第2話 映像



 翌日。


 特に予定のない休日だった。

 それもあって、昨夜、あの怪しいDMに付き合ったのだ。

 


 いつも通りの起床時間。顔を洗って、髭を剃る。


 一応、出かけるつもりだ。心当たりの女性がいる場所へ。



 

 ふと、スマホを手に取ると。

 

「おいおい、マジかよ……」

 

 通知バナーの件数が、四十二件。全部あの"しあわせな一時を"からだった。

 


 時間を見ると、十分に一件送り付けてきていたようだ。


 


「……コイツ、絶対まともじゃないな……。でも、も使えるかもな……」


 内容は、全部確認の催促だった。


 時間間隔も一定で、文章内容もほぼ一緒だ。時々、異常なほど丁寧な文面になっているようだが……。


 まぁいい。通知はオフにしておこう。そもそもフォローはしていない。既読は付けてしまったが、問題ないだろう。



 


 ひとまず、ダウンロードしておいた画像、計四枚をPCに移す。


 拡大してみると、最初の画像だけがグレーニットワンピで、他の写真はそれぞれ違う服装だった。

 Tシャツ姿やタンクトップ姿すらある。


 だが、一枚はやたらと遠くから写したような、コート姿の画像だった。これは微妙だが――楽しみが増えたな……。自然と上がる口角を手で押さえた。

 

 


 次に、音声を聞いてみる。


 

『――もしもし? え? ……うそ――』


 音声データはこれだけだった。

 


 おそらくは電話をしていたらしき、九秒の音声。


 少し遠いようで、ノイズ混じり。はっきりと聞こえなかったが、綺麗な声だと思う。もっといい音声はなかったのか……。




 

「これ、動画はどうなんだ……?」


 ファイルをタップする。


 

「……ん? 音がないな……」


 動画は音声がなかった。音量を最大にしても、ブツッブツッと、奇妙な羽虫の音のような雑音が聞こえただけだ。期待外れだな……。

 


 しかも、グレイのニットワンピの美女が、歩いているところを――斜め上から撮っているような画角だ。


 これ、盗撮か……? どこからの撮影だ? 画質もやたらと荒い。何の映像だ?


 正面じゃないから、同一人物なのかが分からない。スタイルの感じは一致している気がするが。


 ただ、この美女……何かに追われているのか? 早足で、何度かキョロキョロとせわしなく後ろを振り返っている。

 

 

 もしかしたら本当に、"幸せな一時を"は、この女性のストーカーなのかも知れないな。


 そして、この女性は地元から逃げ出した――。



 確かめてみよう。そう思い立ち、十四秒しかなかった動画を止め、家を出た。

 


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