第1章
認めてたまるか
中野 香、39歳、2児の母。
只今とっても上機嫌。
先程までいたスーパーの特売にて
いい買い物ができたので
ホックホクのウッキウキなのです。
さてさて、今日の夕飯は何にしようか。
働き盛りの夫と、育ち盛りの子ども達。
しっかり食べさせてあげなきゃね。
買い物からの帰り道、交差点で信号待ちをしつつ
夕飯の献立に思いを馳せていた私は
自分の身に降りかかろうとしている
悲劇に気付かなかった。
妙に近い大型車のエンジン音。
ハッと顔を上げた眼前には
何tだか知らないが、大型トラックが迫っていた。
あ、無理だ。
そう思った瞬間、鉄の塊に体当たりをされ
私の意識は途絶えた。
* * *
ゆっくりと意識が浮上する。
目を開けてみるが、何も見えない。真っ暗だ。
体には酷い倦怠感に見舞われ
まともに動かせない。
ここはどこだ?
どうしてこんな状態なんだっけ?
ぼんやりとする意識をかき集めて
記憶を呼び起こす。
えっと…確か、スーパーで買い物をして
帰り道に、夕飯の献立を考えながら
信号待ちをしてて、それで…
そこまで思い出し、一気に覚醒した。
そうだ!トラックが突っ込んできてそのまま…
……え、待って。
少なくとも、無事であるはずがないというのは
理解した。
今しがた思い出したあの記憶から
自分が無傷で生還しているとは思えない。
だけど…なんで体に痛みがないの?
ゆっくりと左手を上に上げてみる。
顔の前まで持ってくれば
視界には自分の左手が映った。
倦怠感こそあるけれど、動かそうと思えば
自分の意志に従い、体は動く。
視力も失っていない。
意識も、今ははっきりしてる。
神経はやられてない。
なら痛みがないのはおかしい。
すると、やっぱり……
嘘だ。嫌だ。考えたくない。
認めてたまるか!こんなこと…
自分が…死んだなんて…っ!
拳を握り締めて歯を食いしばり
暴れ出しそうになるのを
どうにか耐えてやり過ごした。
どれくらいそうしていたか
体の倦怠感が徐々になくなってきた。
気持ち的にはまだ落ち着かなかったが
このままここにいても仕方がないと
1つ大きく息を吐き、思い切って体を起こした。
「あ、お目覚めになりましたか?」
ビッッックウゥゥゥゥ!!
背後から聞こえてきた声に、飛び上がるほど驚いた。
いや実際ちょっと飛び上がった。
ビックリしたぁ……。
ビックリしすぎて心臓止まるかと思った。
…あ、もし死んでるならもう止まってるのか。
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