どちら様ですか?

うずくまったまま立ち直れずにいる私の耳に

ヒソヒソと話す声が聞こえた。


「おい…どーすんだアレ。声かけてもいいもんか?」

「そうねぇ…話をしないことには状況は前へ進まないし…」


突如聞こえた第三者の声。

驚いて勢いよく顔を上げると、周囲を見回した。


すると、いつからいたのか

2人の人物がこちらを見ていた。


1人は、緩いウェーブのかかった金髪に

スカイブルーの瞳、真珠のような白く滑らかな肌に

純白の衣と、黄金に輝くオーラを纏った

絶世の美女。


もう1人は、銀糸のようなストレートヘアに

ルビーのような真紅の瞳、褐色の肌と

ガッチリした体躯に、漆黒のオーラを纏った

上裸の美丈夫。


「え……」


2人と目が合い、固まった。

誰だ!?いつからそこにいた!?何の用だ!?

再びパニックに陥りかけた私に

美女がおずおずと話しかけてきた。


「えっと、突然こんなことになって、混乱しているとは思うのだけれど、私達の話を聞いてもらえるかしら?」


美丈夫が続く。


「とりあえず、今お前ができる選択は2つ。1つはそこの死神に黄泉の国へ連れてってもらって、そのまま成仏する。もう1つは俺達に協力して、こちらの世界のハシゴになるか。だ」


…………よし、一旦落ち着こう。

2、3度深呼吸をして、事態の把握に努める。


まず、私は死神のミスにより死んでしまった。

体は既に火葬され、元の世界には戻れない。


そして、今目の前にいる謎の美男美女。

彼等の言葉を反芻はんすうしてみる。


どうやら私には、今後を選ぶ権利があるらしい。

1つはこのまま成仏する。

もう1つは、この2人に協力する。


「こちらの世界のハシゴ」…とは?

それはどういうことだろう?

え、まさか生贄的な?人身御供?

人柱ってヤツか?

結局殺されるの!?


「待て待て待て。なんでそうなる?だと言っただろ。ハシラじゃねぇよ」


ん?声に出てた?


「フフッ、声には出てないけど、ここでは筒抜けなのよ。まぁ、細かいことは置いといて。シンプルに考えてみて。このまま成仏するか否か、まずはそれを決めてみて」


美女が苦笑しながらフォローしてくれる。

苦笑いでも後光がささんばかりの美しさ。

眼福…じゃなくて、このまま成仏するか否か…。


正直、このまま成仏するというのは納得できない。

元の世界に戻ることが、物理的に不可能なのだ

ということは理解したが、だからといって

ハイそうですかと引き下がれるものではない。

となれば、答えは必然的に決まっていた。


「貴方がたに協力します」


私が出した答えを聞いて

2人は安堵したように息を吐き

満足げに頷くと、空気のようになっていた死神に

「もういいぞ」と声をかけ下がらせた。


話が一段落したようなので

私はおもむろに問いかけた。


「で、お2人はどちら様ですか?」

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異世界の神はインモラル 崖っぷちのアリス @norikae-from-narou

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