第2話 : 開戦、艦装少女
陽元防衛海軍護衛艦『ひえい』が、大量のD.E.E.P.に群がられていた。
『こちら『ひえい』。我が艦は轟沈した。
私ももうすぐ、ヤツらと一つになるだろう……
『ふそう』、『あかぎ』、健闘を祈る。
私は……人類としての最後を迎えさせてもらう!』
直後、『ひえい』は大爆発を起こした。
ほんの少しだけ、D.E.E.P.の群れが減る。
もっとも、地獄はそこからだった。
「ぷはっ!あ、あ、来るな、来るなぁ!!
うわぁああああああああ!??!!」
かろうじて生き残った人間は、いや死体ですらD.E.E.P.は平等に取り込む。
美しい人魚に触れたが最後、同化し、作り替えられ、新たな人魚が生まれる。
まるでウィルスが細胞を利用して増える様に、異形の命が増えて行く。
『クソ……これじゃあ、誰も生き残ってないか……!』
『スガイ2より『あかぎ』、指示を……ん?』
上空で見守るF/A-98Bの一軍が、レーダーにとらえられないある姿を見る。
その下の様子を確認するよう飛ぶ、小さなレシプロ航空機があった。
分からない人間は『零戦』というだろうが、わかる人間にはそれは『彩雲』と見えた。
『……スガイ隊、見たか!?』
『ああ見た!!空母の子の偵察機だ!!!』
***
「───クククク、この
今日初めて使ったが、97式艦攻や彗星よりくっきり映るじゃあ無いか!!!」
陸奥艤装の隣を並走する、まるで後光の様な形に広がった艤装を纏う銀髪ポニーテールのフリートレスが笑う。
翔鶴型
「はいはい、お姉ちゃん油断しちゃダメ。
神様だからって傲慢になったらいけないよ〜?」
「おっと!流石我が妹、冷静だ!!」
隣の、黒髪のポニーテールで同じ顔を柔和に微笑んで言う二番艦『
『翔鶴、瑞鶴、聞こえますか?』
「あ、コオリちゃん提督!」
無線から聞こえる声に、瑞鶴は弾んだ声で答えた。
場所は変わって、陸奥艤装CIC内部。
フリートレス指揮席にアドミライザーを接続し、3D東映映像であらゆる情報をコオリは狐面越しに見ていた。
「すでに準備は終えているでしょうし、彗星、天山の発進を許可します。
見ての通り今敵は皆がカテゴリー1。
攻撃機ドローンを飛ばした4秒後、零戦を発進させてカテゴリー2への警戒を」
『良い采配だ提督。神たる五航戦の力、提督の願いを込めてお見せしようじゃないか!!』
『ところでぇ、私が思うみんなの運勢は『東から行くべき』って感じだから、攻撃は東からで良いかなぁ?』
「それは良いこと聞きました。
その様にお願いします」
翔鶴、瑞鶴はフリートレスとしての能力が高いが、何故か自認が『神』である。
特に瑞鶴は、占いというべきか、それとも本人の言う通り運命が見えるのか、度々妙な進言を根拠なくする。
その誰もが煙たがる性格と自認、そしてある意味で提督にある立場に楯突くような進言を、コオリは信じていた。
運勢、吉兆、風水、神頼み
これを軽んじて切り捨てるだけの実力は自分には無い、と。
「
「大丈夫だよ、コオリ。もう終わってる」
席一つ離して隣にいる爽やかな顔のいい好青年───
「後はガオウを待つだけだね」
「ショウタ、待つ必要はありません。あのバカは、」
「遅れて悪いけどその通りだぜ!!」
と、走ってやってきたガオウが、二人の間の席に滑り込む様座る。
「準備できてる。もう向かってる。
やれ、ショウ──」
「はい」
ふと、ガオウの目の前に、有名な動物を模ったビスケットの袋が差し出された。
「ガオウ、俺より燃費悪いからさ。
どうする?」
「……ありがたく。
じゃあやってくれや」
うん、とショウタは頷きながらアドミライザーの操作をし、無線をするついでに一個隣のコオリにも同じお菓子の袋を差し出す。
「三人とも、準備はいいね?」
どうも、と会釈するコオリに手を振ってから、改めて自分が指揮するフリートレス達と繋がるアドミライザーの画面を見る。
再び場所は変わって、ちょうど敵と陸奥の中間地点。
「オッケ────────ッッ!!!
遅かったじゃーん、ショウっちぃ?
ひょっとして出番なしぃ?なんて思っちゃったじゃーん?」
マイクの様な物を片手に、耳のヘッドセットを押さえてそう叫ぶ金髪ツインテールのフリートレス。
金剛型
「待ちかねたぞ!!!!
提督、この
さっさと攻撃指示をくれ!!
突撃指示でも良いぞ!!」
青い長髪を後ろで束ね、キリッと切長の目にやる気を燃やす、高雄型
「……あ、愛宕ちゃん……?ダメだよ、提督さんにそんな風にせかしちゃ……ね?」
「
「ひえ!?アタシなんか悪いこと言った!?!」
そんな愛宕そっくりだが、目じりが下がり気味で気が弱そうなメガネをかけた方、こと同型ネームシップの『高雄』が情けなく叫ぶ。
「お前と私がいれば無敵とはいかんが敵は少ない!!
その上で霧島殿がいるのになんだその弱気は!?」
「ひえぇぇ!!そんな暑苦しい事より提督の指示を聞こうよぉ〜!!」
『そうしてくれると嬉しいかな?
でもやることは簡単だ。先制攻撃するだけだからね』
そう言われて、即座に愛宕と高雄も自らの主砲、そして雷装を敵の方角に向ける。
なお、密かにドヤ顔を見せている霧島は、その態度とは裏腹にすでに戦艦として主砲を向けていた。
『セオリー通りなら、コオリの五航戦の二人の航空攻撃が最初だけど、この距離でみんなの展開に詰まったからね。
高雄、愛宕はもう少し前に出て。
まずは、戦艦と重巡の砲撃で、盾になっている護衛艦『ひえい』の辺りから攻撃を開始する』
高雄、愛宕が自らの主砲ともう一つの武器の射程のために先行して距離を積める。
同時に、彼女達の上空をブゥンと風を切る音と共に翔鶴達の艦載機ドローンが飛んでいく。
「ところで那珂ちゃん夕立ちゃん達四水戦は?」
『もう前にいるよ。
ガオウも遠慮なく撃ってほしいって』
「わーお!
これじゃあ、『
じゃあ、と霧島は、早速砲撃を開始した。
「聞こえたな高雄!!!」
「じゃあ、酸素魚雷、発射!!」
同時に前に出た高雄と愛宕は、魚雷と主砲を同時に発射した。
***
フリートレスは、第二次世界大戦期の軍用艦艇と同じ名の分類が存在した。
現在もっとも決戦兵器としての活躍をする、大口径砲による火力と長射程砲撃能力や装甲、フリートレス固有の異能の中でも強力無比な力によって戦う最も強く最も強力な反面、フリートレスとして適性個体が少ない貴重な個体。
最近になり生まれた、無人航空ドローンを操作しアウトレンジ攻撃や飛行する敵に戦える個体群。傾向として並列思考能力なども高い個体が多い。
最も幅広い役割を持つ巡洋艦型フリートレスの中でも、現在各国で主力や支援の要となる火力と速力の両立した個体群。
そして、
「うわぁ!?」
護衛艦『ふそう』も、D.E.E.P.の『津波』の直撃を喰らった。
駆け上がり、確実に人間のいる方向へ向かい迫る人魚の様な美しい怪物。
「くそ、お前らに喰われてたまるか!!」
懐から取り出した拳銃を放ち、軍人が叫ぶ。
しかし、D.E.E.P.達は笑って銃弾を避けずに穴が開き、そして即座にその穴は塞がる。
「喰われる、という表現は違う」
そして、妙に綺麗で優しげな女性の声でそう答える。
「私たちは怪物じゃない」
「私達はただ救いたいだけ」
「ここにいる生き物達もかつての私達と同じ」
「同じ過ちを辿っているから……救おうとしているだけ」
周りの人魚の口から、ハッキリと陽元の言語で、
しかし、まるで複数人が一人の意思を区切りながら語りかける様に言葉を紡ぐ。
「情報通りか。声真似だけは上手い!!」
「声真似じゃない。私たちの中にあなた達の仲間がいる」
「彼らもちゃんと生きている」
「だからあなたも……一つになりましょう」
────D.E.E.P.の目的は、接触の最初期から判明している。
それらの目的は侵略でも絶滅でも無い。
『救済』である。
生物的にも、意識としてでも一つになり、同化する事であらゆる争いの元を断つ。
そう、それらに敵意はない。まして人類を滅ぼそうと思ってもいない。
ただ、思想・人種・宗教、その他あらゆる理由で一つになれない人類達を物理的に一つになることで救うべくやってきた。
「いやだ……絶対に嫌だ!!!」
そんな救いを容認できるはずがない。
今にも迫る軍人達は、全力で争い、武器を取る。
それは、今日に至るまでの地球上全ての争いの根本的な原因でもあり、肯定できるとも言えない感情。
自分は自分であり、他者とは違う。
他者と同じ物にはなりたくはないし、なることができない。
誰もが心に存在する意識からくる、激しい抵抗だった。
「かわいそうに……今その苦しみから救ってあげる」
D.E.E.P.の無数の手が、弾切れを起こした銃を捨てて這う様に後退する軍人に伸びる瞬間、
─────ブゥゥゥゥウウウウウウウンッッ!!
一瞬耳に届いた風切り音。
見上げたその顔に落ちる、爆弾。
ボォン!!!!
その爆発は、威力もさることながらこれまでとはその効果が違って。
『アアアアアァァァ──────ッッ!?!』
直撃し、燃えただれれていくD.E.E.P.の身体が、ドンドン溶けて行き余りにも短い間に透明な水となって消える。
そんな、人魚を海に戻す魔法かのような爆弾が、伏せた軍人達には一切当たらない恐ろしい精度でD.E.E.P.だけを駆逐していく。
「あれは……!!」
遠い夜空に、一瞬爆発する光に照らされて見えた小さなレシプロ機。
事実ある意味でラジコンでもあるそれは、
「『彗星』……!
ということは、空母の子が!?」
瞬間、『ふそう』の側面の海から水柱が上がり、吹き飛ばされた人魚が水に消えていく。
説明しよう。
フリートレスの血液『フリートブルー』。
それはただ青いだけの血ではない。
対D.E.E.P.細胞破壊生体組織であり、ある種の触媒を混ぜることで燃料や爆発物と化す。
ただし、彼女達の対外に出たフリートブルーの劣化は速く、最も効果を発揮するのは彼女ら自身生きた状態ですぐに打ち出した時である。
兵器としての威力もありながら、こうやってD.E.E.P.という存在そのものに対してあまりに致命的な毒として、まさに対D.E.E.P.兵器として破格の性能だった。
『CICより各自被害報告!』
『こちら船底部B-24ブロック!
軽度の浸水あるも応急処置、航行に問題なし!!』
『了解。
各員、『ふそう』はこれより後退する!
機関最大船速、とーりかーじいっぱい!!』
直後、慌てて船内へ戻ろうとした軍人達の足場が大きく傾いた。
同時に、D.E.E.P.の群れがいた方向から次々と水柱が上がる。
「酸素魚雷か!?
よくもまぁ、こんなギリギリで信管設定を……!」
ザパーン、と本物の大波を被った瞬間、入り損ねて耐える軍人の目の前にそれが見えた。
護衛艦『ふそう』にかぶる波に乗り、飛び出した勢いのまま上空を越える、鋼鉄を纏った乙女達を。
「フリートレス……!!」
「全艦突撃!!
水雷戦隊魂見せるよみんな!!!」
『了解!!!』
陽元の思想としてそれは、
そして、率いられる
俗っぽく言えば『最初に戦場に殴り込む』。
あるいは、支援を受けて戦場に突撃を仕掛けることこそが彼女ら
ボォン、と後ろから高雄達
「魚雷のおかわりのお届けですよ、オラァッ!!」
即座に魚雷を発射し、大火力とフリートブルーの毒性を乗せた爆発で敵を倒していく。
圧倒的だった敵の津波の様な数で埋め尽くされた海で、数分で1/5サイズに穴が生まれる。
「どうです化け物ども?
まだやる気で!?!」
夕立が啖呵を切って、その右手で持った12.7cm連装砲を向けたD.E.E.P.の表情が、初めて忌々しさに歪んだ。
***
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