なように見えます。首に執着しているのは、藤森愛奈さんじゃなくて、貴方なんじゃないですか?
―違う、それは……。
それとも、彼女に会えない理由でもあるんですか?
―……。
さっきの遺書とか、彼女を弔いたいなんてのは嘘で、何か別の目的があるんじゃないですか?
―……。
あ、答えなくても大丈夫ですよ。ここはレファレンスコーナーですので。アドバイスをする場所ですから。だから、また、ろくろ首の話をしますが。ろくろ首の由来を知っていますか?
―……。
一説には首が伸びるのを、陶芸のろくろを回して粘土を伸ばす時の感触に例えたんじゃないかと言われているんですよ。
―……それが、何の助言に?
いやあ。なんとなく。でも貴方って、ボクと話している間ずっと、ろくろを回すみたいに両手を構えているので。何か関連を感じて、役に立てばなって。
―そんなの、何の役にも立たないよ。当たり前だろ、ろくろ首の由来が粘土を伸ばす時の感触なんて。
両手で握ると、ぐにゅーっと伸びるんだよな。
もっと力を込めると、白い表面がどんどん赤くなって。
指の無い右手で俺を叩いたりするけど無意味で。
ジャンパースカートがはだけて全身ビクビク震えてるのが見えて。
ぐにゅーっと伸びて。
そのうちゴキゴキと骨が砕ける音がして。
またぐにゅーっと。
でも愛奈は違うんだよ。
その伸びきった首を出刃包丁で叩いて、ブツンって。
それでバラバラにして、埋めたんだ。
でも発見された時は首だけ無くなってて。
だから愛奈も首が無いまま、現実やネットに化けて出やがって。
だからさ、ろくろ首とか言われても、困るんだよ。
◆
と、言うわけで、俺が集められた情報はここまで。
改めて、藤森愛奈についての情報を持っている人がいれば教えて欲しい。
どんなことでもいいから。
愛奈のことを知っている人全員に会いたいんだ。
お前らみたいなの全員に。
嘘を楽しんでれば良かったのに本物を求めた奴全員に。
愛奈のことを暴き立てようとする連中全員に。
俺にとって愛奈のことは大事な話なので、直接会おう。
大丈夫大丈夫、何にもしないから。
この話はこれで締め括りだけど、
お前らのことは締め括らないから。
本当本当。
俺も早く終わりにしたいんだから。
◆
※本編は以上です。
※以下は、本編の作者の所蔵データやインタビュー等をまとめたものになります。
◆
インタビュー:×××の交差点周辺の学校にいた女の子(二つ結び、小柄で小学生から高校生ぐらい? 変な関西弁)
―あ、こないだの。
お? おー誰?
―ほら、あの時の。(経緯を説明)
あー首無しの。はいはい。
―久しぶり。あれから藤森愛奈について、何か学校で聞いたりしてない?
そんなん聞くわけないやん。だって、ほら。
―ん?
(スマホを取り出して)これ。
―これは……!
これ、フジモリマナって、嘘やんけ。
―あー……。
確かにブログとか、ニュース記事とか出てくるけど。これ、小説の中の話やんな。色々出てくるけど、本当っぽく書いとるけど、結局嘘やろ? なんやっけ、最近流行りのモ、モ、モキュ、何やっけ?
◆
〔某小説投稿サイト〕より
タイトル:『愛奈の余命一年闘病記』に関する覚え書き
作者名:bq_sakuma
あらすじ:『愛奈の余命一年闘病記』のことを知っていますか? 藤森愛奈さんという、女子大学生の手によるこの闘病ブログは、彼女の死後も彼女自身の手により更新が続いています。今回はこのブログの真相について調査してみました。
タグ:ホラー/モキュメンタリー/ARG/ミステリー
タイトル:藤森愛奈さんについての考察
作者名:牡丹灯籠
あらすじ:昨年に事故死した女子大生の藤森愛奈さんについての情報を集めています。彼女はまだ生きています、首を無くしたまま。
タグ:ホラー/ミステリー/怪異/モキュメンタリー
タイトル:その街に行ってはいけません
作者名:藤森春加
あらすじ:長野県眼子間町(まなこまちょう)に行ってはいけません。私の姉の藤森愛奈は大学の夏休みにそこへ旅行に行き、溺死体となって発見されました。警察は事件性を否定しましたが、私は遺体の顔を見て『殺された』と確信しました。注意喚起として、私が調べた眼子間町についての情報を公開します。
タグ:モキュメンタリーホラー/ミステリー/民俗学/妖怪
◆
インタビュー:『この話の締め括り』作者
―この他にも、今インターネットでは複数の藤森愛奈さんが登場するホラー作品が複数の小説投稿サイトに渡って確認されています。その中で首が無い藤森愛奈さんは、貴方がボクに見せてくれたものの他はありませんでした。
……。
―貴方が言っていた、ジャンパースカートと白いブーツ、また右手指の欠損という特徴のある藤森愛奈さんも見つかりませんでした。これらについて彼女が登場しない他のホラー作品からそれらしい部分を切り出してきたようですね。
……。
―(彼のPCに表示される原稿を眺めながら)貴方がこの話を書いたのは、藤森愛奈さんについて調べる人を減らしたくて脅す為ですよね。でも、彼女は作り話の中だけの存在だし、貴方の考える彼女とも全然違いますよ。どうしてこんな話を書いたんですか?
作り話かどうかとか関係ないよ。一体誰が愛奈のことをネットに書いてるのかとか、誰が読んでるのかとか、理由や真相とかもどうでもいい。そこに俺が知ってる愛奈のことが少しでも含まれていれば、邪魔なんだ。俺が平穏に暮らす為に、無くなって欲しい。
―なるほど。でも……貴方は勘違いしてますよ。
だから、してないって。藤森愛奈って名前があって、興味を引くような死に方をしてて、それが本当のことみたいに語られてることが問題なんだってば。誰かが俺まで辿り着いてしまうかもしれないだろ。
―いやあ、そこではなくて。貴方が勘違いしているのは、ネット上で藤森愛奈さんの登場する作品を書いてる人も、読んでる人も、彼女が実在してるなんて思ってませんよ。
え?
―貴方も言ってたじゃないですか、『嘘の話を本当みたいに有難がって』って。そういうのが好きな人は別に嘘を信じてるんじゃなくて、本当っぽさを楽しんでるだけです。それがウケてるんですよ、最近は。
でも……真に受ける奴も少しはいるかも……。
―いたとしても、極々稀です。ホラー作品の登場人物が自分の殺した相手と思い込むなんて、貴方みたいな人は。
でも、でも……確かにマナと同じ名前で……。
―鈴木太郎って名前は聞いたことあります?
何?
―新宿花子って名前は聞いたことあります?
それは俺が最初に書いたことで、適当に考えたそれっぽい名前で……。
―藤森愛奈もそうなんです。どこにでも居そうな普通の名前。貴方みたいなすごくナイーブな人が、自分のことのように考えられるよう名付けました。
……お前らが?
―そう、ボクら。貴方の場合はたまたま名前が同じだったみたいですけど、違っても『仮名かも』と実在自体は信じて調べ始める人がいるんです。そういう人は簡単に足跡が追えるんで見つけやすいですよ。
―実際すぐ見つけられたやろ? 知らないふりして演技する方が大変やったで。
学校に居たのもレファレンスに居たのも、最初から俺を捕まえる為……いや、本当に? そんなことあり得るのか? お前ら何なんだ? 俺の家まで来て縛り上げて、何が目的なんだ? 俺をどうするつもりだ?
―いやあ。貴方が書いたこの原稿と、調べたデータをいただいていくだけです。ちょっと色々変えたりしますが……大筋は元のまま投稿しますから。
投稿、何の為に? ちゃんと質問に答えろ!
―まあまあ、落ち着いてや。
―ボクらは藤森愛奈に会いたいだけですよ。
藤森愛奈は実在しないんだろ?
―しないけど、したらいいなって思うんです。
は?
―ホラーが好きなんで、幽霊とか妖怪とか、オバケが実在したらいいなって思ってて。だからみんなで藤森愛奈さんが出て不思議に死ぬ話をいっぱい書いてて。それで時々貴方みたいな人が現れると、そこにいるんじゃないかって探しに行くんです。今までのところ全部空振りですが、次のお話のネタにはなりました。
―(原稿を見つつ)なー、この話のオチはどうするん? 『情報を募集してます』で読者を巻き込む系のエンドはさすがにもう飽きたわ。少しは新しいことしよ、実際には募集してへんわけやし。
おかしいよお前ら。愛奈もオバケも、どこにもいないのに。
―はい。でも、そこに本物っぽさがある限りボクらは楽しめるんです。無くても作ります。ろくろ首の首は書かれたものの中にしかない。ボクらが書き続ける先には、藤森愛奈さんの首が落ちています。
この話の締め括り しのびかに黒髪の子の泣く音きこゆる @hailingwang
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます