いつかの流行語大賞候補

何を言っているのだろう…。

言葉の意味は分かっているはずなのに

頭が理解するのを拒んでいる感じ。


手違いで?死なせてしまった?

本来死ぬ必要がなかったのに

このジジイので殺された?

私、何も悪いことしてないのに……


「ッッッ!!っこんのハゲェーーー!!!」

「ヒィッ!!」


爆発した。

普段は他人の身体的特徴をあげつらって

揶揄するようなことは絶対しなかったのに

この時ばかりは、シンプルな暴言があまりにも

すんなりと出てしまった。

そして、怒りのまま掴みかかり叫んだ。


「ふざけんなよこのクソジジイ!!自分が何したか分かってんの!?戻して!今すぐ戻してよ!!」


胸ぐらを掴み、ガクガクと揺らしながら訴えた。

しかし、返ってきたのは無情な答えだった。


「も、申し訳ありません!もう無理なんです!元の世界では、既にあなたの体は火葬され、このまま戻ったところで、成仏できない浮遊霊として漂い続けることしかできないんです!」


信じられない言葉に、脱力してへたり込んだ。


「そんな…嘘でしょ…?今ならまだ許すから、嘘って言ってよ…」

「……っ申し訳、ありません…」

「どうしてくれんのよ…私がいなきゃ…あの人、料理なんてできないのよっ…」


絶望を突きつけられて

自分でも分かるくらいに声が震えていた。


思い浮かぶのは、残された家族のこと。

頼りになる、家族思いの夫。

仕事も育児も一生懸命やってくれたけど

料理の腕だけは壊滅的だった。


「料理は君に任せるよ。その方が、間違いなく美味しいものが食べられる」


と苦笑いしながら言われた時は

寝込むことは許されないと本気で気を引き締めた。


「お兄ちゃんは来年受験だし…」


長男の雄太は中学2年生。

反抗期真っ只中ではあったものの

夫に似て、優しくて穏やかで

責任感の強い子だった。


「恵美だって…これから女手が必要になるのに…」


長女の恵美は小学5年生。

私に似て少々気の強い所はあるが

可愛らしくコロコロとよく笑う

ご近所でも評判の、我が家のアイドルだった。


気がかりは他にもたくさん。

ゆくゆくは訪れるであろう親の介護

始めたばかりのパート、PTAの役員……


どれもこれも全部途中で、責任を果たせぬまま

強制終了させれてしまった。


涙が止まらず、顔を上げることができなかった。

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