「どどどどちら様でしょう！？」

まだ落ち着かない動悸（？）を抑えつつ

声の主と思（おぼ）しき人物に向き直った。

そこには暗闇中で、こちら向かい土下座をしている

おっさんがいた。

土下座をしているので顔は見えないが

間違いなくおっさんだと分かる。

ちょっとくたびれたYシャツと

額から頭頂部にかけて、明るめで、涼し気な…

その…特徴的なヘアースタイルを見れば

中年男性であるというのは、想像に難くない。

「はい、お初にお目にかかります。私（わたくし）あなたがお住いだった地区を担当しております、死神でございまず」

えぇ〜…死神…マジで？

なんか、思ってたんと違う。

「死神って、もっとこう…タロットカードの図柄みたいな、ボロボロのマントを着てて、巨大な鎌を持った骸骨なのでは？」

「あ、それは西洋の方達ですね。日本の死神はこんな感じで、群衆に紛れてしまえば見つけられない程の平凡仕様です」

「え、あ、そう、ですか。あの、とりあえず頭を上げてください。死神ってことは、やっぱり私は死んだんですね」

「…はい、私があなたをここまで連れてきました」

改めて聞かされた事実にやるせなさが込み上げる。

死んでしまった以上

もう戻ることはできないだろう。

諦めて受け入れるしかないのか…。

息を吐き、２、３度頭（かぶり）を振れば

ほんの少しだけ、気持ちが凪いだ。

それにしても、ここはどこなんだろう？

死後の世界なんて、当然ながら初体験なので

この先を知っているわけではないが

さっき死神は、私をここに「連れてきた」

と言っていた。

ってことは、ここは本来

死者が来る場所ではないのでは？

だって、今ここには私と死神しかいない。

日々、どのくらいの人が亡くなっているのかなんて

分からないけど、私１人だけってことは

無いと思うんだよね。

そんな疑問を死神にぶつけてみると

彼は顔を青ざめさせて、震えながらガバリと

再び頭を下げた。

「っ！！申し訳ございませんっ！！」

え？え？何！？怖い怖い！

突然どうしたの！？

私が狼狽えていると

死神から衝撃のカミングアウトが。

「手違いだったのです！本来刈り取るのは、あなたの魂ではなく、別の方のものだったのです！」

それは…つまり…

「わ、私（わたくし）のミスでっ…死ぬ必要の無かったあなたを…死なせて、しまったのです……」